18話
「あ、いたいた。ゲイムロルさーん」
「おや、どうしたのですか?随分と急いでいるようですが」
ゲイムロルさんのいそうな場所を、適当に探していたんだけれども。最初から当たりを引けたみたい。彼女は訓練所で槍の訓練をしていた。無心で振るっているその姿は元々の美貌も相まって、まるで一つの芸術品のようだ。でも、そこは流石戦乙女と呼ばれる存在。僕が近付くと、すぐに気付いたようだった。動きを一度止めて、僕の方へ来てくれた。
「ちょっと聞きたいことがあって」
「聞きたいことですか?」
その目に怒りの色はない。怒りをいつまでも引き摺るタイプではないらしく、発散させれば落ち着いてくれる。だから、まだこの人と付き合いを続けられているのだけども。僕は頷いて、手にしたものを見せた。
「はい。これが何なのか知りたくて」
「……魔道具に関しては門外漢なのですが………」
「それでも、頼れる相手はゲイムロルさんしかいませんし」
苦笑いを浮かべて、知人たちの顔を思い浮かべていく。……うん、見事なまでに知識がない人たちだ。図書館に向かったことすらないらしいし。借りるとしても、せいぜいが戦闘系の本だろう。魔道具関係の本なんて借りるわけがない。
すると、ゲイムロルさんは雷に打たれたかのように驚きの表情を浮かべ……唐突に笑い始めた。
「ふ、ふふ……ふふふふふ………」
「ゲイムロルさん、一旦ストップです。その笑い方だと誤解されます。周囲から引かれちゃいます」
ついでに言うなら怖いです。正直、赤の他人であったら見ないフリをしていたかもしれない。それぐらいだった。それでも放っておかない辺り、この人との付き合いも長くなったなあ、としみじみ感じるのだった。
「そうですか。そうですね、そこまで頼られてしまっては仕方ありません。ええ、解決してあげましょう!この私が!」
「ゲイムロルさん、テンションおかしくなってますよー」
ぼやいてみたものの、耳に届いた様子はない。ああ、こりゃ駄目だなと思った。
「さあ、行きましょう!大丈夫です、私には心当たりがありますとも!」
「わー、心強ーい(棒)」
ゲイムロルさんに引き摺られて(とはいえ、走る速度が速度だけに浮いてたけど)、僕は訓練所を後にするのだった。……人選、間違えたかな?
※ ※ ※
「と、いうことなのです。見ていただいてもよろしいでしょうか?」
「それは構わないが……そちらは大丈夫なのか?」
「……まあ、大丈夫かと」
いやー、凄いね。ジェットコースター並みの速さだったもん。そのくせ体は固定されていないのだから、ジェットコースターより怖い。曲がり角の壁に激突しそうになったときなんか、死を覚悟したね。これからゲイムロルさんに物を頼むときは、落ち着かせてからどうこうするとしよう。じゃないと、痛い目を見ることになる。……物理的に。
急いでくれただけあって、心当たりのある場所まで来るのはすぐのことだった。部屋の中に入ったときには軽く酔っていたのだけど、大丈夫だと信じたい。目の前に座っているミーミルさんを手で制しつつ、見てもらいたいものを手渡した。
「これは……これをどこで手にした?」
「タクミが言うには、これが作れたそうです。そうでしたね?」
「あ、はい。確かに、僕が作ったものですよ?」
目の色を変えたミーミルさんに、僕は戸惑っていた。何か変なことでもやらかしちゃったのかな?作っちゃいけないものでも作っちゃったとか?そうだとしたら、申し訳ない。
「作ったのか?これを?」
「だからそう言ってますけど……もしかして、やばいやつだったりするんですか?世界滅ぼしちゃうような?」
ミーミルさんの目は本気だ。嘘をついているのだったら、申し訳ないような気分になってしまうけども……作ったこと自体は本当だしなあ。しっかりと首を縦に振っておくことにした。
「……いや。嬉しい誤算だった。これならば、まだ希望はある………!」
ミーミルさんの目が生き生きとしている。どうしたんだろ?わかるのは持ってきた石が、これから行く世界の助けになりそうってことぐらいだけど。
ゲイムロルさんの方を見れば、こちらもわかっていない様子。首を傾げている。
「……すまなかったな。このところ悪い知らせばかりだったので、明るい知らせに喜んでいるのだ」
「は、はあ……?それ、そんなにいいものなんですか?」
ようやく意識が戻した神様が、僕に頭を下げる。僕はいいですよ、とやめさせて、気になったことを聞いた。僕からすれば、ただの綺麗な石にしかわからないし。早く正体を知りたい気持ちがある。ミーミルさんはそうだったな、と石に視線を戻した。
「これは賢者の石という」
「賢者の石?卑金属を金に変えるっていうあれですか?」
真っ先に思い付くのはそれだ。化学の勉強の冒頭に、ちょろっとそんな話をされたことを覚えている。確か、鉄や鉛のような金属を金に変える触媒。錬金術の最高峰とも言われているのが賢者の石だったような気がする。
だが、それは神様に否定された。
「そういったものもあるが、これは違う。この石はとてつもないものなのだ」
「そうなんですか?」
「ああ。なにせ、無限のエネルギーがここに詰まっているからな」
……思考が停止した。ちらりと隣を見れば、ゲイムロルさんも驚いた様子だ。が、こっちは僕の驚きようとは少し異なる気がする。
「無限のエネルギー……?では、まさかタクミは………!?」
「そうだ。将来的に、神器作成者となれる可能性が高い」
「神器作成者………?」
聞き慣れない言葉だ。僕の戸惑いに気付いてくれたのか、一人と一柱は謝り、僕に説明をしてくれた。
「魔道具にはいくつか段階があるのです。これは後々教えますが……その中でも、最も性能が高い魔道具。それこそが神器と呼ばれる代物なのです」
「アーティ、ファクト………」
「神器を作れる者はほんの一握りだ。それを作れる者が目の前にいる。喜ばないわけがなかろう」
どちらも我が事のように喜んでいる。それほどまでに凄まじいのだろうか。この魔道具は。
再び僕の手へと戻った、初めての神器を見て……新たなる疑問が浮かんでくるのだった。




