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蒼海機動ヴァルハラ・ホライズン ~報復の指揮を執る追放・企業令嬢は、無感情な「最強パイロット」と共に戦火の海に歯向かっていく~  作者: 不乱慈


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第30話 火傷ってけっこー痛いでしょ

 インスマス号に帰投し、コクピット・ハッチを開いたフィンを出迎えたのは、整備クルーたちの拍手だった。


 その意味するものが、いまの彼には少しだけ理解できる。

 だから彼は、小さくくぐもった声で言った。


「心配をかけた」


 整備クルーたちの中から、浅黒い肌の男が歩み出てくる。

 整備士班長であるマハル・マイヤーだ。


「良く戻ったな」

「ああ……。マハル、早速だが頼みたいことがある」

「おお? 別にいいが……なんだ?」


「青い塗料は、まだ残ってるか? 手が空いていたら塗り直してくれ」


 後ろを振り返って、赤く染め上げられた愛機を見上げる。


「……へえ、この色じゃ気にいらねえってか?」


 にやりと、マハルが口角を吊り上げた。


「ああ。この色は好きじゃない」

「ようし、任せとけ。お前ら、塗装道具もってこい!」


 彼は言うなり、いきなりクルーたちに指示を飛ばした。


「……手が空いてるときで良い、と言ったはずだが」

「まあまあ、祝いみたいなもんだ」


「――――フィンッ!」


 と、よく知る人の呼び声が、キャットウォークの上から響いた。

 セレジアだ。彼女はスカートの裾を持ち上げながら、必死で走ってくる。

 それもヒールのままで。ステップで転びかけるのも当然だった。


「……あっ」


 転倒を阻止しようと、フィンが彼女を抱きとめた。

 衣服ごしに、互いの体温を感じ合う。顔と顔が近い。


「フィン……おかえり……!」


 そのままセレジアは、フィンを強く抱きしめた。

 顔は涙に濡れ、メイクが崩れてしまっている。

 フィンはその姿を隠すように、腕で覆い、抱きしめ返した。


「安心しろ、セレジア。俺はもう、どこにも行かない」


 瞬間、格納庫中から歓声が沸き上がった。

 口笛が吹かれ、拍手が殺到する。

 だが、一人たりとも茶化すような言葉は吐かなかった。


「――お前ら! 見とる場合か! 三機分のメンテと修理、あと塗装!」


 それらはマハルの怒号によって、一瞬で鎮火する。

 その喧噪を見下ろすキャットウォークの上に、人影が増えた。


 バーシュ兄妹だ。


「……よかったのかよ、ナイア」

「なにがさ、兄貴」

「いや、だってよ、お前ってアイツのこと――」


 ナイアは包帯を巻いた兄の腕を肘で小突いた。


「いでででッ……! 何しやがる」

「どう? 火傷ってけっこー痛いでしょ」


 ナイアはくるりと踵を返して、通路へ続く扉へ向かう。


「……器用なヤツだよ。お前は」


 顔を見せないように歩く妹の背を、兄は静かに追って歩いた。


 ◇


 インスマス号のブリーフィング・ルームに、三人のGSパイロットたちが揃うのは久しぶりのことである。その光景に内心、満足感を憶えつつ、セレジアは訊ねた。


「フィン、彼らと共に居たときのことを教えて下さる? 情報がほしいの」


「ああ。シュルプリーズたちは、このメルヴィルの海域のあちこちに隠しドックを用意し、そこを経由しながら各地に襲撃を仕掛けていた。目的は、次世代型のヘイロー・インプラント用の学習データ集めだ。インプラントが演算用に基準値とするためのベースデータ・プリセットを造るために、俺たちの戦闘データを採っていたんだ」


 セレジア、ナイア、ジョニー、フィンに、バートラムが紅茶を注いで回る。

 それを冷ましながら、ジョニーが言った。


「ってぇことは、アイツら、まーだどっかで強化兵士とやらを作るつもりらしいな」

「そこまでは聞かされなかった。だが、間違いなく他の生産施設がどこかにある」


 それと――、とフィンは続ける。


「カティアが連れ去られた。アイツを取り戻したい」


 眉根を持ち上げ、セレジアが問う。


「それについては、マハルからも話が上がっていましたわ。機体中枢に取りつけられていたブラックボックス――カティアの本体ともいえるニューロモルフィック・デバイスがごっそりと取り除かれていた、と。……いったい、彼女はいったいどこへ?」

「SAVIOの第七兵器演習場“ホワイト・ノード”。そこに、彼女は居る」

「ん? ちょっと待ってよ、フィン。なんでそこでSAVIOが出てくるのさ?」


 ナイアが首を傾げた。無理もない。

 全てはゼニットの陰謀だったはず。


 なぜ五大企業のひとつが、そこで絡んでくるというのか。


「それについて俺も疑問だが、あのときの俺は何も思わず従っていた」

「へっ、これまた随分ときな臭い話になってきやがったじゃねーか」


 話を聞きながら、セレジアは手元のスマート・パッドを叩いていた。

 フィンの語る情報を整理して、ファイルにまとめているのだろう。


「……以上が、俺が覚えていることのすべてだ。これでいいか? セレジア」

「ありがとう、フィン。少しだけ、状況が見えてきたようなきがしますわ」


 ふと息をついて、セレジアは静かに語り始めた。


「まず、現〈アラクネ〉たちの襲撃は、次世代型の強化兵士の生産のための、データ収集だった。次に、どういうわけかゼニットとSAVIOの二社は、繋がっている」


 顎に手をやり、彼女は少し考え込んだ。


「……新たな強化兵士を使って、ゼニットとSAVIOは何かしようとしている?」


 その思考を遮ったのは、フィンの言葉だった。


「いまは無理だ、明らかに情報が欠如している。考えるよりも、先に――」


 彼は全員を見回し、真剣な眼差しで告げた。


「俺はカティアを助けたい。どうか協力してくれないか」


 微笑む者、頷く者、袖を捲る者。皆の意見は一致していた。


「ええ、必ず取り戻しましょう。私たちの大切な仲間を……!」

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