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25話

 「それじゃあ、お世話になりました」


 ぺこりと頭を下げる。いまだに違和感は残っているけど、それは体を使っていれば慣れてくるだろうとのこと。違和感の正体はヴァルハラでの技術や訓練がこの体に反映されているからだし。時間が解決してくれることなのだ。

 見送りに来てくれたのはかなり多い。神様は忙しい(らしい)からそんなに見ないけど、ヘイムダルさんとミーミルさんはいる。ゲイムロルさんは当然の如く。ヴォルフ、モネも加わっていた。そこまではまあ、予想できてはいたんだ。ただ。


 「まさか、訓練生総出で来るとは思ってなかったよ………」

 「いやいや、それだけ世話になったってことさ」

 「いい刺激になってたぜ?」

 「モテてるところを見るのはあれだったけどな」


 男勢はあっさりとしたもので、皆笑って送り出している。確かに今生の別れではないし、そこまで悲しむこともないのかな?実際は死んでから来るわけだから、今生と言うのにはおかしいけども。

 対して、女の子たちの方はもうヤバい。なんとか耐えられてる子もちらほら程度にはいる。が、泣いてる子の方がよっぽど多い。引き留めようとしているのなら、かなりの策士だよ。こんなところを見せられると、行かない方が正解なのでは?と思っちゃうし。


 「はいはい。悲しんでくれるのはありがたいけど、行くことは決まっちゃったからさ。行かせてくれないかな?」

 「やだー!」

 「ここにいてよー!」

 「おうふ、即答ありがとー」


 泣き付く子たちを順番にあやしていくのだけど、殺気が感じられるなあ。しかも、徐々に強まってくるし。ええ。男衆とモネさんからですよ。

 様子を見ていた神様2柱がため息をつく。いや、つきたい気持ちもわかりますよ?でも、努力してもどうにもならないことだってあるんだよ?


 「お主、いつか刺されそうじゃな………」

 「……薄々、そんな気はしてます………」


 頭が痛い。思わず額に手をやってしまったほどだ。誰とも付き合う気がないと言ったのにどうして……いや、いまだにフリーなのがいけないのかな。だとすると、どうしようもないのだけど。

 とりあえず宥めに宥めて、納得してもらった。いつかまた会えるから、という理由で。……うーん、次に会うときにまではいい案が思い浮かべばいいのだけど。


 「別れ、か。結構な時間お前と過ごしたからな。寂しくないと言えば嘘になるか」

 「………そういう表現、誤解生みそうだからやめない?」


 まだ死にたくないんだけど。ヴォルフの彼女とモネから殺気食らうんだけど。ここで死んだらそれこそ笑いものじゃんか。

 ヴォルフも気付いたのか、慌てて取り消した。ヴォルフをしても、やっぱりモネは怖いらしい。


 「じゃあな。また会おうぜ」

 「うん。元気でね」


 拳をぶつけて、互いの健闘を祈る。この友人にはそれだけで十分だろうから。ニッと笑って、言葉はそれだけに留めておいた。

 次に僕の前へと来たのはモネ。この子との付き合いも長くなったよね。もう5年だっけ。……5年で変わり過ぎちゃったけど、それは頭から追い出そう。考えたくない。


 「やっぱり、私も………」

 「駄目だよ。呼ばれたのは僕だけだし……何より、今の時点で十分危ない橋を渡らせちゃってるからさ。これ以上は背負わせたくなんてないんだ」


 ちらりと見るのはミーミルさん。本当は作った魔道具をすべて持っていくなんてこと、許されるはずがないのだ。そもそも論として、それらの中には一つ使い方を間違えただけで、容易に世界を滅ぼせるものだって存在する。一応封印は掛けているけど、何があるかわからないってのが現実。安心はできない。

 そんなものを持っていこうとしているのだから、もはやテロリストと認定されても仕方ないほどである。僕に直接ものを言えないなら、監督責任として責められるのはミーミルさんだろう。それを覚悟の上でやってくれたのだ。これ以上罪を重くさせたくはなかった。

 それでも納得はいかないらしく、しばらく駄々を捏ねていた。……あの頃のクールだった彼女はどこに?苦笑いしかできないよ。


 「はい、これ」

 「………これは?」


 まさかこんなことがあるかなと思って、用意していた物が役に立つとは。備えあれば患いなしだよ。アイテムボックスの中から折り畳み式の魔道具を渡す。日本人……というか、地球の人なら見ただけでわかるだろう。それは………


 「携帯電話だよ。魔力で動かせるようになってて、それを使えば僕に電話が掛かるようになるからさ。寂しいときは僕に電話して来てよ。それで許してくれないかな?」


 ………滅茶苦茶大変だった。携帯型の電波受信機を作って、それがそれこそ世界を飛び越えても大丈夫になるまでに実験を繰り返して。こっちにも受信機を作らなきゃだから、突貫工事で作って。終わったときにはもはや徹夜テンションでおかしくなってたよ。それでもなんとかなったから、よかったのだけど。

 説明を受けてるうちに、段々とその顔は喜色満面となっていく。結構嬉しかったのかな。それなら作った甲斐があるのだけど。


 「ただし、掛けてくるのは1日1回まで。それ以上掛けようとしたら、自動的にロックが掛かるからね?」

 「どうして!?」

 「いや、僕の方こそどうしてだよ。無制限にしたら、1分に1回ペースで掛けるでしょ、君は………」


 モネのことはちゃんとわかっているつもりだ。何も対処しなければしないで、絶対に行こうとしている世界にやって来る。かと言って、電話に何もしなければずっと電話をしようとするだろう。こうしないと、おちおち寝てる暇もなくなりそうなのである。

 明らかにしょげている彼女に、また会えないわけじゃないからと念押しして押し通した。もとい、説得した。

 え、他の女子の分?流石にないよ。全部作ったら、それこそ行動する時間が消し飛ぶ。あくまで、必要性がある人にしか作ってないのだ。


 「では、達者でな」

 「月並みではあるが……お前の幸運を祈っている」

 「はい。ありがとうございます」


 神様は至ってシンプルな言葉だった。自分たちのせいで無茶をさせるのだから、それ以上の言葉はとてもじゃないが言えないと思ってるのかもしれない。


 「……無理矢理送られる形にはなりましたけど、本来ならもっと希望のない状態で送られることになってたはずです。それを救ってくれたんですから、気にしないでも大丈夫ですよ」


 だから、僕が動く。気にしなくていいと。十分救われているのだからと。


 「………すまんな」

 「だから大丈夫ですって。案外、当たらないとわからないことだってあるんですよ?」


 神器(アーティファクト)を作れることなど、ここに来てなければわからなかったことだ。それと同じ。これから先のことは僕にだってわからない。でも、それが悲しいことだけしかないということかどうかだってわからないはずだ。


 「僕なら大丈夫です。どんと任せといてくださいな」


 胸を叩いて見せると、2柱の神は苦笑していた。何か変なことでもあったかな?まあ、気にしなくなったのならいいや。

 最後の人へと向き直る。僕をここまで育ててくれた、一番の恩人に。


 「………………」


 あ、ゲイムロルさんがフリーズしてる。何を言えばいいのか、頭が混乱状態なんだ。


 「……あの」

 「は、はい?何ですか?」


 いつまで経っても話が進みそうにないので、僕から声を掛けることにした。驚きで声が裏返っていたけれど。


 「ゲイムロルさんにも一つ。もし気になったことがあれば、掛けてきてください。直しますんで」

 「は、はい………」


 用意しておいたもう一つの携帯電話を手渡す。これから行くところには何があるかわからない。この人の知恵は必要になるはずだ。……一人でできる特訓にも限界はあるし。直すべきところがあるなら、指摘してほしいと思ったから。

 彼女は携帯を懐に入れると、ハッとした表情になる。なんだろうと思っていると、一つの袋を手渡された。


 「これは?」

 「あなたの旅立ちに必要だと思ったものです。毎日やっておくべきトレーニングの内容と、サバイバルに必要な知識。それと、少し便利な道具です。持っていくといいでしょう」


 手渡したゲイムロルさんの頬は赤い。気付かれないようにはしてるけど、きっと寝ずに考えていてくれたのだろう。そういう人だから。


 「ありがとうございます。大事にしますね」

 「ええ。そうするといいでしょう」


 照れている顔はここに来たときには想像できなかっただろう。貴重なものを見れたな、と笑ってしまう。むこうはなんですか!と怒っていたけど。照れ隠しで。

 ひとしきり笑って、姿勢を正す。ゲイムロルさんは?を頭に浮かべている。


 「今までありがとうございました。あなたのおかげで、ここまで成長することができました」

 「な、なんですか。急に改まって………」


 深々と頭を下げると、戸惑った声が聞こえてくる。その疑問には答えず、言おうと思っていたそれを口にした。なんだか気恥ずかしくて、口には出さなかったそれを。


 「これからも頑張りますね。師匠(・・)

 「………え?」


 呆けたような顔。今日は珍しい顔がよく見れるな、と思いながら、背を向ける。行くべき道はもう示されている。あとはこの真っ直ぐに伸びた道を歩いていくだけだ。


 「………ッ、あなたは本当に馬鹿です…………」


 後ろから聞こえる師匠の声は涙混じりだ。悪いことしちゃったかな、とも思う。泣かす気はなかったし。


 「あなたは!私の自慢の弟子です!それを忘れずに覚えていなさい!」

 「はい!」


 振り返った先にいた彼女は涙を流しながらも笑っていた。相変わらず、強い人だ。実力だけじゃなく、心も。だから、あの人に恥じないように、僕も笑うのだ。大丈夫、と。

 親指を立てて、その声に応える。もう、振り返ることはなかった。

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