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20話

 「……そうか。もはや、そこまで………」

 「ああ。もうこれ以上余裕はない。不安が残るが、あの子には無理を承知で動いてもらう他ないじゃろうて。申し訳ないというしかないが………」


 向かい合った二柱の神。どちらも顔は苦り切っている。どうしようもないほどに悪い知らせを知り、頭を抱えることになってしまったのだ。


 「止まってはくれなかったのが痛いのう……このままでは、そう遠くないうちに………」

 「それだけではない。最高神たちもまだ楽観しているのだ。状況を正しく理解していないらしい。この期に及んで能力の出し惜しみをするなどと。愚かしいにも程がある」


 ヘイムダルは落ち込んだようにため息をつき、ミーミルは静かに怒っているのかいつになく饒舌だ。だがどれだけ現状を嘆こうと、どれだけ状況を恨もうと、自分たちができることなどない。神々が直接下界に干渉することは禁止されている。干渉しようとしても、効果が発揮されないのだ。必然的に、間接的な手助けしかできない。

 どちらの神もやるせなさからか、深々と息を吐いた。もはや、残された希望は1つしかないのだから。


 「……全滅なのか?」

 「ああ。疑問を持つことをせず、戦い続けた結果だ。一人残らず、殺されてしまった」

 「……本当に、悪いことをした………」


 ヘイムダルが沈痛そうな表情になる。だが、ミーミルは頭を振った。


 「確かに、あの子供たちに悪いことをしたかもしれん。だが、あの子たちは選ぶことができたはずだ。違う道を選択しなかった、あの者たちにも非はある。それよりも罪深いのは、だ」

 「……たった一人で、世界を背負わせなければならないこと、じゃな………」


 ヘイムダルの顔がとりわけ申し訳なさそうになる。この神々とてわかっているのだ。自分たちがどれほど無茶なことを頼もうとしているのかを。その上で、何もしてやることができないことも。


 「いっそ、放棄させてやりたいとも思うのだがな………」

 「あの世界に住まうあれは、いずれ方法を見つけてしまうじゃろう。そうなれば、事はあの世界だけに留まらん。他の世界までもが滅びかねん。何としてでも止めねばならんからな。じゃが………」

 「最高神たちはそうなればそうなったときで手を打てばいいと思っている。そうなったときがどうなっているのか、わからんのか!」


 ミーミルが拳を力任せに叩きつける。叩き付けられた方の机はと言えば、木端微塵と砕け散っていた。曲がりなりにも彼は神であるのだから。


 「……応援を出すこともできず、止めることもできず。あの子には何も言えん。恨まれても仕方ないほどじゃろうて」

 「当たり前だ。これだけのことをされたのだ。あの子には我々を憎み、糾弾し、復讐するだけの権利がある。それをされても、文句は言えないだろうな」


 二柱の神はどうにもならない気持ちを、三度目のため息と言う形で表す。彼らにできることはすべてやった。だが、それでも恐ろしいまでに現実は残酷だった。鏡に映る光景がそれを証明している。


 「……期間を早めよう。ゲイムロルを呼んでくる」

 「……任せた」


※               ※               ※

 「リア充は死ねえええええええ!」

 「訓練の初っ端からそれとか、君らイカれていないかい!?」


 一直線に殺意を持った攻撃が襲い掛かってくる。ただ、直線的な分避けやすくはある。避けられないやつは捌いて、避けられるものはできるだけかわすか。そう地面を蹴った。

 の、だが。


 「追ってきてるんですけどぉ!?」

 「当然だろうが!何せ、これはお前を殺すために編み出した必殺技!そのために毎日図書館で好きでもない本を読んでたんだからなあ!」

 「情熱を入れるベクトルを根本的に間違ってるよ!」


 緊急展開した剣で自動防御。それでも、数が多くていくらか手傷を負う。対戦する相手もなんでそっちに力を出すのか。

 そんなことに力を入れるなら、女の子の褒め方やファッションでも勉強すれば状況が変わるのに。思わず頭を抱えたくもなる。


 「ちょ、真面目に死にそう!ヴォルフ助けて!」

 「無茶言うな!?こっちもこっちで手一杯だっての!」


 これは堪らないと友人にヘルプを求めたが、むこうもむこうで大変らしい。ちらりと目を向ければ、僕より少ないものの結構な数に追われている。物量が物量なだけに、地道に倒すしかないみたいだ。逃げつつ攻撃、という攻撃スタイルでいる。

 そーいや、ヴォルフも彼女いるんだっけ。初めて話を聞いたときは驚きだったけど、きちんと女の子に興味持っててお父さん安心ですよ。大変な目には合ったけどさ。

 唐突に、迫ってくる攻撃が弾かれた。それもすべて。凄まじい力量である。正体は確認しなくてもわかるけど。今乱入しそうな人と言えば、あの子しかいない。


 「……タクミ、大丈夫?」

 「うん、ありがと。モネ」


 この子はモネ。前に模擬戦をやってたときに、顔を真っ赤にしていたあの子である。あのときは乱雑に切っていた青い髪を、今は短く切り揃えている。とはいっても、常識的な女子の範囲内。ショートカット程度の長さだ。で、無表情だった鳶色の瞳には喜びの色が。身軽そうな服に身を包んで、ガントレットと先の尖ったブーツを身につけている。

 必要以上に僕へと近付いて、もはや触れるか触れないか程の近さだ。この子がヴォルフと渡り合える唯一の訓練生なのだから、世の中見た目ではわからないものである。……まあ、理由はわかっている。というか、ここまで来てわからなかったら、その鈍感は死体になってるはずだ。Sから始まって、Sで終わるあのアニメの主人公みたいに。かなし~みの~という歌が流れてきちゃう。


 「役に、立てた?タクミの役に立ててる?」

 「う、うん……でも、ごめんね?今は彼女をつくる気はなくて………」

 「ううん、いいの。だって、誰とも付き合う気はないってことでしょ?それなら大丈夫。まだ綺麗な体のままだから。ずっと私のために取っておいてくれているから………」


 うっとりと。僕の身体を愛おしそうに撫でる彼女の目には凶器の色が見て取れる。……もうお察しだろう。モネはヤンデレさんである。四六時中僕を見ていて、女の影が僅かにでも見えると殺しに掛かる。取り扱い注意な子なのである。こうなったトリガーはあのときに放った、あの言葉のせいらしい。たったあれだけで落ちるなんて、と思ってしまうのだが、それにもきちんと理由はある。まあ、それはおいおい話すということで。

 少しだけ後ろを見ると、イライラしている男の戦士訓練生たちがいる。あー、どうしようかなあ。そう思っていると、モネが気付いてしまったらしい。殺気立った男たちの視線に、ゆらりと立ち上がる。


 「も、モネー?あのね、あの人たちも悪気があるわけじゃ………」

 「大丈夫、タクミは心配しないで。私が守るから。私が皆殺しにしてくるから」

 「全然大丈夫じゃないね。死人が出てるね。ストップだよ、モネ」


 ステイステイとあやすのだが、それを快く思わない人もいるわけで。モネに対抗できる人が、とうとう来てしまった。


 「毎度毎度……あなたも懲りませんね。迷惑を掛けるなとあれだけ言ったはずですが?」

 「迷惑なわけない。タクミはそんなこと思ったりしない。だって、愛し合っているから」

 「そんなわけがないでしょう。そもそも、愛しているのであれば何をしてもいいというわけではないのです。それがまだわからないのですか?」


 ゲイムロルさんだ。僕とモネの間に割って入って、槍を構えている。その目も睨まれるだけで竦み上がってしまいそうなほどだ。だが、モネも負けていない。殺気を浴びせるどころか、もはや殺気そのものと言えるような様。ぶつかるのも時間の問題だと言えそうだ。


 「「「「「リア充め………」」」」」

 「え、何、代わりたい?あそこに突っ込んで行けるなら代わってもいいけど?」


 いつの間にか近くに来ていた男衆にそんなことを言ってみる。答えは予想していた通りだったけど。


 「「「「「遠慮します」」」」」

 「覚悟もないのにモテたいと思わないでよ……どうせあの二人止めるの、僕ぐらいしかいないんだしさぁ………」


 はあ、とため息をついて、とりあえずあの二人の間に入るかと頭を掻くのだった。

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