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19話

 「あの、すみません」

 「む、どうした?神器作成者となれる可能性があるのなら、無茶はさせられん。ゲイムロルにも常識的な範囲での訓練をさせるようにしよう」

 「ミーミル様、私はいつも常識的な範囲でやっていますが………」


 盛り上がっているところに、水を差すようで悪いとは思う。けど、これは言っておかなくちゃいけないことだ。あと、ゲイムロルさん?あなたの訓練は普通の人間にとっては常識的ではないです。ええ、まったく。満足気なミーミルさんと、不満そうなゲイムロルさんに重い口を開く。


 「……それを作っていたときの記憶がないんです」

 「む?どういうことだ?」

 「記憶がないということはないでしょう。設計図などを書いていたのではないですか?」


 案の定、どちらも怪訝そうな顔だ。謙遜しているのか、嘘なのかと思っているに違いない。でも。僕は首を横に振った。


 「たまにあるんです。物を作っているときに、記憶がなくなることが。気付いたら、作品は出来上がっていて……何度も作っていたものより、ずっといい状態で鎮座してることが………」


 そう。僕が物を作っているときにはそんなときがある。意識はある。何かをしていたということも覚えている。ただ、記憶だけがない。傍からその状態の僕を見た人は、あまりにも鬼気迫る様子なので声すら掛けられないという。まるで神が降りてきたかのようだと。

 気付いたときには時間が経っていて、作っていたものは完成している。何も文句がつけられないような状態で。この賢者の石を作ったときも、それと同じだった気がするのだ。

 それを説明すると、ミーミルさんは考え込んだ。


 「ふむ……もしかすると、それがトリガーなのやもしれんな。神器を作る者はどこかがずれていると聞く。お前の場合は、その状態に入ったときが神器を作れる条件なのだろう」

 「そう、なんですか………」


 いまいち実感が湧かない。そもそも、あれはコントロールできるものではないし。いつ来るともしれないものなのに、期待はできないのではないのかと思ってしまう。


 「ゲイムロル、その子供の様子を観察しておけ。もしその状態に入ることがあれば、けして邪魔するな。それと同時に、誰にも邪魔をさせるな。よいな?」

 「承知しました。では、そのように」

 「え、いや、そこまでしなくても………」


 ミーミルさんが真面目な顔でそんなことを言うし、ゲイムロルさんもそれを汲み取ったのか覚悟を決めたかのような表情だし。僕は手を振るのだけども、強い言葉で遮られてしまった。


 「する必要があるのだ。神器を作れる者はそれだけで価値がある。例え、性格が最悪なまでに悪くても評価されるほどにはな」

 「加えて、あなたは性格、能力共に申し分ありません。優秀な人材なのです。本来なら保護したいところなのですが………」

 「そうも言ってられぬのでな。死後、お前の魂をこのヴァルハラに呼ぶとしよう」

 「いやいやいや、過保護じゃないですか?それなら、戦士の方が必要そうですけど………」


 あまりにも大事になったので、正直な気持ちを口にしてしまう。いくらなんでも、そこまでじゃないよねと。実際に戦力になるのは戦士なわけだし。そんなことを説いたら、揃ってため息をつかれてしまった。え、ひどくない?


 「……正直に言おう。戦士ならば、それこそ腐るほどにいる。ここで生活している者だけではない。回収しようとすれば、まだ連れて来ることもできる。外に出ている者を連れ戻せば、さらに増やせる。それに、所詮は個人の武力。場面を変えられても、事態をひっくり返せる者はそうはいない。

  だが、神器作成者は違う。貴重過ぎる上に、一人で集団全体の戦力をも底上げできる。できるだけ確保しておきたいものなのだ、彼らはな」


 ふうん、と口の中で呟く。まあ、確かに。そう聞けば、有用性はわかる。戦う人は個の武力を上げることができても、群の武力を上げることはなかなかできない。人が多くなればなるほど、それは顕著になるのだろう。

 一方、作る人は武器や防具、便利なアイテムを渡すことで全体の底上げができる。だから、作れる人は貴重なんだ、という話だ。


 「……うーん、まあ、わかりました。なんとか頑張ってみます」

 「ああ、頼んだぞ」


 一礼して、部屋を出る。初めてできた神器を手にして。


※               ※               ※

 「神器作成者、ねえ………」


 賢者の石を手の中で弄くりながら、感触を確かめる。……どう頑張っても、やはり石の感触のみしかしない。何を素材として、どうやって作ったのか。ここからだけでは到底わからない。

 勿論、無くなっていた素材から推測を立てること自体はできた。無くなっていたのはヒヒイロカネ、オリハルコン、ミスリルがそこそこ。他にもいろいろな金属。加えて、魔物の血など多岐にわたっていた。それがここまで小さいものになるのだから、何が起こるかわからないものである。


 「あの状態、か……使いこなせるようにならなきゃ駄目なのかな………」


 ゲイムロルさんしかり、ミーミルさんしかり。今日はまるで荒野の中に一輪の花を見つけたかのような。砂漠の中にオアシスを見たかのような喜びようだった。あれほどの喜びようはここ最近見たことはなく、それほど嬉しいニュースだったことはわかった。

 神器というものがどれほど凄まじい力を持っているのかはわからない。けれど、あそこまで喜んでいたのだ。これからの僕にとっては必ず助けになるであろう。だからこそ、あの状態になれるようにならなければいけない。それが僕に良くしてくれた人たちへの恩返しにもなるはず。


 「……とりあえず、これを解析するだけしていこうかな」


 まずはできることからと、僕は机に向かうのだった。

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