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麗人賢者の薬草箱  作者: 江本マシメサ
第九章 『メディチナ』、再開、しない!!
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百三十七話

 ミラージュ公国滞在三日目。

 朝から父親に襲撃される事件があったが、気を取り直して、最後の一日を過ごすことにする。


 まず、リンゼイはクレメンテを兄・ルイに紹介することにした。

 ドンドンと激しく扉を叩いて鳴らす。出てこないので、兄の名前を大声で呼んだ。

 すると、家の中から「間に合ってるから」という声が聞こえた。

 いいから開けろと扉を激しく叩く。


「だから嫌なのに……」

「何が!?」


 ルイはうんざりとした様子で扉を開き、招かれざる客を中へと引き入れる。

 リンゼイはクレメンテとリリットを紹介した。


「旦那さん、本当に居たんだね」

「なんで結婚したって、嘘言わなきゃいけないの!?」

「そうだね。リンゼイは、馬鹿正直だから、嘘は言わない」

「馬鹿正直の使い方、間違えてる!」


 兄妹は、馬鹿正直の使用方法について、間違っている、間違っていない、の言い合いをしばらく続けていた。


 時間はお昼頃。

 宿屋で食事を作って貰い、持って来ていた。


「リンゼイ、どうしたの?」

「何が?」

「気が利くようになったから」

「……」

「結婚ってすごいね」


 そう言ってから、クレメンテに食卓の椅子を勧めていた。


 結婚ってすごい。

 それはリンゼイも思っていたことなので、素直に聞き入れる。


 クレメンテは、リンゼイの兄を前にガチガチに緊張をしていた。

 リリットは生暖かい視線で見守りながら、表情が硬い男のお茶に、砂糖とミルクをたっぷり入れて、かき混ぜてあげる。

 そんなアツアツのお茶を、クレメンテは一気に飲み干す。

 リリットは『ヒェッ!』と小さな悲鳴を上げた。舌が火傷しそうだと思ったが、白竜の鱗があるので、大丈夫かと放っておく。


 リンゼイは父親から勘当されたことを話す。だが、「ふ~ん」という反応しか返ってこなかった。


「これで、兄妹全員勘当された訳か」

「え?」

「俺も勘当されたし、トランは何十回も勘当されている。リーヴィも三回くらい」

「リーヴィ兄上まで!?」


 父親の勘当発言は、そこまで重みがある言葉ではないと話す。


「だから、父上、ウィオレケが本当に出て行った時は、落ち込んだと思うよ」

「なんて酷い話なの? あの子がどれだけ傷ついたことか」


 父・ウィルクスは、十三歳の息子の行動力を甘くみていたのだ。


「あ、ウィオレケと言えば」

「ん?」


 ウィオレケは近々国に帰す予定になっていた。

 竜の子供が生まれ、親竜が契約を結ばせてくれるという話もする。


「それで、あの子の身元保証人になって欲しいんだけど」

「なんで?」

「だって、父上の元に戻すのは、心配だし」


 ルイは自らの竜を休ませる広い土地も持っていた。上の部屋は空いていると前に言っていたし、ちょうどいい環境であった。

 だが、ルイはすぐに顔を顰める。

 リンゼイはウィオレケは料理が得意で、一緒に住んでも損はないと伝えた。


「う~ん」

「ねえ、いいでしょう?」


 一人しか居ない弟でしょう? と言えば、渋々と承諾してくれた。

 リンゼイは、ここに来て良かったと、安堵する。


 それから、クレメンテを交えて会話をする。


 ルイは火竜の魔法について知っていたが、興味がないからか触れることもなかった。

 代わりに、意外なことを聞いてくる。


「リンゼイのどこが好きになったの?」


 クレメンテは口に入れたばかりの肉を、噛まずにそのまま呑み込んでしまった。

 口の中と顔が熱くなったので、カップの中の水を一気に飲む。

 リンゼイはルイになんてことを聞くのかと、怒っていた。


「でも、気になるし」

「恥ずかしいこと聞かないで!」


 顔を真っ赤にしたリンゼイがそう言うので、クレメンテはルイに、今度手紙にしたためて送りますと言った。


「分かった」

「どうしてそうなるの!?」


 リンゼイを振り回す人間が居るとはと、リリットは珍しい光景を楽しんでいた。


 食事が終わってすぐに、おいとますることにした。


「あ、そう。じゃあね」


 ルイは止めずに、視線で見送りをした。


 兄妹の別れは、あっさりと過ぎていく。


 ◇◇◇


『リンゼイのお兄さん、面白いひとだね』

「癖が強くて、でしょう?」

『まあ、ね……』


 クレメンテは酷く緊張をしたと、長い息を吐いていた。食事の味も、お茶の熱さも分からなかったと話す。


「緊張するような相手でもないでしょう?」

「そんなことないですよ。とても、ご立派な方で……」

『確かに、ご立派な態度だったね』


 濃い過ぎるアイスコレッタ家の血筋に恥じない人物であったと、リリットは評した。


 次に向かったのは、都で一件だけ存在する薬屋。

 店舗自体はとてもこじんまりとしていた。

 当然ながら、客は居ない。

 店内には、店番をする人工精霊の光球があった。

 いろいろと参考にしようと思って来たので、店員が居ないのはありがたい。

 そんなことを話しながら、商品を見て回る。


『商品のパッケージは、リンゼイ達のお店の方がおしゃれだね』

「そういえば、そうね」


 ミラージュ公国の薬には、薬の名前と効能、値段が書かれた札が付いているだけであった。

 値段はどれも『メディチナ』の半額以下である。


『いやあ、かのお店のぼったくり価格が一目瞭然となるお店ですな』


 『メディチナ』の薬は一般向けではない。

 安価で提供をすれば、市場が崩壊してしまうので、仕方がないぼったくり価格だった。


 リンゼイは薬を手に取って、クレメンテに説明をする。


「これは、空を飛べるようになる軟膏」

「そ、そんなものが」

「でもこれ、効果が切れたら落ちちゃうのよね」


 途中で効果が切れて、空から真っ逆さまに落下する事件がいくつも報告されていた。

 その事件をうけて、浮遊魔術が使える人以外は使わないで下さい、という説明書きがある。


「多分これ、売っちゃだめなんだと」

「ですよね」


 それからも、突っ込みどころが豊富な薬を見て回る。


 声が変わるのど飴、足が速くなる美爪液、胃袋を大きくする薬に、好きな夢が見られるようになる目薬、風邪をひいてしまう薬など、不思議なもので溢れていた。


『あ、クレメンテ、これ、いいんじゃない?』


 リリットが持って来た薬は、『明るい性格になる錠剤』。クレメンテはいいかもしれないと、リンゼイに買っていいか聞いてみる。


「そんなの、要らないから」


 それに、国内の物を国外へ持ち出すには、大変な手続きをしなければならなくなるので、買わないようにと言っておいた。

 初日に購入した、クレメンテの腕輪は既に申告済だった。

 今からするとなれば、大変面倒だとリンゼイは言う。


『それにしても、おかしな効果がある薬ばっかりだなあ』

「私達の中で薬と言えば、こういうのを示すんだけどね」


 薬とは、面白効果を望むもので、体調不良を治すものではない、と。


「私みたいに、体の機能を回復させる薬を専門的に作る魔術師は居ないと思う」

『そうなんだ~~』


 ミラージュ公国内は通年過ごしやすいような温度管理がなされ、家の家事を行う人工精霊に寄って健康的な食事が提供される。なので、体調を崩すということも、ほとんどない。


「リンゼイさんは、どうして霊薬エリキサのような薬の専攻を?」

「う~ん、あまり、手垢のついていないものだったから、かな」

『なるほどねえ~。リンゼイらしいかも』

「そうですね」


 結局、薬屋で参考になりそうな品物の発見には至らなかった。


 商店街をぶらぶらとしているうちに、夕刻を知らせる鐘が鳴る。


『一日中暗いから、時間の感覚がなくなるね』

「そうですね」


 街中を漂う人工精霊が、ほのかな光を放ちながら、ゆらゆらと揺れている。


「綺麗ですね」

「私にとっては当たり前の光景だけどね」


 リンゼイには、セレディンティア王国の澄んだ青空の方が美しく見える。

 ミラージュ公国は魔力の濃度が高いので、青い空が広がることはほとんどない。


 その光景を思い出せば、久々にメレンゲに跨り、青空の下を飛びたいと思った。


「リンゼイさん、帰りましょう」

「そうね」


 こうして、クレメンテとリンゼイの新婚旅行は終わる。

 帰り道にもいろいろあり、リリットの絶叫が何度も上がっていた。


アイテム図鑑


風邪をひく薬

ちょっと明日の用事が憂鬱。

そんな時に飲めば、発熱とのどの痛み、咳が止まらなくなる効果が出る。

一日たてば治るので、安心。

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