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13話

 『龍機兵(ドラグーン)』を降りたフェルトは、フロアを移動する前に捨て台詞を吐いて去っていった。それがまあ、心を抉って来るようなものなんだからなかなかひどい。


 「女男て……それなりに気にしてるんだけどな………」


 中性的な顔立ちのせいなのか、昔からよく女に間違われてきた。それも、初対面の相手なら特に見間違えられる。女に見られるのが1、2回ぐらいならまだいいのだけど、初めてだったら8~9割方だからなあ。何がいけないんだろ?


 (……実は本人が気付いていないだけで、本当は中性的というより女寄りの顔である。そこにいつもダボダボの服装をしているため、体格もわからない。つまり、女に間違われる。というのが真相である)


 しばらく落ち着くための時間が必要なのかな、と思い、一人にすることにした。誰にでも触れられたくない問題の一つや二つはあるだろう。自分だって他人のことは言えないのだから、話してくれるようになるまで根気強く付き合っていくしかない。まあ、我慢比べなら自信はある。気長にやっていくとしよう。


 「………タクミ」

 「ああ、ティオ。ごめんね、大丈夫だった?傷が深かったのはティオの方だし、おかしなところがあったらすぐに言ってね。薬ならそれなりに持ってるしさ」


 こちらもこちらで心配な人物だ。いや、結構派手にやられていた分、彼女の方が心配かもしれない。それに、さっきまでフェルトに付きっ切りでもあったし。精神が不安定になっていそうだ。今も動揺しているし。……ん?動揺?


 「そうじゃなくてだな」

 「え?ああ、もしかしてフェルトと一緒にいたのが不満だったのかい?大丈夫、心配するようなことは何も起きてないさ。むしろ、空気は最悪なぐらいだったしね」

 「そうでもない!いや、気にはなってたけど、そうじゃねえんだよ!」


 肩を掴まれて、ようやくティオの顔をまじまじと見ることになった。動揺と強い混乱、それが顔に出ている。何かおかしなことでもあったのか。僕は首を傾げてしまう。


 「さっきの言葉のことだよ」

 「ああ、女男ってこと?困っちゃうよね、これでも気にはしてるんだからさ」


 僕だって男だからね。女と間違われていい気はしない。必死で筋トレだってしたし、背が伸びるよう栄養にも気を遣って。さらに、睡眠時間にも……あ、忘れてることがままあった。これが大きな理由かもしれない。

 それでも変わるどころか、変化なし。それどころか、歳を経る毎に間違われる回数は増えるのだから困ったものだ。最近では子供に見られることも多かったし。ほんと、仲のいい友達がいなければどうなってた事やら。


 「気にして、る?」

 「んー、そりゃね。女に見間違われ続けたら、自信もなくなってくるってものさ」


 せめて髭の少しでも生えていれば、話は違ったんだろうけど。高校生も卒業間近だというのに、伸びてくる気配もない。つるっつるだ。友人の中にはいちいち剃るのがめんどくせえから、お前はいいよな。ということを言われたが、僕としては羨ましい限りだ。

 だが、彼女が聞きたかったのはそんなことではなかったようで。掴んだ肩が揺すって、動揺の残る顔で詰問した。


 「ちげえって!さっきの言葉はほんとなのか!?」

 「さっきの言葉?女男ってこと?そりゃ中性的な顔だし、ほんとだと思うけど………」

 「だあああ、そうじゃなくて!お前が男だってこと!ほんとなのか!?」


 動きが止まった。止まらざるを得なかった。え、もしかして。嫌な予感がする。


 「……もしかして、僕って女って思われてる?」

 「……ずっとそう思ってたんだが」

 「……他の子も?ナトゥラさんとかロメリアさんとかヴォルドさんとかも?」

 「……当たり前だろ?」


 マジか。今までずっと女の子だって思われてたってこと?じゃあ、今まで下に見られがちだったのって、女の子と思われてたからってこと?……なんかショックだ。

 その場で頭を抱えていた。まさか、ここまで間違われると自信がなくなって来る。そんなに男らしさというものがないのかな……いっそのこと筋肉モリモリな感じになった方がいいんだろうか。


 「とにかく、僕は男さ。というか、知ってたから意識してたんじゃないの?」

 「いや、別に神器(アーティファクト)なんてものがあるんだし、性別なんて関係ないのかと思って……て?」


 神器をそんなドラ〇もんの秘密道具みたいな感じに考えないでほしい。なんでもできるわけじゃないんだし。そもそもなんでもできるんなら、僕の戦闘の才能をどうにかしてる。……まあ、性別程度ならどうこうできるのは否定しないけど。

 それはさておき。ティオの表情が固まった。さっきまでは若干喜色混じりだったのに、今は驚愕の顔で動きまで止まっている。どうかしたんだろうか?


 「大丈夫?何かおかしなことでも言っちゃったかい?」

 「え、いや、だって、その、意識してるって………?」

 「……いや、異性として意識してるのかな、と。僕の気のせいだった?それなら恥ずかしい限りなんだけどね」


 これが僕の自意識過剰であったのなら恥ずかしい。けど、ある意味助かったとも言えるかな。誰とも付き合うつもりはないのに、半端な態度を示している方が失礼だろうし。

 頬を掻いていると、ティオの顔が一瞬で赤くなった。ボンッ!と効果音が付きそうなぐらい、もう凄い速さで赤くなった。


 「あ、あああああ………」

 「ティオ?」

 「うわああああああああ!」

 「ええええ、いや、僕の腕まだ掴んだままなんだけど!?」


 ティオに引き摺られるようにして、僕は格納庫を後にするのだった。……地面に何度もぶつけられて、気分はいいとは言えなかったかな………。


※               ※               ※

 「……で、落ち着いた?」

 「うう、悪い………」


 まだ顔を赤くしたまま、ティオがベンチに腰掛ける。僕は下のフロアで買ってきた飲み物を一つ手渡し、彼女の隣に腰を下ろす。ティオはスポーツドリンク、僕はコーヒー牛乳を。ティオはさっきまで激しい動きをしていたから、水分補給が容易にできるように。僕は徹夜続きで、尚且つ頭を酷使し過ぎていたから。これがいいんじゃないかと思ったのだ。

 ティオも拒否する気はなかったのか、素直に受け取ってくれた。


 「……気付いてたのか………?」

 「まあ、あれだけわかりやすい反応してればねえ。気付かないのは相当鈍感な人だよ」


 ……過去には身近に約2名程いたけど。そのうち一人は相当な鈍感だったから、僕が色々と奔走する羽目になる。だから、僕をどうにかすれば彼女になれると思った女の子たちが、あれやこれやとアプローチをして来て……うう、思い出したくもない。というか、あの子もなんで気付かないんだろうね?ああいうのが主人公タイプなんだろうか?

 話を戻そう。ティオの好意には気付いていた。そりゃもう、すぐにわかる。友人のせいで、よーくわかる。軽く視線が合っただけで頬を染め、気が付けば視界に入り、声を掛ければ嬉しそうにし、何か用があるわけでもないのに話し掛けて来て、僕から貰った物を大事そうに持ってて、それからそれから……うん、まだまだあるな。これだけあって、わからない人がおかしい。だから、友人はおかしい。


 「そうだったのか………」

 「やめておいた方がいい、とは言っておくけどね。やっぱり、僕はどうしようもないやつだからさ」

 「……前々から思ってたけど、タクミってなんでそこまで自己評価低いんだ?あたしにはどうしてもそうは思えないんだが」


 ティオが首を傾げる。そっか、ティオの前ではいい人を演じてるし、ろくでなしには思えないのかもしれない。


 「ちょうどいい機会だし、話しとこうか。知っておいた方がいいことだろうし」


 僕は小さく笑い、ぽつぽつと話し始めた。僕が誰とも付き合おうとしない理由を。

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