15話
何度も何度も頭を下げた。彼女は笑って許してくれたけど、気が休まるわけもなく。結局、暗くなるまで謝り倒していた。でも、復縁を迫るつもりはなかった。そんな資格はなかったから。
家に帰ると、爺ちゃんが待っていた。このときばかりは正座をして、爺ちゃんの前に座った。
「きちんと謝ってきたか?」
「うん。許されはしたけど、なんだかモヤモヤするね………」
必死に謝ったはずなのに、足りなかったんじゃないか。まだできることはあったんじゃないか。そんな思いが溢れて来る。
「あの子が困っていたら、助けてあげなさい。それがお前にできる償い方だ」
「はい………」
厳しい口調で言われ、僕は頷いていた。それが当然と思えるぐらいには反省していた。
「お前も反省しているようだ、これ以上はやめておこう。ただな、これだけは覚えておきなさい」
顔を上げて、爺ちゃんの顔を見る。いつも通りの優しい顔。けれど、有無を言わせない口調だった。
「なんとなくなんかで行動するな。相手のことを思いやりなさい。相手もまたお前と同じ人なのだから」
「………はい」
言葉を噛みしめるようにして、頷く。一つの決意を胸に秘めて。
※ ※ ※
「どうにもね、物を作ることにばっかり頭が行っちゃうんだ」
別の世界から来たとは思われないように、気付かれそうなところは誤魔化しながら話してきた。気付けば飲み物は空だ。結構長く話してしまったらしい。上手く話ができないのは困ったもんだな、と苦笑する。
「きっと、女の子と付き合うことになっても変わらないんだと思う。こればっかりは性分だからね、変えられないのさ」
だから、付き合おうとしなかった。付き合って、他人の気持ちを傷つけるよりは、誰とも付き合わない方がよっぽどいい。あの夏以降僕は誰とも付き合わなかったし、これからも付き合おうとはしないんだろう。願わくば、僕以外の誰かを見つけて、幸せになってほしいと思う。こんなろくでなしと付き合うなんて、きっと割に合わないだろうから。
ふーん、と呟きながら、半分以上残っているスポーツドリンクを口に含むティオ。その様は絵になるようで、どことなくいけないものを見ているような錯覚に陥る。
「一つ聞いていいか?」
「いいよ、話すことは全部話したしね」
頭を過った考えを消し去り、笑顔を浮かべる。もうこれ以上話すこともないし、わからないと思ったことはいくらでも聞いてくれればいい。よほどのことじゃなければ答えられるだろう。
そう思っていた僕の考えは、首を傾げている彼女の言葉で裏切られた。
「……今の、どこか付き合っちゃいけない理由あったか?」
「………うん?」
僕の方が首を傾げることとなった。こんなティオの切り返しは予想すらしてなかったのだ。
「いや、だってさ。それって言っちまえば、タクミのことをよく知らなかったから起こったことだろ?タクミの爺さんにしたって、無自覚に傷つけてたから怒っただけじゃねえか。異性と付き合うなとは言わなかったわけだろ?」
「……それはそうだけどね?話聞いてた?僕は付き合ってる子ほったらかして、好きなことに明け暮れてるようなやつだよ?そんな人と付き合うなんて無駄じゃないかな?」
「それを決めるのは当人だろ?……あたしは構わねえと思ってるし」
頬を染めつつ僕の手を取る彼女は諦める気がないらしい。どこまで強情なんだろう。少し感心してしまうほどだ。……他人のことは言えないかもしれないけども。
「君のこと忘れて趣味に耽ってるかもしれないよ?」
「それでもいい」
間髪入れずに答える。その目に躊躇の色はない。
「ひょっとしたら、振り回されるだけかもしれない」
「それでもいい」
「……イライラしてて君に当たるかもしれないよ?」
「それでもいいから!」
ティオが目と鼻の先まで顔を近付ける。無意識でやってしまったのだろう。その証拠に、少し冷静になったのか顔が真っ赤になった。けれど引く気はないらしく、距離が開くことはなかった。
……これは僕の負けかな。彼女の決心は固い。満足するまで諦めることはしないだろう。両手を挙げた。
「わかったわかった、降参だよ」
「……!じゃあ!」
パッと表情を輝かせるティオに、僕は首を振る。残念ながら、そう簡単に事は進まない。
「付き合うわけじゃないよ、流石にね」
「えー、今のそういう流れだっただろ………」
「無責任に付き合って、また傷つけるわけにもいかないからね。けど、君が僕に好意を寄せることは自由さ。もし君といることが自然になったら、そのときはきちんと付き合うよ」
やっぱり、過去のこともある。すぐに付き合おう、という気にはなれない。それに、僕はティオのことをよくは知らないし、彼女もまた僕のことを深くは知らないはずだ。そんな状態で付き合う気にはなれない。
「つまり?」
「付き合うならお互いのことをよく知って、惚れさせてみろってことだね」
偉そうに言うな、とツッコみたくもなるだろうけどね。と続ける。でも、好きでもない相手と一緒にいたところで、過去と同じ道を歩むことは想像するに容易い。
そもそも、過去の出来事にしても彼女のことを好いていないわけではなかったのだ。自分なりに好いていた。ただそれが異性としてではなかった。だから、あんな結果になってしまった。こっちでも同じことはしたくない。特に、ティオは過去に心を傷つけられているのだし。まずは知ることから始めても遅くはないはずだ。
「……まあ、上手く躱された気もするけど、それでいいよ。どうせまだまだ時間はあるしさ」
結婚できるようになるにはまだ先だろうし、と続ける。ん?まさか。いや、さっきはそのまさかが当たっていたのだ。聞いて確認しておかないと、誤解されている可能性がある。
「あのさ。ひょっとして、僕が子供に見えてる?」
「え?いや、違う……のか?」
………やっぱりか。どうやら僕はきちんと話し合う必要があるらしい。
「僕、これでも18なんだけど………」
「ええええええええ!?いや、嘘だろ!?あたしよりも年上!?」
「……そりゃー、僕は背が低いけどさ」
いくらなんでもその驚き様は心外である。今でも低い背は気にしてるのだ。だから、さっきもコーヒー『牛乳』を買ったわけで。昔ほど暴れないだけで、コンプレックスではあるのである。
ため息をつきながら、僕はティオとそもそもの基本情報から話をしていくのだった。




