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人間の王国と魔族の王国。世界はこの二つに分たれていると過言ではない。そして長い年月をかけて世界の覇権を賭けて争っているが、現状は人間側の方が徐々に優勢になっている。もちろん長い歴史の中で人間側が壊滅しかけたこともあるし、魔族の方が逆の立場に陥った時もあったらしい。
だが、この王都が魔族に支配されたことも逆に魔王城が人間の手に落ちたことはない。そんなこともあってか、ここの住人は絶対安全の領域だと信じて疑っていない。
「賑やかですね。平和と平穏、娯楽に溢れています」
城下町でお茶を提供している店の一角に角の生えた額当てをつけた男と、頭にフードと額に銀の角を模した装飾品をつけた女、紫の毛色で狐耳の亜人、耳の後ろに伸びた角を模した装飾品をつけた銀髪の少女がテーブルを囲んでいた。
「・・・平和と平穏を目立たせるために、娯楽を発展させる。そうすると多くの目がそっちに向き、不都合なことを裏で行うことができる」
「この平和は偽物なんですか?」
「いいえ、偽物とは違います。この平和は確かに存在していますが、裏には平和じゃない何かも存在している。それだけの話です」
ウララの頭につけた装飾品がチャラチャラと音を立てた。
「ま、そのおかげで私達も目立たないんだけどね。リウィとヨウビはまだ人間と協力関係を結んでいる亜人だからまだそのままでも大丈夫だったけど、ヤシャクと私はこうして知らない誰かの皮を被り変装して冒険者と踊り子よ」
言い方としてはグロイものを思い浮かべてしまいがちだが、ヤシャクとウララの姿はそのままだ。精々角を隠す程度だ。本来なら、二人は魔族だから結界の内部に入れば感知されてしまう。血と魔力は誤魔化しが効かないと思われ、知らなければ確実に感知されるし知っていてこの王都に入ろうとするのは頭の悪い奴のすることだ。
だが、ここにいる鬼神はそれを利用した。完全に擬態することは不可能だが、不完全でもいい。感知とは言っても人間が持つ魔力というのは魔族と比べて遥かに少ない。主に感知されるのは血で魔力への精度はまだ低い。 血が感知せず、得体の知れない魔力があるならばそれは外部のものである。もちろんこの国の全ての国民を登録できているわけじゃないし、人間と協力関係にある多種族からは拒否する者も少なくない。
だから亜人やエルフ、ドワーフなんかは城門で検問されていた。ヨウビは魔力こそ高いが、わざと魔力を消耗して少なく見せれば普通の亜人と見なされ簡単な検査で通った。リウィは魔力を持たない亜人(希少種だったので随分と調べられたらしいが)なのであまり疑われなかった。
そしてヤシャクとウララはというと・・・。
「血を感知するならば、登録された血を身に纏えば良いだけの話です」
ヨウビとリウィを先に潜らせ、ヤシャクに指示された場所へ行く。そこにいた王国にいる協力者から献血で集めた血を大量に貰い、裏口を使ってヤシャク達に届けた。
次にウララの力で血をドーム状に霧散させヤシャクとウララの体中に細かくまとわりつかせる。
こうすると結界は登録した血に反応する。魔力にも多少反応するだろうが人間の量のようにボカせているはずだ。
「わざわざ二度手間なことをしなくても、門から出てきたやつ何人か殺して血を抜き取っても良かったんじゃないの」
「いやそんなことをすれば死体の処理が大変じゃし鼻の良いやつとかに勘づかれでもしたら厄介じゃ。一応言っておくとお主らの纏っている血が少々匂っておるよ。人間の嗅覚では分からない程度じゃが」
ヨウビが鼻を手で摘んでいた。鬼は鼻が効く方ではないがそんなに匂うのだろうか。
兎にも角にも王都に潜入は成功したのだ。あとは当初の目的に移るだけだ。
「そろそろ本題を説明してくれない?あたし達は何をすればいいの」
「この王都には大勢の魔族とその他大勢の種族が囚われているそうです。多くは戦争のどさくさで捕虜になった者や、人攫いによって奴隷となった者達ばかりです。今日の夜にある場所で違法オークションが行われるそうなので侵入、奴隷達の解放が目的です」
戦いで勝者が全てを手にするという言葉はあながち間違いではない。戦争で大敗して運よく生き残ったとしても生捕りにあうことも珍しくない。
「近年、魔族は減少傾向にあります。人間が戦争で連戦連勝しており魔族もその分死ぬか生捕りにされています。破壊と抑制を役割とする我々が減っては、世界は人間で埋め尽くされてしまいます。長い目で見ると看過できないことです」
「でしたらここで暴れて被害を出せばよろしいのでは?」
「王国も広いです。この王都で数百人規模で殺すのも可能といえば可能でしょうが、全体で考えると少々痛手を負った程度です。それぐらい今の人間達の数は多いのです」
「なら王を暗殺するのはどうじゃ?正面から行ってもわらわ達の敵ではなかろう」
「そうすると確かに混乱を招けますが、ここにも手だれは大勢いることは調査済みです。魔剣などの魔道具や魔導兵器が出てくれば私達でも無傷ではすみません」
魔道具は人間が魔族に対抗することに開発された。人間がその身に持つ魔力は魔族からすれば少ないが、魔道具は少ない魔力でも圧縮や膨張、爆発力を利用して魔族の魔法に匹敵する威力が出せる代物だ。繁栄と発展が得意な人間ならできることだが、戦争に活用された結果魔族は甚大な被害を被った。
「物理的な兵器ならともかく魔力を使った兵器とは、確かにこの結界といい魔族には考えつかんの。そもそも必要とすら思わんじゃろうしな」
「ええ、魔王様も碌に考えていません。魔族を統括している身としてあれはどうなのですかあれは」
「魔王様は魔族で一番の魔力量を誇るから、自分がその気になれば何でもできると思っているしね」
いけない、このままでは雑談で時間が過ぎてしまう。
ヤシャクは話に華を咲かせている三人を背に目的地に向かって歩き出した。声をかけなくても妻達は後に続いてくる。まだお喋りを続けているが、今は観光を楽しんでいるようだ。
・・・・遊びに来たわけではないのだが。
*
闘技都市。広大な湖のど真ん中にある島の上に造られた都市であり、五つの闘技場を中心としてカジノ、賭け事等の娯楽で栄えている。島そのものを長年かけて拡大させ、今や小国規模にまでなっているという。
「私達の同胞はこの闘技場で日々戦わされているそうです。囚われているとしたら地下に牢獄が・・・」
「ヤシャク、ちょっと待って」
ウララが手を突きつけて止めた。どうも顔が不機嫌そうだが何かあったのだろうか。
「何ですか」
「私達ついさっきまで王都にいなかった?」
そう、ほんの先刻までヤシャク達は王都にいた。そして目的地に着いたとき、瞬く間にこの闘技都市に立っていた。
「ええ、転移魔法陣を発動させることに無事成功したようです」
ヤシャクは王都にある貴族向けの高価な物品を揃えてある店の内部から裏口に出て、五つある扉を右から一つ目を先に入ってすぐに出た。三つ目は三回ノックして入らず四つ目で二回ノックして入ってすぐに出る。五つ目で入りますという掛け声をして入らず二つ目で三回ノックして入りますの掛け声をして入る。するとこの闘技都市にいたというわけだ。
「あれは扉を開ける順番とノックする回数、掛け声を複合させた暗号です。少しでも間違えてしまうと次入るのが難しくなるのです」
流石は人間、ここ闘技都市は人間側でも非公認、闇に位置する場であるらしく世間から隠すために偶発的な発見を防止するために徹底していた。ここは闇に精通する大きなを富を有する貴族や商人、裏社会の人間達が娯楽として、あるいは密談や取引の場として扱われている。表裏両方を警戒しなければならない陸と違い、この島では裏のみを警戒すればいい。船で近づくことは岩礁で難しく、外から入ることを拒む結界、年中過酷な悪天候、さらに陸からは霧がかかって見えない。この広い湖で彷徨う危険のリスクもあり、この島の存在は噂程度でしかない。運よく発見できても生きて帰れることはこの島を開拓した人間達でも難しいというわけだ。
「そんな何重にも良くも悪くも都合の良い状況の中どうやってこの規模まで開発できたんじゃ」
「今となっては再現不可能技術の部類ですがね」
もしかしたら昔は、とも考えられるが今となってはどうでも良いことだ。
「あの謎の無駄に見える変な部屋の出たり入ったりにそんな意味があったなんてね。てゆうかそれ早く言いなさいよ。正直周りくどいし見てて部屋を間違えまくってるおバカにしか見えなかったわ」
「言い方キツイのう。じゃが、客観的に見たら付き合って出たり入ったりしていた我々もバカに見えていたと思うぞ」
「その通りです。あの一連の動きは一見バカに見えますが、この場所に辿り着かせないようにするにはいい擬態です」
そもそもあの裏口自体、建物と建物の細い裏路地にあるから物陰から見ていたとしてもどこの部屋にどの順番で入っているのかが非常に把握しづらい角度になっている。
「魔族はこういうことが苦手なので、この手順を確実に把握するのにもかなりの年数を費やしました」
ウララは思った。ここに潜入している魔族は相当頑張ったのだろうなと。
「それでは、一つずつ見ていくとしましょう」
丸一日かけて分かったことは、闘技場の形態は全て違う。丸く中央で戦う第一闘技場、四角く地形操作で地面の形が変わる第二闘技場、球場で天候と地面の性質を変えられる第三闘技場、単純な殺し合いではなく勝利条件が日によって変わる第四闘技場、力ではなく知能と心理で闘う第五闘技場。
賭けの対象となっていたのは魔族のみならず獣人、エルフ、ドワーフ、人間も少なくなかった。人間に味方している種族は細かく区別されていたが、魔族は魔族と一括りだった。魔族も種族は色々あるのだが・・・。
「失礼しちゃうわね。私とヤシャクは鬼で、ヨウビは妖族って決まっているのに」
「何故私だけ何も仰らないのですか」
「いやいや、リウィは獣人でしょう。たぶん・・・希少種っていうね」
「それでも仲間外れは嫌ですわ!」




