22話
「それにしても、随分と人気ではないですか。いつも追いかけ回されているようですが」
「あはは、付き合ってみると意外に面白い人たちですしね。女の子にはできない話もできますし、ああいうのも悪くはないって思います」
隣を歩くゲイムロルさん。……と、どこかからモネが見てる。ストーキングされ続けてるうちに、視線に敏感になってしまった。どこから見てるかまではわからないけど、どこかにいるんだろうな、っていうのはわかる。勿論、集中していれば話は別なのかもだけど。
それはゲイムロルさんも気付いてるみたい。でも、言っても聞かないので放っている状態だ。何か動きを見せれば、即座に動きそうだろうねえ。
「そういえば、この頃はどうなのですか?」
「ああ、魔道具の方ですか?順調ですよ」
気になった様子で聞いてくる彼女に、僕は微笑みを返す。順調、と言うけども、順調に成長しているわけではない。
――――順調に、ぶっ壊れて来てるということだ。
何がどうしてこうなったのかはわからないのに、いつの間にか神器が作れるようになっていた。ある日、突然といった様子で。今では作る物すべてが神器になり、注文が止まらない。作ってほしいと頼みに来る人は余裕で三桁を超え、いわゆる英雄クラスの人までもが訪ねてくる始末。恐ろしい。
先ほど神様が来たのもそれが理由だ。自分のいるところに、神器作成者を引き込みたいのだと思う。なにせ、珍しく理性があって普通に話せる神器作成者らしい。神器作成者は奇人変人が多いそうだし。スカウトが来るのも頷ける。実際、ここ最近僕に自分たちのところに来てくれ、もしくは味方になってくれと神々がひっきりなしに尋ねて来る。今は隣を歩く戦乙女が追い払ってくれることもあるが、どうなることやら。憂鬱にもなってしまいそうだ。
「最近じゃあっちに入るのにも苦労しませんし。実力さえつけば、もう行けるんじゃないかって思いますよ?」
「……あまり調子に乗っていると足元をすくわれますよ?ここはしっかりと足元を固めてからですね………」
「そんな時間はないんでしょう?」
言葉を被せると、ゲイムロルさんは目を見開く。目に見えて動揺している辺り、彼女は気付かれているとは思ってなかったんだろうな。それにしてはお粗末と言わざるを得なかったけど……ショックを受けそうなので、黙っておくことにした。
「な、何故それを………」
「まあ、知る機会があったもので。本当は今すぐにでも送りたいと思っているんですよね?」
「…………ッ」
口を噤んだのが答えだろう。それほど状況は切迫しているということなんだろうね。裏を返せば、危険度具合も上がったということなのだろうけど。
僕に色々と良くしてくれたこの女性は、しばらく無言でいたのだが。意を決したように口を開いた。
「……我が儘なら言ってもよいのですよ?」
「へ?」
「今まであなたを育ててきましたが、これから先に待ち受けているのはこの修行よりもきついものでしょう。どうやったとしても、逃げ出すことはできませんが……せめて、我が儘ぐらいはと思いまして」
……思わず、まじまじとゲイムロルさんを見てしまう。そして。
「な、何をするのですか!?」
「いや、熱でもあるのかと……変なものでも食べちゃいました?」
彼女の額に手を当てると、熱はない。顔は赤くなってるけど、これは異性との触れ合いがあまりなかったからだろう。となると、外的要因なのかとも思った。違ったみたいだけども。
「……この10年。ずっとあなたを育ててきました。あなたの成長も見て来たのです」
「そうですね」
「情ぐらい、移るでしょう。辛い目に遭わなければいいなどとは思いませんが、茨の道を行かせるようなことは………」
ああ、そうか。まだ僕はこの人をわかり切れていなかったらしい。この人も人並みの感情は持っているのだ。自分が教えてきた者を見捨てられないほどには。思わず微笑んでしまう。
「ありがとうございます。でも、僕なら大丈夫ですから」
「ですが………」
「心配なら、生き残る技術を教えてくれませんか?きっと必要になると思うので」
落ち込んだ様子の彼女は見たくなかったので、代わりにそんなことを頼んでみる。しばらくの間驚いてはいたものの、切り替えの速さはこの人らしい。少しだけ微笑んで、僕の手を取った。
「そうですか。それなら、鍛え直してあげましょう。最近はあまりできていませんでしたからね」
「はい、お願いします」
彼女の笑みに応えられるよう、僕もまた笑うのだった。
※ ※ ※
「失礼します」
「来たか。入れ」
厳格な声に促され、部屋の中に入る。そこには難しい顔をしたヘイムダル様とミーミル様がいる。この二人がいるということは、恐らく現状の報告についてだろう。それについては割といい報告ができるのではないかと思っている。
「ゲイムロル。あの子の様子はどうだ?」
「問題ありません。このまま行けば、1年もしないうちに送り出せるようになるかと。魔道具作成においては、もはや師を必要としないほどです。あとは護身の技術のみですから」
今のあの子はやる気に満ちている。と、言うよりはやるべきことを見据えて、できることと真剣に向き合っていると言えばいいだろうか。贔屓目を抜きにしても、よくやっているのだ。この頃は自分の攻撃も躱せるようになってきた上、技術も身について来ている。そう遠くないうちに、太鼓判を押せるようになるだろう。
しかし、予想は裏切られた。それも、最悪の形で。
「それならば、もう大丈夫であろう。近日、あの子を異世界へと送る。伝えておいてくれまいか?」
「な……早過ぎます!最低でも半年、欲を言うのであれば2年は必要です!今送るのはむざむざ死地に送るようなものです!」
あの子の師であるからこそ、わかったことがある。あの子はまだ未熟だ。特に戦闘系の技術は絶望的なレベル。それでも、それなりの形にできたのは弛まぬ努力があったから。むこうへと行けば、そんな暇はないであろうことが容易に想像できる。あの子に課せられた義務はそれだけ大きいのだから。
何としてでも止めようとしたのだが、相手の険しい顔で私は何も言えなくなってしまう。
「勘違いするな、ゲイムロル。これはお願いではなく、命令だ。お前に逆らうことは許されていない」
「しかし!」
「くどい。これは決定事項だ。準備をするように伝えよ。良いな?」
しばし睨み合う。でも、相手は仕えるべき神々。私がここで細やかな抵抗をしても、他の戦乙女が代わりを務めてしまうだろう。他の戦乙女はあの子との関わりが薄い。何の疑問もなく、あの子を連れて行ってしまうだろう。……ろくな準備などさせる暇もなく。
私は血が滲むほどに唇を噛み、首を前に倒す。……そうすることしかできなかった。
「………わかり、ました…………」
「頼んだぞ」
悔しさと憂鬱さでないまぜになった感情のまま、部屋を出る。先ほどまでの気持ちはどこかに消えていた。




