21話
少しも嬉しくないのだが、危惧していたことは当たっていたらしい。ほんとなんでここまで勘が当たるんだか。たまには外れてくれてもいいものなのに。というか、こっちは疲れてるんだからもうちょっと考えてくれないものだろうか。せめて事前に予約を入れるとかなんとかしてほしい。立っているのだって辛いんだし。
話としては『魔神』が勇者だった、ということか。なんとなくそうなんだろうな、とは思っていた。勇者は人族が呼んだ拠り所であり、そうそう負けるわけがないと聞いていた。そんな勇者を皆殺しにできる相手などポッと出てくるとは思えない。特に、悪人はかなり用心深いやつだ。そんなあいつが勝てるわけのない戦いに挑み、尚且つ殺されたなんて考えられない。
「まあ、そこまでいけば後は簡単だ。誰かが味方のフリをしておいて、後ろから攻撃したっていうのが事実だろうなってことさ」
元同級生を平然と殺せるやつもなかなかいない。『魔神』は知人を殺せ、他は殺せなかった。殺さなければいけないと決心しないといけないときには、もうすべてが遅くなっていたのだろう。止められる者も誰もおらず、ただ暴走するだけとなってしまった。なんだかな、と思ってしまう。どうしてこんなことになってしまったのか。高校を卒業し、思い思いの道を進むはずだったのに。勝手に戦わされて、勝手に未来を奪われた。怒ってはいないのだが、やりきれないという気持ちが強い。
後ろのティオは怒っているようだ。それもそうか。人族が勝手なことさえしなければ、こんなことにはならなかっただろうし。リャナンシーの方は複雑そうだった。自分の元々の主、その恋人を殺したのが勇者であれば、自分たちの総大将であった人物もまた勇者であったのだから。何と言えばいいのかわからないに違いない。
「……久しぶりだな」
「ああ、久しぶり。君にとっては1年だろうけど、こっちにとってはそれ以上さ」
「時期がずれたことはそれが関係しているのか」
「そういうことさ」
声を掛けられて気付く。なるほど、確かにこいつならあり得た。嫌な予感がまた当たったな、と肩を竦める。ため息もつきたいところだ。つかないけど。最近ついてないと思うことばっかだし、少しでも運気は留めておきたいんだよね。
「おや、知り合いなので?」
「知り合いも何も、俺の友人であった男だ。万巧。そいつもまた勇者だ」
「そっちはまだ友人だと思ってくれているわけか。御影遊」
仮面を外す。冷たい表情になっているものの、1年程度では変わらない顔がそこにあった。周囲の人は戸惑うばかりだ。当たり前じゃあるか。怒涛の情報が流れてるからなあ。しかも、かなり衝撃的なやつが。
「魔物を使役する能力、かい?」
「いや、従えてはいない。勝手に仕えているだけだ」
「そか。じゃ、生み出す能力とか?」
「そちらは正解だ」
あっさりと自分の能力を答える。そういうやつだしね。ばれても問題ないんだろう。そりゃそうだ、実際にどんな魔物創るかまではわからんわけだし。
「そちらは生産系の能力か。お前らしい」
「あ?一応言っとくけど、これ自前で用意させられたやつだからね?君らがポンポン能力貰うから」
「それは苦労しそうなものだ。だが、できないと言えないのが恐ろしいところだな」
遊が薄く笑う。酷薄な笑みにも見えるが、別に気にしちゃいない。あれが素の笑いだ。あれのせいで誤解されがちだった。
「で、どうする?」
「どうするって?」
「今ならこちらに迎えてもいい。こちらで生きる方が楽だぞ」
手を差し伸べる。ただ、口元の笑みは消していない。僕もいつものように返した。
「答え、わかってるだろ?」
「それもそうだ。お前は頑固者だからな」
背を向ける。もう話すことはないらしい。僕にもない。あいつの顔を見てわかった。あいつにはあいつなりに譲れない理由がある。説得しようとしても無駄だし、止めたければ倒すしかない。
宙に黒い円が現れた。そこに入ると遊が消えた。どうやらあれで来たらしい。
「それでは私もこれにて。またお会いしましょう、勇者ヨロズ殿」
「嫌だね。遊ならともかく、お前とは会いたくない」
「これは手厳しい」
ジョゼフが消える。彼に続くように、次々と魔物も消えていく。そして、僕たちと騎士団だけが残された。
「止めるさ、必ず」
これ以上、この世界を滅茶苦茶にさせないように。
※ ※ ※
あの後、魔物たちの捜索や王都周辺の警備が強化された。折角王都を取り戻すことができたというのに、また魔物に滅茶苦茶されたらたまらないということだろう。HWでの警戒もされ、若干緩んでいた空気も引き締まったように感じる。
が、正直僕としては心配していなかった。そこいらを徘徊している野良の魔物ならまだしも、遊がもういいといった様子だったのだ。あいつの性格から考えても取り戻したところを攻める、というのは宣言があってからに違いない。こちらがあいつのルールさえ破らなければ、ではあるが。
「失礼します」
「どうぞー」
部屋にリャナンシーが入る。この光景も今は見慣れたものだ。彼女には助けられているし、なんなら何も言わずに入ってくれても構わないのだが。彼女も頑固なところがあるようで、ノックと入室前の声掛けは忘れない。律儀だなあ。
「って、どうしたの?」
振り返った彼女は見覚えのある姿ではなかった。元々はもっと動きやすそうな生地の薄い、例えるなら暗殺者のような身軽な服を1枚、多くても2枚着ている程度だった。だが、今の服装は違う。前のように表現しにくい服じゃない。というか、一言で表現できる。
「なんでメイド服?」
「そうしたいと思いましたので」
しれっと答えられた。うーん、やっぱり変なこだわりがある。まあ、いいけども。本人がそれで構わないと言っているのなら、それでいいと思うから。やっぱり人の意思を蔑ろにしちゃいけないと思うんだ。
それはさておき。急にどうしたのか気にはなる。
「着たいと思って着てるんなら気にしないよ。でも、そこに至る理由ぐらいは聞かせてほしいかな」
「そうですか」
それだけ?と思っていたら言葉はまだ続いていた。安心。
「あなたに仕えようと思ったからです」
「それでメイドに?」
「はい。迷惑というのであれば、首を掻っ切りますが」
「思ってないよ。だから、死ぬのはやめて」
助手になってくれそうな人は欲しかったし、それ以前に彼女は優秀過ぎる。そんな子がわざわざ味方になってくれるというのだから、断る理由は見つからない。特に、なるべく多くの味方が欲しい今は。
「ありがとうございます」
「ううん、こっちこそありがとう。でも、僕でいいの?他にも魅力的な人はいるかもしれないのに」
そう口にしてしまうのはいつものことだった。そんな僕を彼女は冷ややかな目で見つめる。
「あなた以上に恩を感じる人がいるとでも?」
「……それはそうだけども」
「それに」
何か言おうとした僕を遮る。
「違う結末が見たいのです」
真っ直ぐ目を見つめる瞳から強い意志を感じる。これは何を言っても無駄かな。肩を竦めた。
「リュー」
「………?」
「前から思ってたんだよね。いつまでもリャナンシー、って呼び方は味気ない。だから、もしよければ今日から君をそう呼びたいんだ。ダメかな?」
彼女は驚いているようだったが、嫌がっている様子は見えない。やがてスカートの端を掴み、優雅に一礼する。本当のメイドのように。
「はい。どうぞあなたのお好きなように、ご主人様」




