表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
麗人賢者の薬草箱  作者: 江本マシメサ
第十一章 クレメンテとリンゼイの一大決心
164/173

百六十二話

 三日後。

 セレスティーナを連れて、無職の古代人エルベール・レオナルド・マリエル・リュッセの元に行く。

 付き添いはリンゼイのみで行くことになった。


「え~っと、転移陣は初めてよね?」

「魔法で移動するもの、でしたっけ?」

「魔法じゃなくって魔術だけど、まあいっか」


 円に描いた魔術の上に乗るだけで、一瞬で目的地まで移動すると説明をする。

 怖がる様子を見せなかったので、ホッとした。


「セレスティーナ様、それは?」


 大きな籠を持っていたので、何かと指さす。


「手作りのパンとクッキー、燻製肉にスープ、果実汁ですわ」

「わざわざ作ってくれたんだ」

「燻製肉と果実汁は買ったものですが」

「そっか、ありがとう」


 慈善活動みたいになっているなと、リンゼイは遠い目をしていた。

 まあいいかと、気にしないことにする。


「そういえば、今から会うおじさまは、どんな方ですの?」

「……ちょっと偉そうな人、かな」


 昔は高い地位に居たが、今は全てを失い、一人で屋敷に引きこもっている事情を軽く話した。間違いは言っていないと心の中で自らに言い聞かせながら。


「ええ、分かりました。なるべくその辺には触れないようにいたします」

「あ、ありがとう」


 話を聞くうちに、セレスティーナは完全に慈善をする人の顔となっていた。

 深い話をする訳ではないので、まあいいかと思うしかない。

 セレスティーナの手を引いて魔術式の上に乗り、転移魔術を発動させた。


 一瞬で周囲の様子が変わる。無事、屋敷に降り立っていた。

 またしても、屋敷の主であるエルベールは長椅子に腰掛けた姿で出迎える。


「……早かったな。また半年以上待たされるものだと思っていたが」

「ええ、じっくりと考えたかったのですが、そうもいかない事情になりまして」

「?」


 セレスティーナの居る前で水蛇ヒュドラの話をするわけにはいかない。

 なので、適当に誤魔化しておく。

 まず初めに、セレスティーナを紹介することにした。


「えっと、彼女はセレスティーナ・アルマロウ、さんです」

「初にお目にかかりますわ」


 セレスティーナの綺麗なお辞儀を眺めるエルベールの顔は、満更でもないといった感じに見えた。

 一応、「今回の答えです」と言っておく。


「なるほどな。それで、彼女が何をしてくれるというのだ?」

「わたくしとお話をしましょう」

「ほう?」


 リンゼイが事情を話す前に、セレスティーナが自然と前に出て来て、にっこりと微笑む。


「わたくしのことはお気軽にセレスティーナと」


 エルベールのことはどう呼べばいいのかと聞き、家名が好きではないので、名前で呼ぶようにと、偉そうな態度で言っていた。


「では、エルベール様、と」

「……うむ」


 このまま二人きりにするわけにはいかないので、リンゼイもこの場に同席する。

 今日はお茶など出ていない。

 エルベールが準備をしようとすれば、セレスティーナが果実汁を飲もうと提案した。

 家からカップなども持ち込んでいたようだ。


 セレスティーナは籠の中から果実汁の瓶を取り、他のお土産を手渡した。


「なんだ、これは?」

「手作りのお菓子と軽食ですわ」

「私の為に、作って来たというのか?」

「ええ。お口に合うといいのですが……」


 エルベールは籠の中身を机の上に並べていく。

 まずクッキーの袋を手に取り、食べてもいいかと聞いてきた。


「ええ、よろしくってよ」


 お礼を言って袋を開封する。

 この前は了承など取らずに星空ゼリーを食べたのに、この反応の違いは一体なんなんだとリンゼイは思った。


 エルベールは花の形にくり抜かれたクッキーを食べ、美味いと言う。

 あっという間に一袋、食べきってしまった。


「良かったですわ」


 それから、二人の会話は盛り上がっていた。

 リンゼイはたまに相槌を打つばかりである。


 滞在時間は四時間ほど。

 セレスティーナの門限が迫っていたので、帰ることにする。


「今日は本当に楽しかったですわ」


 なかなかいい雰囲気に見えるのは気のせいだろうかと、リンゼイは考える。

 結局、セレスティーナの父の会社で働く話は一度も出なかった。

 少しずつ慣らしてから提案するのだろうか。

 そうだとしたら、慈善家セレスティーナの手腕は恐ろしいものだと思う。


「また、ここに来てもよろしいでしょうか?」

「あ、ああ。まあ、いつでも暇だから、構わん」


 エルベールはいい感じに無職のような返しをしてくれた。


 転移陣を使い、一瞬でクレメンテの屋敷まで辿り着く。


 くるりと振り返れば、頬に手を当て、うっとりとするような表情のセレスティーナと目が合った。


「あ、あの……」

「リンゼイ様、ありがとうございます」

「え?」

「エルベール様、とっても素敵なお方でした」

「あ、うん。そっか。だったら、よかった。……無職だけど」

「誰かに惹かれるのに、地位や身分は関係ありませんわ」

「そ、そうよね」


 意外な展開となった。

 初めて会った相手を好きになってしまったと言うのだ。


「今まで、何度か男性とお話をしたことがありましたが、毎回苛ついてしまって……」


 大抵、話の内容は自慢話ばかり。

 話題が尽きたからと、セレスティーナが幼少時代に行った旅の話をすれば、女は家で待っているものだと決まって非難されていた。

 だが、エルベールはどんな話も、興味深そうに頷き、いいタイミングで質問や自身の見解をさりげなく話してくれる。

 今までの男性にはない反応だったと語る。


「わたくしがもっと世界を見て回りたいと言っても、嫌な顔をなさいませんでしたの」

「そう」


 女性の自立について語っていたセレスティーナであったが、彼女が一番貴族の柵の中から解放されたいのだなと、リンゼイは思った。


「次、いつ会えるか聞いておくわ」

「あ、ありがとうございます!!」


 エルベールは髭を生やしているので、貫禄があるように見えるが、齢は意外と若いのかもしれない。

 並んだ二人を想像すれば、お似合いのように思えた。


 セレスティーナを見送り、リンゼイはクレメンテを伴って再びエルベールの元に行った。

 今度は、紅茶とお菓子を二人分用意して出迎える。

 座れと言うので、クレメンテと並んで座ることにした。


「お主らの考えた暇潰しだが――」


 リンゼイは固唾を呑みながら、返事を待った。


 上手くいったのではと思ったが、エルベールの表情は険しい。

 美女と楽しい時間を過ごしていたように思っていたが、相手は元国王。

 単純である訳がない。


 セレスティーナはよくやってくれた。

 悔いはないとリンゼイは思う。


「……どうした?」

「だって、どうせだめなんですよね?」

「いや、あれはいい暇潰しであった。合格だ」

「え?」

「利発な娘御を連れてくるとは、驚嘆したぞ」


 エルベールは『時渡りの羽』を取り出し、机の上に置いた。


「持って行くといい」


 クレメンテとリンゼイは顔を見合わる。

 二人共、信じがたいという顔をしていた。


「あ、ありがとうございます?」


 お礼の言葉も疑問形になってしまった。

 エルベールは呆れた視線を夫婦に向けていた。


「まだ信じていないのか」

「だって、あんまりにも……」


 簡単過ぎた。

 五枚の時渡りの羽の入った箱を持ちながらも、実感はない。


「言っておくが、それはそのままでは使えない」

「え?」

「現在と過去を結ぶ拠点のようなものが必要になる」


 エルベールは大量の魔力を含んだ耳飾りを媒介として使ったと話す。


「だが、一回お主らを過去に送ったあと、壊れてしまった」

「それは、遠い過去、古代に送ったから?」

「いや、それは関係ないだろう。拠点はあくまでも足場だ。過去と結ぶのは羽の力だからな」


 きちんとした拠点がないと、時空の流れから帰って来る時、元居た時代に着地出来ない場合もあると言う。


「何度も行き来するだろうから、しっかりとした拠点を用意しなければならない」


 そんな物。本当に存在するのかと、リンゼイは問いかける。

 エルベールは、魔術師ならば一度は聞いたことのある魔道具の名を口にした。


「賢者の石しかないだろう」


アイテム図鑑


セレスティーナのクッキー


特に秀でた点はない、ごく普通のクッキー。

美女が作ったので、ものすごく美味しいように感じる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ