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麗人賢者の薬草箱  作者: 江本マシメサ
第十章 『メディチナ』、やっと再開!
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百四十三話

 森の中は竜が着地出来るような場所はないので、馬で向かう。

 クレメンテは以前、ノムに毒避けのお守りアミュレットを付けてもらった全身鎧を纏っている。

 以前よりも軽量化され、動きやすくなっていた。

 今回、毒針を気にしないで戦えると、前衛を買って出ている。


 兵士達は騎兵が五、歩兵がニ十ほど。

 狭い場所なので、イル以外に弓兵は居ない。


 リリットはリンゼイの外套のポケットの中に居た。

 不安に思っていたことがあったので、一応、注意をしておく。


『リンゼイ』

「何?」

『この前の魔術は禁止だからね』

「この前?」

『脳筋大爆発……じゃなくて、大爆発エクリスソス

「ああ、あれね。分かっているってば」

『約束だからね!』

「しつこいわね」


 森の中が火事にならないように、過剰なくらいにお願いしていた。


 足場の悪い道を進む。

 途中、単独で飛び回る大蜜蜂グロ・メリッサに出くわした。

 鋭い尾の針を、リンゼイに向かって突き出す。

 杖を取り出し、応戦する気満々であったが、イルが矢を放って目を貫き、クレメンテが首を跳ね飛ばす。


「リンゼイさん、大丈夫ですか?」

「ええ、平気」


 その後、死した仲間の匂いを嗅ぎつけて、大蜜蜂グロ・メリッサが続々と出てきた。

 クレメンテは馬から降りて剣を揮い、イルは後方から矢を打つ。

 『森の中での火魔術、駄目、絶対』、と言われていたリンゼイは、ひたすら補助に回っていた。

 大蜜蜂グロ・メリッサの数は、時間と共にどんどん増えて行く。

 死骸から出る匂いが、仲間を呼び寄せるのだ。


『これ、キリがないよお』

「そうね」


 魔術で一掃するのも手だろうと、リンゼイは言う。

 クレメンテの体力にも限りがあるし、イルの矢とて無限にある訳ではない。


 リンゼイは魔術で火の球を作り、大蜜蜂グロ・メリッサに向かって放つ。

 見事、腹部に当たり、全身を炎で包んだ。

 だが、地面に伏した大蜜蜂グロ・メリッサから火が消えず、その辺の草木に燃え移った。

 リンゼイは慌てて消火活動をする。


『やっぱり、リンゼイの魔術は駄目でしょう?』

「そうね」


 リンゼイは毒針に刺された隊員の状態異常を回復し、リリットは魔術で傷跡を塞ぐ。

 結構な数を倒してきたが、大蜜蜂グロ・メリッサはぶんぶんと羽音を鳴らしながら押し寄せてくる。


「……やっぱり焼き払って、ここを畑にするとか」

『環境破壊、駄目、絶対!!』


 そんな話をしていれば、一匹の大蜜蜂グロ・メリッサがリンゼイの元に飛んでくる。

 即座に杖を振り上げ、脳天に当たるように振り下ろした。

 急所を叩かれたからか、勢いがなくなった。

 ふらふらと彷徨うように飛んでいる所を、クレメンテが斬り伏せる。

 視線でリンゼイの無事を確かめ、次なる獲物に剣を振り上げていた。


 依然として、状況は変わらず。


『うわあん、あと何匹いるんだよおお~~』


 リリットは『鑑定』で森の中を調べる。


『巣はここの近くにあるっぽい。残りの大蜜蜂グロ・メリッサは、五十位?』

「……」


 兵士のほとんどは使い物になっていなかった。

 先ほどから大蜜蜂グロ・メリッサを仕留めているのは、クレメンテとイルだけである。


『ねえ、リンゼイ、ウィオレケがしていたみたいな、封印? 結界? 魔術が広がらないやつって使えないの?』

「使えない」

『え?』

「おおざっぱな範囲の結界を張ることは出来るけど、小規模の結界術式とか、あまり知らなくて……」

『嘘でしょう?』

「……」


 詰んだ。

 リリットは両手で顔を覆う。


「ひ、火を使わないで倒せばいいんでしょう!?」

『へ!?』


 リンゼイは苦手な雷系の魔術の詠唱を始める。

 そして、小さな雷撃を撃ち、大蜜蜂グロ・メリッサを失神させた。

 だが、死に至らしめるほどのダメージを与えることは出来ないようだ。

 ヤケクソになったリンゼイは、近くに居た兵士に止めを刺すように指示を出す。

 なんとか一匹仕留めることに成功した。


「この調子で、他力本願作戦で倒す!!」

『まさかの斜め上展開!!』


 リンゼイは雷撃を撃ち続ける。

 一瞬気を失う大蜜蜂グロ・メリッサを、陣形を整えた兵士達が協力をしてとどめを刺す方法で数を減らしていた。


 こうして、周囲を巻きこむ形で、討伐を続ける。


『残り十位!!』


 リリットの情報を励みに、皆、奮闘していた。

 最後の一匹は、イルが毒矢で仕留める。


『みんな、お疲れさま!!』


 リリットは霊薬エリキサを配る。

 若干の頑張りを見せていた兵士には、薬効を薄めた緑の霊薬エリキサが入っている飴を配布した。


 クレメンテは周囲の確認をするので、兵士達に後方に下がるように言う。

 イルは馬から降りて、近くまでやって来た。


 皆、互いの健闘をたたえ合う。

 その様子を見ながら、リリットは気まずそうな顔で声をかけた。


『それで、非常に言いにくいことなんですが~~』

「何?」


 奥に巣がある。

 だがその前に、問題があった。


『多分ね、巣の中に、女王蜂が居ると思うんだよね』


 そう言った刹那、森の奥から物音が聞こえる。


 ガサリと、草木をかき分ける音がした。

 それから、ヴヴヴ、と今までの大蜜蜂グロ・メリッサよりも、重たい羽音が辺りに響く。


「……最悪」


 リンゼイがそう呟くのと同時に、巨大な女王蜂が襲い掛かって来た。


 女王レーヌ・大蜜蜂グロ・メリッサ

 大蜜蜂グロ・メリッサより一回りほど大きく、首元に毛皮を纏っているような、優雅な姿をしている。黒く濡れた目は、怒りを訴えているような雰囲気があった。


 尾に生えている毒針は、蜜蜂よりも長く、鋭い。

 致死性のあるものだと、リリットは言う。


 すぐさま、イルが矢を放つ。

 目を撃てば、見事的中。怯ませることに成功した。

 クレメンテは懐に入り込み、一撃を与える。

 女王は硬い外皮に覆われていた。

 クレメンテは一度、距離を取る。


 リンゼイの雷撃も女王は跳ね返した。

 それなりに魔防も高いとみる。


「イル、頼みます!」

「承知しました!」


 有効なのはイルの攻撃だけ。

 外皮は完璧なものではない。竜の鱗のように、体の中でも柔らかな部位が存在するのだ。

 そこを狙い打てば、倒すことが出来る。

 クレメンテは自分の攻撃が効かないことに気付くと、すぐさま作戦を変更して、女王の気を引く役回りをすることにした。


 尻を突き出し、毒針を刺そうとする女王の攻撃を、クレメンテが剣で受け流す。

 追い詰められたら、リンゼイが雷撃を撃ちこむ。

 くるりと女王が振り返れば、クレメンテが背後から斬りかかった。

 偶然にも、刃のような翅を斬り落とすことに成功した。

 隙を見て、イルは矢を放つ。


 口元、腹の内側、翅や肢の付け根など、次々と命中していく。


 しだいに動きが遅くなっていた女王は、二枚目の翅を斬られた瞬間に、地面に伏すことになった。

 まだ、微かに動いている。


「どうする? 焼く?」

『や~~め~~て~~!!』


そんな話をしていると、女王の視線がリンゼイに向いた。

 それを見たクレメンテは、左手に火竜の呪文を浮かべ、腹部に触れる。

 すると、女王の体は一瞬で燃えてなくなった。


『おお、さすが!』


 女王レーヌ・大蜜蜂グロ・メリッサの討伐が終われば、イルは後方で待機している兵士達に報告に行った。

 代表してやって来た隊長格の男が礼を言いにやって来る。


 巣が欲しいと言えば、どうぞお納めくださいと言ってくれた。


 大蜜蜂グロ・メリッサの巣は、見上げるほどに大きなものだった。

 リンゼイは薬草箱を巣に傾けた。

 すると、一瞬で巣が中に収納される。


『相変わらず、すごいやつだよね、薬草箱とか道具箱』

「そうね。限りなく魔法きせきに近い発明品だと言われているわ」

『だろうね』


 リンゼイは素材が手に入ってホクホクであった。

 これだけあれば、かなりの数が作れる。

 それに、大蜜蜂グロ・メリッサの蜂蜜は高級品でもあった。美食王に持って行けば、ご機嫌取りを行えるかもしれないと考える。


「イルのおかげね」

「そうですね」


 本日、一番の活躍をしたイルに、夫婦はお礼を言う。


「イル、今日はとても助かりました。ありがとうございます」

「だ、旦那様!!」

「私からもお礼を言うわ。ありがとう」

「奥様まで!?」


 イルはとんでもないことだと言って、頭を下げる夫婦よりも低い位置、地面に這いつくばるような格好となり、加えて頭を下げた。


「わたくしめには、もったいないお言葉でございます!!」


 平伏するイルを見て、苦笑するしかない夫婦であった。


アイテム図鑑


大蜜蜂グロ・メリッサの巣


大量の蜂蜜と蜜蝋を得ることが出来る。

蜂蜜は高級品としても有名。

蜜蝋からも、素晴らしいクリームが生まれるという。

リンゼイは三日間も探していたが、見つけだすことは出来なかった。

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