15話
「おぃいいいいいいい!おま、戦えやアアアア!」
「いや、無茶言わないでおくれよ。相手が相手なだけに無理だよ。というか、くじ運の悪い君が悪くないかい?」
「知るかああああああ!」
叫ぶ友人の声をバックに、あと何分耐えればいいのか考えている。こんな状況になったのは、審判をしている彼女が原因だ。まあ、いつものことだから気にしちゃいないけど。もう慣れたし。
「……舐めてるの?女だからって」
「いいや?単に、女の子は絶対に攻撃しないってポリシーなだけさ。あ、ヴォルフ。痛めつけないようにね?戦闘不能にしたいんなら、痛みを感じさせず一瞬で」
目の前の少女は、僕とあまり身長が変わらないのに、凄まじい技量であった。それこそ、普通に戦っていても苦戦していただろう。なのに防御に回っているのだから、結果は目に見えているようなものである。
まあ、今はタッグ戦だから、友人に頼るとしよう。友人は女相手でも、躊躇しないらしいし。今も剣を振るっている女の子と戦っている。服装はいつものようにパンイチだ。……あれをいつものようにという辺り、そろそろ僕もおかしいのかもな。そう思ってしまった。
「無茶ぶりすんなや!てか、それなら自分でやれよ!なんで俺に押し付けるんだ!?」
「いやだなあ、攻撃しないって言ってるから、無理に決まってるじゃない。それに、押し付けてるんじゃないさ。信頼してるんだよ、僕の友達をね」
「お、おう………て、騙されるか!前にもそんなこと言って、はぐらかしてた事あったろ!?」
「あ、ばれた?」
素手で剣を捌いているヴォルフの技量は、流石は戦士に選ばれそうと言われるだけある。躱せない攻撃は動きが鈍らない場所に、威力を弱めて当てている。それ以外はすべて回避。その中で、耽々と反撃の機会を窺っている。その割に、僕と会話できるだけ余裕があるのだから、大したものだと思う。それを余裕と取ったのか、女剣士さんはさらに激しさを増すが、やはり攻めきれない。
一方、僕はしこたま殴られていた。こっちの女の子はヴォルフと同じ拳や足で戦うタイプらしく、籠手やブーツをつけている。そんなだから、まだ耐えられているとも言えるのだけど。ゲイムロルさんにボコボコにされてるおかげか、耐久度だけは上がったからねえ。
「……いい加減、本気を出して………!」
「無理無理、たとえ殺されても攻撃はできないよ。君みたいな可愛い女の子にさ」
「………え…………?」
途端に相手の子が真っ赤になってしまう。あれ、普段言われ慣れてないのかな。可愛い子だと思うんだけど。
青い髪は動きやすさを追求してるからなのか、短めに切ってある。鳶色の瞳は今動揺に揺れていて、少し視線を逸らしている。身長はやや低めで、僕と同じぐらい……あれ、言ってて悲しくなってくるな。肉付きはあまりいいとは言えず、痩せている方ではないかな。ちょっと痩せ過ぎな気もするけど。あと、見てればわかるけど、肌が綺麗だよね。つるつるしてるというか、何というか。輝いてるとでも言うのかな。とにかく、可愛いという言葉に偽りはないね。
「……そ、そう?」
「うん?ああ、可愛いってこと?うん、可愛いと思うよ」
「……そう、なんだ………」
戦ってる子の拳打は止んでいた。代わりに、頬に手をやって少しだけこちらを見る。
「……話。する?」
「いいよ。何の話を………」
する?って言おうとした瞬間に、真横に吹っ飛ばされた。それはもう。物凄い速度で。叩き付けられた衝撃も、とんでもないものだった。
「おい、タクミイイイイイイ!?」
「……戦闘中にお喋りとはいい度胸ですね。いいでしょう。そこまで余裕なのであれば、私も参加します」
壁からよっこいしょと体を引き抜く。吹っ飛ばされた原因は目の前にいる。恐ろしい形相をしながら、僕を威圧して。
「あ、ゲイムロルさん。すみません、どうもやり過ぎちゃうみたいで」
「ここはナンパの練習場ではありません。それがわからないのであれば、私自らわからせる必要がありそうですね」
「あはは、お手柔らかにお願いします」
槍を構える僕の指導役に、苦笑いをしてしまう。時間が経っても、この人はこの人なんだなあ、と。こちらも構えをとって、怒りが散らせるよう耐える準備をする。
僕がこのヴァルハラに来て、5年の月日が流れていた。
※ ※ ※
「ったくよ、お前は変わらねえなあ」
「そう?それなりに強くはなったと思うのだけど」
お風呂に浸かりながら、ヴォルフと話をする。内容は当然、今日の模擬戦のこと。今日もまあ、懲りずにボッコボコにされてきた。特に、ゲイムロルさんが執拗なまでに痛めつけてきた。おかげさまで、あの味覚が終わるような薬をまた飲む羽目になった。今も口の中が苦いままだ。
「そうじゃねえよ。そっちはまあ……形にはなってきてるだろうが。問題は女への対処のほうだっつの」
「そうは言ってもねえ………」
僕としてはこれがデフォルトなのだから、許してほしいんだけどね。そもそも、普通の褒め言葉に免疫がない時点で大問題なのだけど。お父さん、今から心配ですよ。ふざけてそんなこと言ってみたら、小突かれた。痛いじゃないかい。
「どうすんだよ。お前に勘違いしてるやつがぞろぞろいんだぞ?今日もまた落としてよ」
「あれでやられてるようじゃ、先が心配なんだけど。一応、今日も断りは入れとくけどね」
とはいえ、女の子たちに気に入られてるのも事実なんだよねえ。ちょっと褒めただけなのにこれだもの。将来どうなるのか、心配になってきちゃうよ。今も数十人からラブレター貰っちゃってるからなあ。
ヴォルフは興味なさげなのだけど、男の連中がこういう態度取ってるから女子の皆ああなるんだよ。部屋の前で待っていたり、食事に誘ったり、一緒に訓練したり、部屋に入ってきたり、ストーキングしたり、襲ってこようとしたり……あれ、後半おかしい。
「てなわけで、ちょっとは褒めていこうよ。最初はかわいいだけでもいいんだからさ」
「いや、無理だっての……お前が自重するほかねえよ。ほら、お前の教官様も怒ってるだろ?真面目な人だからよ」
ヴォルフが言っているのはゲイムロルさんのことだね。確かに、真面目に練習しろと何度も怒られている。女の子たちをいつも追い払っているのも、ゲイムロルさんだ。そして、いつも僕を叱り飛ばすのだ。ただ、と僕は微笑する。ゲイムロルさんの大変さもわかっているから。
「それだけじゃないとは思うんだよね」
「は?どういうことだよ?」
「女心がわからないようなら、君もまだまだだね。ってことさ」
「はあ?」
よくわからないといった顔のヴォルフに、僕はちゃんと考えておくように、と額を小突いた。今日も魔道具開発を頑張らないと。




