表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼海機動ヴァルハラ・ホライズン ~報復の指揮を執る追放・企業令嬢は、無感情な「最強パイロット」と共に戦火の海に歯向かっていく~  作者: 不乱慈


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/43

第35話 戦争ってことか……?

「今回の依頼主はアルジャバール・インダストリー、そして伽御廉重工」


 三人のGSパイロットが入室するなり、前置き無くセレジアは始めた。

 状況はひっ迫しているようだった。彼女の白い額に僅かな汗が滲んでいる。


「八時間前。ベリトリーニの本拠点浮揚施設“オメルタ”が消滅しました。何等かの弾頭による膨大な熱量が、施設を溶解し、二次的に発生した水蒸気爆発がプラットフォームを完全に破壊。この奇襲を為したゼニットの新鋭艦が、直後に海域を離脱……」


「待って待って、待って……」


 目をパチクリさせながら、ナイアが両手を突き出す。

 セレジアは聞こえていないのか、聞こえているのか。

 制止を無視しながら、ホログラムの画像を切り替えた。


「これを機に『協議会』は解散。直後に、ゼニット・コンツェルン、並びにSAVIO社から、クライアント二社に対する実質的な宣戦布告が行われました」


「待ってよ! セレジアさん!」


「なんですの? ブリーフィング中ですのよ」


「ごめんね、ちょっと分かんなかった。何? ベリトリーニが?」


 ふう、と息をついて、セレジアはホログラムの操作を止めた。


「そうですわね。ごめんなさい、焦っていますの……」


 ホログラムが巻き戻され、ゼニットの新鋭艦の姿を映す。

 角ばった砲を背負った、鋭角な棺桶のような黒塗りの艦だ。


「ゼニットが、ベリトリーニ・グループの本拠地を沈めたのですわ」


「これって……フィンを攫ったときのヤツだよね……?」


「その通り。確か、名前は〈グラム〉といっていましたわね。これが撃ち出す弾頭――彼らの言う“ソリス”は、すなわちクォーツ式多重電磁圧縮弾頭です。強力な電磁パルスによって結晶崩壊を起こし、相転移によって超高プラズマ熱を拡散します」


「悪いが、セレジア嬢。何を言っているかわからないぜ」


「私もです。資料はともかく、これは戦略兵器級の熱量照射を、広範囲に渡って照射する弾頭なのですわ。この惑星の環境下では、最悪の兵器といえるでしょうね」


 セレジアの言うことはもっともだ。莫大な熱量を放つ兵器とは単純な発想ではあるが、この惑星の兵器、艦船、都市や施設の全ては、すべて海洋に浮かんでいる。


 “ソリス”の熱は、上から降り注ぐ攻撃的な熱戦であるのと同時に、足元の海水すらも兵器化する。GSは冷却機構を侵され、浮揚施設は地盤を吹き飛ばされるのだ。


 その何割かの恐ろしさは、ツグルク設計局でナイアたちが既に味わっている。


「これ……戦争ってことか……?」


 ようやく理解がおいついて、ジョニーがゆっくりと訊ねた。


「そういうことのようだ。それで、俺たちはアルジャバール側に着くのか?」

「もちろんですわ。そして、私たちの目的は〈グラム〉の生産を止めることよ」


「……はあ。クレームの電話でもかけまくるのか?」


 ジョニーが肩をすくめて言った。セレジアは一瞬、微笑みを返す。


「もっと直接的ですわね。ゼニット保有の造船工廠の襲撃を行います」


 その言葉に、バーシュ兄妹が固唾を飲んだ。

 そしてフィンもまた、少しだけ顎を引いた。


「おいおい、天下のゼニット様の生産施設を襲撃しろって?」

「ちょっと攻め込むには戦力が足りないんじゃないかな……?」


 兄妹がそれぞれ口にする。セレジアは続けた。


「大丈夫。主戦場はあくまでも“ナサニエル大鉱脈”近海ですわ。……数か月に見つかった、惑星メルヴィル最大規模のアビサル・クォーツ鉱脈。覚えていまして?」

「確かニュースでやってたよね。ロドス海の断層で見つかった、大きな鉱脈だって」

「以後十年は枯れない、とか言ってたかねぇ……」


 ジョニーがそっと言葉を付け加え、ナイアが頷いた。

 フィンはいつも通り、黙って話を聞いている。


「大鉱脈の所有権は、アルジャバールとベリトリーニが共同で保有していました、一方のベリトリーニは、本社が壊滅的な打撃を。僅かな残存兵力が混乱した指揮系統のまま、大鉱脈へと侵攻してきたゼニット・SAVIO軍と交戦していますが……」


「制圧は間もないだろうな。彼らはこれを手に入れるためだけに、五大企業の拮抗を崩したというのか?」


「おそらくは、あの新型弾頭“ソリス”の開発がきっかけなのでしょうね。そして、戦場では〈アラクネ〉タイプの機体が多数確認され、猛威を振るっているとも」

「強化兵士の……ヘイロー・プロジェクトの本格的な実践投入に踏み切ったわけか」


 ホログラムが、リアルタイムで中継される海域の戦闘の空撮映像に変わった。

 ベリトリーニ社の企業軍GS部隊が、赤と黒の〈アラクネ〉に蹂躙されている。


「こっちには手ェ、貸さなくていいのかよ」

「アルジャバールと伽御廉の共同軍が、間もなく増援に向かいます」

「大規模戦になるな。そこに兵力が割かれていれば、なるほど」


 セレジアはヒールを鳴らして、ホログラムを終了した。


「これほどの破壊力を持った“ソリス”を抱えたあの艦が造られ続ければ、間違いなくこの惑星のパワーバランスは崩壊する。それを守るのはゼニットの強化兵士たちと、SAVIOの高練度GS部隊……父が望む、力の論理の世界の完成、ですわ」


「力によってもたらされた、完全なる安定と調和、とういうわけか。だが……」


 うつむきながら、フィンが呟いた。


「いや。この戦い、まだ何かある……ヤツがまだ手札を隠し持っている」

「フィン? ヤツって、シュルプリーズのこと?」

「根拠はないが……この戦いの着地点が、ヤツの理想だとは俺に思えない」


 ヤツは混沌を望んでいた。誰にも握られることのない未来を欲していた。

 しかし、いま作られようとしているのは、強者によるディストピアである。


 統率と調和。同一個者による権力の掌握。

 それを守り、安定させ、継続させるための歯車としての兵士たち。


 シュルプリーズが最も嫌悪し、破壊しようとしていた既定未来。

 死んだミゼッタの遺言が、ふとフィンの脳裏に呼び起こされた。


“これからもっと……生きやすい世界になったのに……”


 フレームワーク化された戦争に、辟易とした純粋な戦士。

 定められた生まれと終わりに、絶望した人工の強化兵士。


 彼らが生きやすい世界がここに成り立つとは、到底思えなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ