入部1
五月も中旬に入った時、もう既に外は暑かった。暑すぎると言っても過言ではないだろう。なんでもう既にこんなに暑いのか地球に尋ねてみたいところではあるのだが、僕はそんな無駄な量力を使うほどバカではない。本当に地球がおかしくなってしまったのではないかと心配になるが僕が心配したところで地球にとっては大きなお世話だろう。そのうち人間が住めない気温になってもおかしくはない気がする、それはそれで面白そうだ、学校に行かなくてもよくなるからな。
僕は学校の授業が終わり、鉛のように重たい足をなんとか動かして帰ろうと門のところにまでやってきたのだが、そこには僕を待っていたかのように仁王立ちをする一人の女子生徒がいた、見た目はアイドルのように可愛く、肩まである黒髪がとても似合っている、目がぱっちりとしていて身長は僕より少し低いくらいだろうか。もちろん僕の知り合いでもないし、ぼっちで人とはほとんど関係を持たない僕に用があるはずがない。だがしかしその女子生徒は僕の方をガン見している。
そんなに睨んでたら門を通れないだろう・・・・
なにか僕に恨みでもあるのか? 僕には一切心当たりはないのだけれど。
「あなたが佐々木伸一ね!」
その女子生徒はいきなりそんなことを言ってきた。顔には満面の笑みが広がっているし、何が嬉しいのかかなりはしゃいでいるようにも感じられる。早く帰りたい僕は全然楽しくないのだけれど。その太陽に負けないような元気発剌な人間を無視できるほど僕のメンタルは強くできていない。仕方なく僕は返事をすることにした。
「そうだけど・・・・」
「私は鈴下咲、あなたを部活に入れるために会いに来たのよ!」
一体この鈴下咲という女性は何を言っているのだろうか。僕を部活に入れる? 僕は当然特質して運動神経がいいわけではないぞ、むしろ平均以下だ、偏差値で言うと四十五くらいだろう。そんな僕に入部を要求してくるということは廃部寸前の人数不足の部活にちがいない。だから暇そうな奴に片っ端から声をかけ、人数を補給しようとしているのだろう。もちろん僕は部活なんて面倒くさいものに入る気はない。ただでさえ生きてるだけで死にそうな僕が部活なんて入った日には間違いなく即死だ。
面倒くさすぎて死ぬだろう。
死因は面倒。
そんなんで死んだら家族が悲しむだろう。
一族の恥だ。
というわけでここは丁重に断らさてもらうことにしよう。
「すまないが僕は部活に入るつもりはない」
「あなたに拒否権はないわ」
「なんでだよ!」
なんて強引な女なのだろう、そんなにも部活を廃部にさせたくないのだろうか? 僕には理解できない感情だ。部活なんてなくてもいいだろう、しかもそんな廃部寸前の部活、いやまだ廃部寸前の部活と決まったわけではないのだけれど、ついつい自分の推理を引用してしまったようだ。
「ていうか一体なんの部活だよ、こんな時期に勧誘なんて時期遅れにも甚だしいわ、しかも僕は二年生だぞ、普通勧誘するのは一年生だろう」
「あなたじゃなきゃ意味がないのよ」
なんだよそのかっこいいセリフは・・・・、
だがもちろんそんなのに乗せられて部活に入るほど僕はバカではない。それほど僕は部活に入りたくないのだ——面倒くさいのだ。ていうか「あなたじゃなきゃ意味がない」ってどういう意味だよ。僕なんて量産型高校生だぞ。
「どういう意味だよ?」
「私の所属している部活は『人生更生部』と言ってダメ人間を更生させる部活なのよ」
なるほどこれでやっと状況が理解できたぞ。もちろんこいつの部活の必要性は理解できないが。要するにこいつはダメ人間を部活に入れ、そいつの人生を良い方向に持って行く、いわば人生相談的なことをする部活に入れと言っているらしい。それで毎日面倒くさそうに生活している俺は格好のお客さんというわけだ。とてつもなく迷惑だ。
「そんな変な部活に入るつもりはない」
「あなたに拒否権はないわ」
「なんでだよ!」
まだそれかよ!
どんだけこいつは自己中なのだろうか、この世の自己中な人間を全て一つにしてもこいつの自己中さには勝てる気がしない。そんな勝負どうでもいいのだけれど。
しかし僕はどんなに無理やり勧誘され用が入る気はない。
断固拒否!
「もう既にあなたの入部手続きは済んでるわ」
「嘘だろ!?」
なんだよその無駄な手際の良さ!
ていうかどうやって僕の印鑑を入手した!?
軽く犯罪だ!
だがしかしここで引くわけにはいかない。いつも妥協をすることによって不幸になるのは僕の人生経験上はっきりしているのだから。何としてでも入部は拒否しなければ、こうなったら最後の手段。
逃げる!
「今から僕大事な用事あるから、じゃあね!」
僕は人生最大の瞬発力を発揮してその場を立ち去ろうとした、しかし既に僕の腕には手錠が掛けられていた。
「いつの間に! ていうか何で手錠!?」
「これであなたは逃げられないわ、今は私と一心同体、だから私の言うことに従ってもらうわよ」
「なんて卑怯な女だ・・・・」
まさかここまでの女だとは・・・・、
僕の想像をはるかに凌駕する人間だ。こんな女に出会うことが僕の人生の中であるとは思ってもみなかった。まだ世の中には僕の知らないことがたくさんあるらしい・・・・
「それで部室に行ったら外してくれるのか?」
「もちろんそのつもりよ、ちゃんと鍵は私のポケットの中に・・・・あれっ? おかしいわね確かこの中に・・・・あっ! 鍵家に置いてきちゃったわ!」
「ふざけんな!」
何となく嫌なことが起こりそうな予感はしていたけれど、これはひどすぎる! 何だかこいつと出会ってから不幸なことしか起きていない気がする。まさか疫病神じゃないだろうな、そんな気がしてきたぞ、いや絶対そうだ! そうに違いない!
「まあ鍵はいいとしてとりあえず部室に行くわよ」
「全然よくねーよ! 鍵持ってこいよ!」
鈴下咲は僕のセリフを無視して強引に腕を引っ張って部室に連れて行こうとした。さすがの僕ももう抵抗する余力は残っていない。とりあえずはこいつに従うしかないだろう。なにせ鍵という人質をこいつは持っているのだから・・・・持っていると言っても家にあるらしいのだけれど。




