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エピローグ

 そんなわけで今僕はここにいる。異世界に来てから、結構な月日が流れた。最初はたった一人だったのに、今では人数が増えて秘密兵器を使うまでになった。感慨深くなるのも当然と言えるだろう。

 すれ違う兵士たちに挨拶を返しながら、エース機の下へ。そういえば、エース機も今では多くなったものだ。調子に乗ってとんでもなくピーキーな機体も作っちゃったけど、上手く使っているようで何より。


 「すまないな、ヨロズ殿。なるべく早く終わらせようとは思うのだが」

 「いやいや、大丈夫さ。手を抜いて人が死ぬより、ぶっ倒れるまで努力した方が性に合うからね」


 真っ赤な髪を後ろで縛り、スッと切れ長の目をした騎士団長さんが頭を下げる。スタイル抜群、性格もよし、加えて家庭的なところもあるなど、肩書きさえなければ即座に結婚を申し込まれてそうな人である。まあ、強さ以外にも付き合わない理由はあるんだけどね。それはまた別の話ということで。

 僕が笑い飛ばしてみせると、なんだか微妙な顔をされた。あれ、変なこと言ったかな?


 「………笑いごとにならない冗談はやめてくれ…………」

 「あー……なんか、ごめんね?」


 そういや、どっちも経験があるのだった。死人が出たときは凄まじいことになってたし、僕が倒れたときもここ全部を巻き込んだ大事件へと発展した。これは確かに笑えない。不適切だったと思うので、素直に頭を下げた。

 むこうも掘り下げる気はないらしく、気にしないでくれと手を振っていた。やっぱりいい人だよねえ、団長さん。みんなに慕われてるはずだよ。


 「うーい、お疲れさーん」

 「あ、お疲れー」


 僕の横を自然な様子で通り過ぎて行く男の人。少しして気付いたのか、団長さんが怒りの声を上げた。


 「ローラン!わざわざメンテナンスに付き合ってもらっているのだぞ!終わるまではここにいるのが礼儀というものだろう!」

 「俺は行かなきゃいけないところがあるんですよ~。いつも通りに仕上げてくれりゃー大丈夫、ってことで許してくれやー」


 そう言うや否や、あっという間に姿を消してしまった。流石は元隠密部隊隊長。逃げ足、隠れ身はお手の物ってことだね。

 感心していると、怒りで顔を赤くしている団長さんと目が合った。開口一番に頭を下げられる。


 「すまない……!ローランには後で私からきつく言っておく!無礼を許していただきたい………!」

 「あはは、大丈夫だよ。気にしてないし。生を楽しんでるようだし、邪魔しちゃ悪いしさ」


 あの様子だと、カジノまで行ったのかな?もしくは酒場かもね。作ってみたところ、男の人たちからは大反響だった。賭け事や酒が好きなのは、どこに行ってもあまり変わりがないのかな。そうだとしたら、作ってよかったと思う。

 ただ、真面目な人からすると、不謹慎に見えるらしいんだよね。こんな非常事態に遊んでいるなんて何事だ!って。団長さんはこっちのタイプだから、ちょっと困っちゃう。彼らの気持ちがわからないでもないからね。


 「戦場だと常に気を張っちゃってるんだから、息抜きぐらい必要さ。大目に見てあげてよ」

 「し、しかし……せめて、やるべきことをやってからでないと………」


 団長さんは渋い顔。そこに最悪な人物が加わってしまった。

 団長さんの後ろからやって来るのは、やや身長が低めの女の子。145cmぐらいかな。やや赤が混じった茶色の髪をショートボブにしている。気の強そうな顔つきで、胸は慎ましいかな。帯剣してるんだけど、どうも似合わないというか。可愛らしいという言葉が合うような少女なんだよね。


 「団長!お疲れさまでした!」

 「ああ、お疲れ。メンテナンスをしてもらうからな。お前もちゃんと残るんだぞ?」

 「はいっ!よろしくお願いします!」


 律儀に頭を下げるんだけど、そこまでしなくてもいいのにな。真面目なのはいいことだけど、あんまり肩ひじを張っているとばてちゃうだろうし。戦いはまだまだ続くのだし。もうちょっとリラックスして臨むのがいいと思う。ここにいるときなんかは特にね。

 最初はこの子も僕に目くじら立ててたんだよね。男でありながら、戦わないとは何事だ!とか。後ろに隠れているだけで恥ずかしくないのか!とか。とにかく突っ掛かってくるものだから、ばったり会ったときは面倒なことになるなと思ったものである。今は角が取れて、丸くなったけど。

 で、この子団長さんが団長さんを信奉していて……もとい、過剰に尊敬しているので、面倒事に発展する確率が高いのである。今も、さっきのローランさんを怒っている様子。


 「それは許せません!勝手に遊びに行くなどと!騎士とは何かをわかっていないのですか、あの男は!」

 「そうだな。こちらは貰ってばかりだと言うのに、あの態度……きちんと灸を据えねばならん」

 「その通りですね!」


 ああ、もう同調しちゃって……気にしてないからいいって言ってるのに。とはいえ、女子にはあんまり酒やギャンブルに溺れるイメージがないし、仕方ないのかな。夢中になれることがあるってことは、いいことだと思うのだけど。破滅しない限りはね。

 んー、としばらく考えて、近くを通る女の子の騎士に声を掛けた。勿論顔見知りだ。


 「ちょっといい?」

 「は、はい!なんでありましょうか!?」


 畏まった形で敬礼する彼女に、そんなに堅苦しくなくていいからと苦笑する。まったく、男の人たちに比べて女の子たちは硬さが抜けないんだから。


 「あのさ、休日を与えられたらどう過ごしたい?具体的に言ってもらえると嬉しいのだけど」

 「そ、それはお役御免とかそういう………?」

 「そうじゃないって。そんなに怯えた顔しないでよ」


 カタカタと震える騎士さんに、思わず半眼になってしまった。僕って怖い顔してるのかな?それはそれでショックだ。

 僕たちの会話を聞き届けたのか、団長さんとあの子――――ラウラちゃんが会話に加わった。僕の後ろから顔を覗かせる。


 「どうしたのだ、ヨロズ殿?何か粗相でも?」

 「いや、そうじゃなくてね?君も顔を青くしないでいいから。話進まないからそろそろ進めさせて?」


 騎士さん、もはやプルプルと雨に濡れた子犬みたいだった。いじめてるつもりはないのに、僕が悪いみたいじゃない。はあ、とため息をついて、本題に入る。


 「要はさ、男ばっかり楽しんでるからいけないんでしょ?女の子も楽しめるような場所を作れば解決なのさ」

 「い、いや、それはヨロズ殿に悪いだろう………」


 ポンと手を打ち、満面の笑みで言ったのだけど、周囲の反応はいまいち。むう、ほんとにお堅い。


 「別に、真面目にしているのが悪いとは言わないけどさ。常日頃からそうだと、どこかで潰れちゃうよ?まだまだやることはあるんだから、どこかで息を抜かないと。そのためには楽しめるところが必要じゃない?」


 そりゃあ、真面目にやってもらってればこっちはありがたいですよ。役目から早く解放されることになるだろうし。けど、それで誰かが潰れてしまうのであれば、それは少し違うと思う。そんな平和は僕が欲しい平和じゃない。

 しばらく無言の時間が続くと、騎士の子がおずおずと手を挙げた。団長さんもラウラちゃんも咎めるような目を向けたが、それは無視。なるべく優しく聞き出そうとする。


 「そ、その。できれば甘いものを食べたいな、と……それなら、合間程度でも大丈夫ですし………遅くまで空いていれば、帰る前にちょっとだけ食べることも、できるかな、と…………」


 消え入りそうな声。団長さんはともかく、ラウラちゃんの方も肩書きはちゃんとしている。二人の怒りを買うのが怖いのだろう。


 「よし、それ採用で」

 「へ?」

 「甘いものかあ……普通はケーキだよね?でも、作れないからな………師匠案件かねえ?」

 「え、いや、あの………?」


 戸惑う彼女をよそに、携帯電話を開く。ゲームアプリなんか作っている暇はないし、思いっ切りガラケータイプにしてる。スマホだとうっかり落としたり、踏んだりしたら大惨事だから。

 番号を押して、通話開始。すぐに出てくれるといいのだけど。


 『あなたは何を考えているのですかー!』

 「え?……なんで怒られてるんです?」

 『前に!睡眠時間は!きっちりと!取りなさいと言ったはずですよね!』

 「あー………」


 開口一番、師匠――――ゲイムロルさんに叱られた。うん、理不尽。ま、僕が悪いんだけど。


 「寝てますよ、ちゃんと?」

 『何時間!?』

 「15分です」

 『それは寝ているとは言わないんです!』


 師匠の怒りは変わらない。というか、むしろ上がっている気がする。とりあえず、宥めすかすしかないや。頑張って、謝り倒した。


 『で、今日はどんな用で?あなたのことですから、どうせ頼みがあるのでしょう?』

 「あ、はい。ケーキの作り方を調べてくれないかと思いまして。なるべく種類は多めでお願いします」

 『……何故です?』

 「いや、女の子たちにも休暇で使えるスペース作りたいと思ってましたし。スイーツバイキングでも作ろうかと思いまして」


 ケーキの作り方を知りたくなった(くだり)を説明していくと、盛大にため息をつかれた。ひどいですね、師匠。


 『あなたは自分の休暇について考えなさい……この件はあのリューという子に話しておくべきですね………』

 「え、それはやめてほしいんですが」


 リューさんだったら、強制的に休ませに掛かるじゃん。まだまだやることたくさんあるのに。


 『……わかりました、調べておきます。その代わり、しっかりと休みなさい。今日あたりにガタが来る時期でしょう?』

 「あー……まあ、はい。今日は早めに終わらせます」

 『いいですね?もし休まないようなら、作り方は教えませんよ?』

 「はーい、休みまーす」

 『わかっているのですか、本当に………?』


 疑わし気な声が耳元で響く。こっちに来てから、心配性になったよねえ。それだけ無茶してきたってわけなのだけど。


 「わかってますよ。ちゃんと休みます」

 『それならいいのですが………』

 「よろしくお願いします。それと、ありがとうございます。師匠」

 『…………ッ!き、切りますよ!休憩と睡眠はとるように!いいですね!』


 何度も念押しする師匠に、苦笑しながら頷いた。師匠のことだから、きっと夜までには調べ上げているだろう。そういう人だし。


 「と、いうことで作ります。作っちゃいます。これは決定事項ね?」

 「ヨロズ殿………」

 「他にも作るから大丈夫だって。さて、メンテを始めよっか!」


 呆れたような顔であったが、僕はこういう人間だ。それは今までも変わらないし、これからも変わらないと思う。

 大きく伸びをして、エース機の下へと向かっていった。早く終わらせないとね。

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