第四話 侵入者こと美少年は王子さまでした
ちょこっと改変。話続けられるかな……。
真剣に、しかし確固たる決意ある言葉と視線に、私は思わず首を傾げそうになった。
―――魔王から”きょうだい”を取り返す?
(なんのこっちゃ)
うちの妹に人間を誘拐して楽しむ悪癖はないはずですが?
確かにこの魔界には、この魔王城の厨房を任せている人間の料理人・ラルルさん以外にも人間はいる。
大抵は、妹が魔王になる前の、先代以前の魔王たちの時代に、魔族たちが気まぐれに攫ってきたり、はたまた人間たちが魔族の力を借りようとしてその対価に生贄として差し出して来たりした人間だ。
あとは、何かしらの理由があって、自分の意思で特定の魔族について魔界にやって来た人とか。
とにかく、そういった人間は男女問わず百人にも満たないけど、確かにいる。
妹は、魔王になってからそんな彼らのことを知り、尚且つ本当に一握りの人間たちしか身の安全を確保できていないとわかるや否や、すべて自分の囲いに入れた。
そして、普段魔王や側近の四大公、城を維持するために住み着いている小さな魔族たち(シルキーや小型のゴブリンだ)以外使っていない、このだだっ広い魔王城の一角に、彼らの居住地を作ったのだ。
もちろん、自分の国に帰りたいと願った人間は無条件で魔王自ら無事に帰している。
そして、帰った所で居場所がないという者は、本人たちの意思の元、魔王の庇護下においてこの魔界でも安全に暮らしているのだ。
もちろん、生活は自給自足で、多少なり魔王城を維持するためにいくらか仕事もしてもらっているし、その分ちゃんと(人間の通貨で)給与を出している。
その他、魔王城で暮らしていない人間………それこそ、特定の魔族について来た人間(ほぼ全て恋愛関係だ)についても、妹が魔王である限り「一族ないし個々の命に関わることがない限り、悪戯に害してはならない」と魔族全体に言い渡している。
それに加えて、妹が魔王に就任してからは、個々の興味や悪戯の為に人間を攫ってくるのも、人間から力を貸してほしいと召喚された先で生贄として人間を受け取るのも全面的に禁止していた。
いわく、『人間だろうと魔族だろうと、命を売り買いしたり、本人の意思をないがしろにした他人間でのやり取りは心底嫌い。私がそんなことされたら、全力で両者を潰すもん』
と、かなりイイ笑顔で言っていた。これにはお姉ちゃんも同感だ。
兎にも角にも、妹が魔王に就任してからのこの十数年含め、今現在もこの魔界で理不尽な目に遭っている人間はいないはずだ。
(しかも、魔王から取り返すって………)
妹は基本魔界内でしか外出しない。
いずれは人間界にも行ってみたいと言っているけど、取りあえず今は魔界を散策するので満足してくれているのだ。(妹を外に出す時にはもれなく私も連れ出されるのでできれば遠慮したい)
そんなあの子が、人間を攫ったというのだろうか?
濡れ衣もいいところだ。
他の魔族たちにしてもあり得ない。
魔界最強である魔王が禁止していることを秘密裏だろうが公だろうが行えば、それはそれは手酷い罰を受けることになることも決まっているのだ。
そもそも、彼らには魔王に逆らうという考えはない。おまけに魔王妃である私も全面的に魔王の味方なので、魔界のツートップを怒らせたら魔界で暮らせないどころか、下手すると存在自体抹消される。主に四大公によって。(命令しなくとも彼らはそれくらいやってのける。怖い)
総合して、美少年の「魔王から”きょうだい”を取り戻す」という意味が分からない。
「きみ……えと、あなたは……」
「ああ、すまない。名乗るのが遅れたな。私はルクスライン・アースヴィルド・レイスヴォルグ。グラティナス王国の第二王子だ。こっちはグリス」
「——―——―王子?」
怪訝に思いながらも他に情報はないかと口を開いてみると、これまた衝撃の事実が告げられた。
そして大トラ魔獣の名前は『グリス』というらしい。響き的に女の子だろうか。こんな強面なのに。
グラティナス王国といえば、位置的に言えばこの魔界と境界線を合わせている国の一つだ。
現在境界線を合わせているのは三つの国で、グラティナス王国は言っては悪いが大きくもなければ小さくもない、中堅クラスの国だったはずだ。
ちなみに残り二つに、オルキス大国、ローゼンウィッカ連邦国というのがある。
三か国ともそれぞれに栄え、同じように魔族に対しては警戒と畏怖の態度を表しているはずだ。
そんな中、過去に何度か先代以前の魔王や魔族たちの愚行(妹はそう切って捨てていた)でその三か国の人間にもいくらか被害が出ていて、その度「勇者」と呼ばれる優れた人間たちが魔王討伐という題目の元に魔界に侵攻してきたらしい。
まあ、もちろんすべて返り討ちにされていたらしいけど。
そんな度重なる「勇者」の侵攻以外、彼ら人間は自ら魔界との境界線を侵すようなことはしたことがないはずだった。
だというのに、ここにきて一国の王子さまだと?
しかも、ここ十数年、魔王はおろか魔族たちにすら人間を勝手に魔界に連れてくるのは禁止と言い渡しているというのに?
「どうした? どこか痛むのか?」
「痛むっていうか………」
心配してくれているらしい王子さまには悪いけど、これはちょっと面倒だなと思った。
面倒くさいというか、頭の痛い展開になりそうな予感。
歯切れの悪い私を心配そうに見ながらも、先に進みたいらしいルクスライン王子は申し訳なさそうな顔になる。
「一時的にでも君を安全な場所に連れて行きたいが……、あいにく私の連れはグリスだけなんだ。すまないが、少し私に付き合ってもらうことになる」
「それはまぁ……。本当に、一人と一頭で来たんですか?」
一応初対面には敬語を使ってしまうのは、元日本人だった時の名残だ。
「あぁ。魔界に行くと言ったら総反対を食らって、説得するにも埒が明かないと思ったから、単身で来た」
(そりゃそうでしょ。どこの国に王子を魔族の領域である魔界に快く送り出すやつがいる。普通は総反対だろうに)
この王子、見た目に反してかなり行動力半端ない。
しかし、逆に言えば、周りの反対を押し切ってまで”取り返したい誰か”が魔界にいるということなのだろうか。
どっちにしても、こっちとしては覚えがない。
「先に進むが、君はグリスのそばを離れないように。グリス、ちゃんとこの子を守るんだぞ」
考え込んでいると、ルクスライン王子は着々と話を進めていた。
私を頼まれた魔獣は、戸惑うように王子と私を何度も見ている。動きがとっても人間臭くて、逆に可愛い。
「………心配しなくても、彼に何かしたりしないよ」
まだ、ね。
こっそりと、グリスの耳にだけ聞こえるように小声でいうと、ピクリとその耳が動いた。
一瞬探るようにこちらを見たくすんだ金色に、こちらもまっすぐ視線を合わせる。
十歳の身体では、私よりもグリスの方が目線が若干高い。これ頼んだら背中に乗せてくれたりしないかな?
納得したかは不明だけど、一応、グリスはあからさまな警戒だけは解いたように見えた。
「よし、行くぞ。魔王の拠点とはいっても、城は城だ。おおよその造りは同じだろうから……」
「取りあえず、謁見の間とかどうですか」
「え? あ、ああ……そうだな。私が侵入したことなどとっくに知っているだろうし、仮にも王ならばそこで待っている可能性もあるな」
どこに行こうか考え込んだ王子にさらりと助言(実際、妹こと魔王はそこで待機しているはずだ)すると、一瞬驚いたように赤みがかった金の瞳を軽く見張る。
私は素知らぬ顔でその視線を見返すと、そうだなと呟いて王子は歩き出した。
気配がほとんどないとはいえ、敵陣にいることに変わりはないということなのか、王子は再び長剣を鞘から抜き、謁見の間を目指して城内を進む。
ちなみに、時々間違った方向へ行こうとするところをグリスを通して道案内した。
そうしてたどり着いた謁見の間。
なんでこんなデカい扉にしたのかといつ見ても疑問に思うような大きな観音扉は、くすみの一切ない綺麗な乳白色で、植物のような幾何学模様が大胆かつ繊細に彫り込まれている。
「ここが謁見の間か………」
緊張気味に呟く王子に、警戒を促すようにグリスが寄り添ってわずかに警戒の唸り声を上げた。
王子はその頬をなだめる様にひと撫でする。
「君は、そこの物陰に隠れていてくれ。何かあったら、一人ででも逃げろ」
ここまで黙って付いて来た私にそう言って、ぎゅっと強く長剣の柄を握る。
そしてそのまま、勢いをつけて大きい割に滑りの良い扉を開け放って中に飛び込んで行った。
プロフィールその3
*カルナエル・イーク・ファフス・ヴォーヴァンクル・ニクス
愛称は『カルナ』。夢魔族(淫魔とも呼ばれる)の長で、四大公がひとり。《風》の属性を持ち、属性色は《緑》。
銀色の長髪に、緑の濃い碧玉の瞳。優しそうなタレ目に、天使かと見紛うばかりの性別不明の長身痩躯の超絶美形。
基本のほほんとした優しそうな印象ながら、それを裏切る勢いで魔王をリスペクトしている。自分の興味を惹かれないものにはどこまでも冷淡かつ冷酷。
夢魔の特性上、男女どちらの姿にも任意で変化できる。
魔力の保有量は、魔王と王妃には遠く及ばないまでも、魔界でもトップクラスの持ち主。かつ、四大公の中では二番目に年長さん。
実力で言えば四大公の中で第一席。主に魔王付きの側近。
ちなみに、カルナたちの名前がやたら長いのは、その種族の代々の長の名前を引き継いでいるからです。
なので、年長(長生きしている)魔族の名前はその分短いし、若い魔族の場合は割と長い名前になっています。
亀更新ですが、細々とやっていきたいと思っているので、お付き合いくださる方がいればうれしいです。




