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12話

 「あのさ、僕は言ったよね?素材を取って来てくれ、って。なのに、なんでこんなことになってるんだい?さっきの攻撃、止めなかったら死んでたんだよ?」


 どちらが、とまでは言わないけど。理由はなんとなくわかってるし、どちらが死んでいたなどといえば新たな火種になるだけだ。

 フェルト、ティオ共々正座をさせて叱っているが、反省の色がまるで見えない。どころか、溝は大きくなるばかりだ。今も睨み合っている……というか、もはや殺気をぶつけ合っている。こりゃ相当根が深いな。ため息をついたものの、最悪の事態を回避することができてホッとしている。


 「フェルト、どうしたのさ?君らしくもないよ?」

 「……うるせえよ、てめえに何がわかるってんだ」


 吐き捨てるように殺意の篭もった目を向けられた。……滅茶苦茶機嫌が悪いな。今何かを言うのは逆効果か。

 フェルトの言葉に、隣のティオが掴みかかろうとした。そちらは体を張って止める。僕に対しては何もする気がないのか、大人しくはなった。


 「とりあえず、戻ろうか。『龍機兵(ドラグーン)』も二機持って来てる。二組に分かれて帰ろう?」


 どのような結論を下すにしろ、今のフェルトとティオを一緒にするのは良くない。頭を冷やす時間が必要だろう。……特に、フェルトの方が。

 周りで心配していたティオの仲間たちも、一息ついたようだ。流石にこの最悪な空気の中、同じ機体で帰りたくはなかったらしい。


 「ありがとね、ナトゥラさん。教えてくれたから間に合ったよ」

 「いえ、こちらこそありがとうございます……あのままじゃ、ティオが………」

 「……うん、そうだね」


 顔を蒼白にしているエルフの少女は、今にも倒れてしまいそうだった。今回の勝負も反対だったのだろう。だが、ティオの気持ちはわかっている。だから、強く止めることができなかった。そのせいで、殺し合いにまで発展してしまった。止められなかったことを悔やんでいるのかもしれない。

 彼女のせいではないのにな。きっとどこかで歯車がずれただけ。その些細なずれでフェルトは心がささくれ立ってしまい、悪態をついてしまった。その悪態の中に許せないものがあって、ティオが激情した。二人とも考えるより先に体が動くタイプだ。段々ヒートアップしていくうちに、止められないところまで来てしまったんだろう。


 「大丈夫だよ」


 だから、優しく彼女の頭を撫でる。身長差があるので、ちょっと不格好にはなってしまったけれど。それでも、これが僕の役割だろうから。

 ナトゥラさんは驚いたように僕を見る。けれど、僕は手を止めない。


 「動けたじゃない。二人を止めようと考えて、自分なりに行動してみせた。それで十分だよ」

 「でも………」

 「生きてるよ、ティオは」


 息を呑んで、振り返る。そこには不機嫌そうではあるが、しっかりと自分の足で歩く彼女の姿がある。ナトゥラさんが行動していなければ、少なくとも自分の足で歩くことなどできなかっただろう。ティオが生きているのは紛れもなく彼女のおかげなのだから。

 エルフの少女は頭を下げて、彼女の下へと駆けていった。


 「……やれやれ。この世界には面倒を見なくちゃいけない人が多そうだ」


 苦笑いを浮かべながら、『龍機兵(ドラグーン)』へと乗り込む。問題がどこにあったのか、考えながら。


※               ※               ※

 機体内は無言だった。設定だけすれば勝手に飛んでくれるのだから、自分で操縦する必要はない。ただ、これは自動運転(オートモード)にしている場合であって、手動運転(マニュアルモード)にすると操る人の腕がダイレクトに反映される。戦闘時は腕のいい人を乗せなくちゃいけないわけだ。

 まあ、今はノアに帰るだけだしね。敵との戦闘も回避すればいい。自動運転で十分だった。だから、運転席に張り付いている必要もない。


 「さて、と。これを使ってくれ。むこうにはナトゥラさんがいて、傷は癒せるみたいだけど。君は自分で治すことはできないだろ?」

 「………」


 無言で顔を背けられた。機体の中は二人しかいない。僕とフェルト、それだけだ。後のみんなはもう一つの『龍機兵(ドラグーン)』に乗せておいたのだ。きっと他の誰を乗せてもトラブルになるだろうし、かと言ってこの子を一人にするのは不安が残るから。ティオには悪いと思っていたが、ノアに帰ってから埋め合わせをしよう。放っておくと、フェルトが孤立してしまいそうだ。


 「……仕方ないな」


 フェルトの機嫌が直る見込みもないので、強引に治療をさせてもらうことにした。いつまでも血塗れというわけにもいかないし、汚れも相当ついてる。医療の発展していないこの世界では、病気にかかるということは意外と怖いものだ。僕だって流石に医療系の知識まではない。せいぜい、看護ができるぐらいだ。

 体を綺麗にしてもらい、消毒。その後、回復薬で傷を塞いでいった。ぶつくさと文句は言っていたものの、抵抗されることもなく進められた。勿論、体を拭いているときはよそに行っていたけどね。


 「少しは落ち着いた?」

 「………別に。誰も頼んじゃねえだろ」


 まだ機嫌は悪いようだ。それでも、返事をしてくれるようになっただけましか。睨むような彼女の目に肩を竦める。

 ノアが近付いてきた。二人で会話ができるのはあと少しの間だろう。今のうちに、聞くべきことは聞いておかないと。


 「フェルト、二つほど聞いていいかな?」

 「………何だよ?」


 嫌そうな顔ではあったが、返事をしてくれた。


 「君はどうしてティオたちに苛立っていたんだい?気に障ることがあったなら、考えてもらうように言っておくけど………」


 動きが止まる。次に彼女が僕に向けた目は、温厚なものでも嫌そうなものでもない。はっきりと恨むような目を向けていた。


 「なんでもねえよ」

 「……そう。今はそうしておくよ」


 踏み込まれたくないようだったので、ここは引くことにした。わかったのはどうやら僕に関係しているようであった、ということぐらいかな。


 「もう一つは」

 「ん?ああ、それはもういいよ。君が不快になるだけだろうからね」

 「そうかよ」


 鼻を鳴らし、降りる準備をする。ノアの中へと戻って来たのだ。機体が停止する前に、さっさと降りていってしまった。振り返ることはない。

 もう一つの質問。それは………


 「あの子、何に対して悔しがってたんだろ………?」

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