24話
「荷物を整理しなさい、か……魔道具は持ちこんじゃダメみたいだったし、誰かにあげられないかな………?」
ゲイムロルさんとの最後の鍛錬を終え、部屋へと戻る。その前に、入り浸っていた加工室、というか魔道具を作っていた部屋を訪れていた。机や床にはいくつもの魔道具が散乱していて、設計図や道具も放りっぱなしだ。改めてみると汚い部屋だね、と苦笑してしまう。
神様が言うには、ここで作ったものは持ち込んじゃいけないみたい。あくまで現地調達。これのみ認められてるらしい。でも、出来が良かったり、思い入れがあったりする魔道具だってたくさんある。素直に捨てられるわけがなかった。
例え、他の人が失敗作と断じようとも、捨てられないものもあるし。というか、作ったものを基本的に捨てることはできないのだ。作った者なのだから、そこだけは越えちゃいけないラインだと思ってるし。
「んー……でも、基本神様たちって宝具持ってるんだよねえ。大体のことはそれで済むし、自分の仕事以外のことしたら怒られるみたいだし………」
困ったな、と思いながら、魔道具を何の気なしに整理していく。せめて、何があったのか、どんな形だったのか、そこから何を感じられるのか。それをきちんと覚えておくために。それをどうするのかまではまだ決められてない。でも、整理しないことにはなんともできないし、分けていくのが無難だろう。
「む、間に合ったか。それならば良い」
「あ、神様」
作業を続けていると、唐突に神様が現れた。今回はミーミルさんだ。こんにちは、と頭を下げる。本当は平伏なり何なりしなくちゃいけないんだろうけど、そんな余裕が今はないし。まあ、むこうも気にしてないし、よかったんだけどね。
「えっと、今日はどうしてここに?何かやらかしましたか?」
「……そうだな。こちらがやらかしたので、少し詫びを、と思ってな。君には迷惑を掛けることになる。すまない」
神様が頭を下げる。僕は目を瞬かせて、首を傾げてしまった。
「つまり?」
「詳しくは言えんが、君には世界を救ってもらわなければならない。しかも、難易度は先に送られた者たちよりも飛躍的に上がっている。困難が多く……いや、誤魔化しても仕方ないな。困難しかない、と言えるだろう」
「ええ………?」
渋い顔どころか、苦々しい顔を隠せない。いや、だってそうでしょ。僕、普通の人間だし。なのに、いきなり困難ばっかりのとこ行ってきてね、とか言われても何も嬉しくないよ。そんなに苦難上等!な人じゃないし、Mでもないし、バトルジャンキーでもないし。
それに、チート持ってる人よりも大変、なんて言われれば、やる気は駄々下がりだよ。はふう、とため息をつく。
「まあ、拒否権はなさそうなんで、ちゃんとやりますよ……ゲイムロルさんにもそう約束しましたし」
あはは、と渇いた笑みを浮かべ、なんとかそうとだけ返した。ああ、大変だね。すぐに死ななきゃいいけど、と考えを巡らせる。
でも、ミーミルさんも悪い人……と言うか、神様じゃないんだよね。僕のことも考えてくれてたみたい。僕の作った作品を指して、とんでもないことを宣った。
「すまないな。私の方からも話を通しておいた。ここにある、君が作った魔道具たちはすべて持っていって構わない」
「ほへ?」
目が点になってしまう。全部?全部って言ったの、今?
「全部、って……あれも?」
僕が指で示したのは、僕が作った中でも超大作……いや、どれもこれも大作なのだけど。物理的に、超大作なものがデン!と鎮座しているのだ。この部屋に仕舞い切れないので、格納庫を作ってそこで管理してるほどのやつが。
ミーミルさんはあっさりと頷いた。心の中では思わず、軽ッ!?って叫んじゃった。
「ああ。むしろ、あれがないと不便だろう。遠慮はせずに持っていくといい。護符や武器、アイテムボックスも自由にするといい」
「……ほんとに?あとでやっぱなし、とか言われても困るよ?」
「それはないから安心せよ。……むこうに送りさえすれば、口出しはできんからな」
……バッチリ聞こえたんですが。ミーミルさん、意外と悪ですね。
にゃはは、と苦笑いをしつつも、荷物をまとめる作業を再開するのだった。でも、それは予定していたよりもずっと早く終わりそうだ。
「すまんな。本当に」
「今さら謝らなくても……もう確定事項なんですよね?それなら文句言ったところで、何も変わりやしませんよ」
それに、ミーミルさんだってギリギリのことをしているのだろう。恐らく、ここにある魔道具を全部持っていってもいい、と言うのも実際はミーミルさんの立場をかなり厳しくするものだろう。だって、持っていくなと言っていたのは最高神たち……ここで言うならオーディンなのだから。わかりやすく言えば、会社で部長が社長の意向に歯向かっているようなものだ。不都合なことが起こらないとは、とてもじゃないけど言えない。
「………恨むなとは言わぬ。だが、これはあくまで我らの判断だ。ゲイムロルは関わっていない。あやつのことは…………」
「……?恨む気なんてないですけど?」
思わず首を傾げてしまう。なんで恨まなきゃいけないんだろ、と。そんな僕の様子に戸惑ったのは神様の方だ。
「ま、待て。我らがしたことが許せないなどとならないのか?勝手にお前の行く先を決め、苦難の道に放り込もうとしているのだぞ?」
「いや、元々呼ばれたのはたまたまなわけですし。そもそも、決定したのは最高神たちですよね?ヘイムダルさんやミーミルさんに当たるのはお門違いじゃないですか。さらに言うなら、ゲイムロルさんは僕を育ててくれたわけですし。感謝はあれど、疎む気持ちなんてさらさらないですよ」
そう。悪くもない人たちに当たるのはお門違いだろうし。いやまあ、人ではないけども。ゲイムロルさんだけじゃなく、ミーミルさんにもヘイムダルさんにも十分よくしてもらったのだ。それを仇で返すような真似はしたくない。それをしたら、正直自己嫌悪に陥りそうだし。
「……強いのだな、君は」
「そうですかね?普通だと思いますけど?」
その後、少し話をして別れた。今が忙しいことも承知しているのか、邪魔をしたくないかららしい。また、むこうへと向かう日も教えられた。残された時間は1週間だ。




