第三話 勇者こと侵入者は美少年でした
もうちょっとわかりやすく改変したい……。いやもうほんと。
駄文ばっかでごめんさい。
キーダをお使いにやり、ご褒美がどうとか話している魔王と第一側近を放置して、現在私は魔王城の厨房へ向かっていた。
もちろん、後ろには魔王妃の側近であるラズがいる。
だだっ広い廊下を十歳の子供の足で歩くのは結構距離があって重労働………かと思いきや、そうでもなかった。
何故かと言われれば、ひとえに私自身の魔力のおかげだ。
魔族は魔力を糧に生きる生き物であり、魔力さえあれば不老長寿も思いのまま。
それは体力や知能にも影響を及ぼすほどで、歴代最高にしてほぼ無尽蔵の魔力を誇る魔王さま、もとい妹はもともと良かった頭脳がさらに聡明になり、体力なんかもう宇宙だ、宇宙。
十二歳の少女の身体なのに不眠不休で魔界を散策しても元気すぎというか、もともと元気いっぱいの人にさらに何か元気薬を投薬したみたいに通常と変わらない健康体かつ、活きの良さだった。
そして、歴代最高の魔王に次ぐ、歴代最高の魔王妃である私の魔力も底なしみたいなもので、ちょっとやそっとじゃ疲れ知らずなのだ。
まあ、精神的疲労を感じるとさすがに休みたくなるんだけど。
兎にも角にも、今や私にも妹にも、肉体的な疲労に関してはほぼないと言っていいものだった。もちろん、痛覚なんかはちゃんとあるけど、そもそもちょっとやそっとで傷つくような身体ではなくなっているので、余程のことがない限り怪我もしなくなった。
だから、広く長い魔王城を歩いて移動しようとする度、
「魔王妃さま、移動なら俺が」
と真顔で腕に抱き上げようとするラズはただの過保護だと思う。
「自分で歩かないと、歩き方忘れたらどうすんの」
「忘れても俺がお連れするので大丈夫です」
「本末転倒な上大丈夫の要素が見当たらない」
四大公は基本スキンシップ過多の者が多い。
魔王第一側近のカルナは毎日飽きもせずに、のほほんとした見た目に似合わずさり気なく全力で魔王とスキンシップを図ろうと頑張っているし。まあ、七割方笑顔の魔王に返り討ちに遭ってるけど。
あの子は他人と関わるのは好きだし自分から構うのは楽しいけど、他人から構われるのが苦手なのだ。我が妹ながら面倒くさい。可愛いけど。
そして現在尻尾振ってお遣い中(想像です)のキーダは、そのままワンコみたいだ。
強い者が大好きなキーダは全力で魔王をリスペクトしているので毎度毎度、散歩を期待するワンコのように妹の周りをぐるぐる回ったり話しかけたりと微笑ましくもやかましい。
時々勢い余って抱き着こうとして、こちらも笑顔の魔王さまに返り討ちにされている。
「あれだよね。自分で構ったり振り回したりするのは楽しいけど、その逆って疲れるよね」
とはイイ笑顔の妹の言だ。
なんだか魔族になってからイイ感じに性格があれになってきている………。あれ、うちの子こんなんだったっけ?
……まあいいか。
「そういえば、基本人当たりいいわりに、他者との接触は極力避けてたな……」
何故か私には毎度突撃タックルかまして抱き着いてくるくせに、他に人にそういうことをしているのは見たことがなかった。
まあ、そんなことは今はどうでもいい。
取りあえず私は今、小腹が空いている。
もちろん、実際に身体が空腹を訴えているわけではなく、何となくだ。
あえて言うなら、暇なので何かつまみたい。
「何か美味しいのあるかなー」
「わざわざ行かれなくとも、持って来させればいいのでは? 俺が行ってきましょうか?」
時間的に三時のおやつ前なので、何かいいものはあるかと呟く私に、ラズは側近らしくそう言いつつもついてくる。
正直、十歳の少女の後ろを高身長の二十代美青年がついて回っているのは絵的に違和感しかないだろうなと思うも、私はすっかり慣れてしまった。
「食べたいものは自分で勝ち取るのが信条なの」
魔王の書斎から厨房に行くには、魔王城の玄関とも言うべき巨大なエントランスを一度経由した方が近道だ。
しかし、慣れた足取りでエントランスの階段を下りているとき、不覚にも階段を一段踏み外してしまった。
「うおっ!?」
やたらと高い階段を足元を見ずに子供の足で無造作に下りていたせいだ。
だがしかし、背後には魔族の中でもトップクラスの魔力を誇る四大公の一人にして、私の側近がいたので、転がり落ちる前に逞しい腕に抱きかかえられて事なきを得た。
一瞬驚いたものの、ラズに「ありがとう」と礼を言おうとした瞬間。
「貴様、その少女を離せ………!!」
広いエントランスに響いたのは、第二次声変わり前の少し高い、しかし耳触りの良い少年の声だった。
こんな声は魔王城で聞いたことはない。
視線を声の方に向けると、そこには見知らぬ美少年が長剣を構え、二俣の大トラを従えてこちらを睨んでいた。
「………どちらさま?」
思わず口の中で呟いた。
明るい赤毛に赤みがかった金色の瞳は大きくも鋭く、幼いながらに凛々しさを感じさせるなかなかの美少年だ。
しかし見覚えがない。
何より、この魔界でこんな人間臭い長剣なんて武器は初めて見る。
うん? 人間臭い武器?
(あ、もしかして勇者もとい単身乗り込んできた侵入者?)
確かに、人間一人に魔獣が一頭。
さすがキーダ。褒美の前にやることが速い。
しかし中途半端だ。
「キーダはどこよ」
私は、「一切傷つけに、安全かつ迅速に魔王の元に連れて来い」と言ったつもりなんだけどなぁ?
確かに目の前の美少年にも魔獣にも怪我らしい怪我は見えないし、迅速だったことも認めよう。
しかし、どうしてその彼らだけがエントランスにいる?
「あいつなら、魔王城に着くなり魔王さまのところに戻りました」
鳥族の長であり、音や気配に敏感なラズの返しに、私はため息が出そうになった。
ブラッシングはなしだな。ユキにもちゃんと言っておこう。
「お使いは、最後までやらなければ意味がない」のだ。
大方、褒美が待ち遠しくて、美少年たちを魔王城の前まで誘導し終わるなり魔王の元へ飛んで行ったのだろう。
「魔族め、そんな幼い子供までかどわかして………! その汚らわしい手を今すぐ離せ!」
ラズの腕に抱えられている私を見て、無表情のラズを見て、少年は再びそう言った。
今にも斬りかからんばかりの覇気だけど、距離がありすぎる上に、おそらく何か勘違いしている。
(もしかして、私をただの人間の子供だと思ってる?)
そして、私を抱き上げているラズは、いたいけな少女をかどわかしてさらった魔族だと。
……うむ。
「ラズ。下ろして。んで、何も言わずに先にユキ・・・・魔王さまの所に行ってなさい」
「しかし、魔王妃さま……」
「大丈夫だから。ほら、下ろして」
少年には聞こえないように、私は小声でラズに言い聞かせる。渋るように一瞬抱える腕の力を強めたラズは、それでも私や魔王の言葉には絶対逆らわない。
ちなみに、一瞬だけど強力な圧迫に思わず呻いてしまい、余計に目の前の美少年の視線は厳しいものになった。
一番感情豊かな真紅の瞳で不満をあらわにはすれども、大人しく、ゆっくりと私を下ろすと、ラズは親の仇のような視線で美少年を睨む。
ブワッと私のすぐ傍で、金と赤の巨大な炎が立ち上った。
ラズがその炎に包み込まれたかと思うと、巨大な炎に包まれた猛禽類の姿となって再び現れる。
本性に戻ったラズは、重力を感じさせない動きで宙に羽ばたくと、鳴き声を上げることもなく一直線に美少年へと突っ込んで行った。
「ちょっ、ラズ―――!?」
炎の風に一瞬煽られて、私の声は掻き消える。もちろん、私に炎の熱さなど一切感じさせないあたり、さすがと言うべきか。
自分たちに向かってきた巨大な猛禽類に、美少年の後ろにいた大トラが庇うように一瞬で前に出た。——―かと思ったら、何の前触れもなく唐突に、炎の風も、巨大な猛禽類も姿を消した。
……あいつ、八つ当たりしていきやがった。
脅すだけ脅して姿を消した側近に、内心でため息を吐きたくなった。
熱気と突っ込んでくる猛禽類に、反射的に防御の体制に入っていた美少年は、一瞬にして消えた魔族の巨鳥に呆然としている。
大トラは何やらまだ警戒している様子でくすんだ金の瞳は鋭くこちらを見つめていた。
ハッと我に返った美少年が私の方へ駆け寄ろうとすると、するりと前に立ちはだかってそれを妨害している。
おそらく、あの大トラは私の正体に何となく気づいていて、美少年を守ろうとしているのだろう。
しかし当の美少年は大トラの妨害に困惑を見せている。
「どうした? まだあいつが近くにいるのか? とにかく、早くあの子を保護しないと……!」
なだめる様に大トラの灰色地に黒の縞模様の毛並みを撫で、美少年は再びこちらへ駆け寄ってきた。
「大丈夫か?! どこか怪我はしていないか?!」
「怪我はないです」
心底心配そうに言って、十歳の子供と目線を合わせるためなのか、軽く腰をかがめる美少年。
この子いい子だわ。
自分より下の子と視線を合わせるために、自ら腰を落とすとか。
すぐ傍に寄り添う大トラは警戒の色も濃くじっと見張るように私を見つめているけど、その逞しく太い脚が微かに震えていた。
私の安否を確かめて、美少年は、「魔族め、相変わらず好き勝手に……!」とか「奴らは人の意思などどうでもいいのか……!」などと憤慨している。
そして、どうしようかと真顔で考え込んでいた私を見て、美少年は一瞬怪訝そうな顔をするも、すぐに何かに気づいたかのように痛ましそうな顔になった。
「可哀そうに、よほど怖い目に遭ったのだな。大丈夫だ、私が必ず君を親元に帰してやる」
反応の薄い私を、想像もできない恐怖にあった故に自己防衛で感情を殺してしまったのだと勘違いし、なだめる様にぽんぽんと髪を撫でたきた。
「君は”神の愛し児”なのか……。魔族は魔力の高い者を好むからな。可哀そうに」
「”神の愛し児”……?」
ふと、聞かない単語を耳が拾い、ついオウム返しに口にすると、美少年はいまだ片手に持っている長剣を一度鞘に戻し、説明してくれた。
「なんだ、自分がどういう存在なのかも知らなかったのか……。”神の愛し児”とは、《火・水・風・地》の四大属性全てを持つ者のことだ」
この世界の生き物は皆、生まれた時から《火・水・風・地》の四つの属性の一つに必ず帰属している。
四つの属性には《属性色》というものがあり、《火は紅》、《水は青》、《風は緑》、《地は金》といった四色で、どの属性も必ずその生き物の瞳に現れるという。
そして、属性純度が高ければ高いほど、その色は純色で鮮やか。
大抵の生き物は二つの属性を併せ持ち、どちらか強い方がより顕著に瞳に現れる。
――――美少年の瞳は赤みがかった金色だ。つまり、彼は《地の属性》になるのだろう。赤みがかっているということは、《火の属性》もわずかに混じっているのかもしれない。
そんな鮮やかな四色の中で、異質な色が二つあるそうだ。
その一つが、私と妹の持つ、漆黒の瞳。
「黒は珍しい。四属性すべてを兼ね備えている証でもあり、その魔力は通常の者とは比べ物にならないほど高いと聞く。そして、黒い瞳を持つ者を私たちは全ての属性に愛された特別な子、”神の愛し児”と呼ぶんだ。特に君は珍しいな。普通、どれだけ四属性すべてを兼ね備えていても、必ずどれか強い属性を持っていて、ベースが黒でもその属性の色が見えるはずなんだが………」
「私、真っ黒ですよね」
そうなのだ。
元日本人故に気にしたことはなかったけど、私も妹も、髪も瞳も真っ黒。かっこよく言えば漆黒だ。
周りが色鮮やかな髪や瞳の色をしているのを、そういう世界だからなのかと思っていたけど、黒は特別な色なようだ。知らなかった。魔族になってだいぶ経つのに。
黒は全ての属性が過不足なく混ざり合った状態で、およそ全ての属性との相性も属性純度も高いらしい。
「魔族は魔力の高い者を好むと聞く。おそらく、あの魔族も君の魔力を狙ったのだろう」
「そうですか……」
いや、そもそも高いとかレベルの魔力保有量じゃないんですけどね。
妹なんか無尽蔵ですよ。
そして大トラが震えながらまだこっち警戒してる。
視線が、「この子に何かしらた許さないんだから!(恐怖)」って感じだ。
心配せんでも何もしないよ、まだ。
「さて。今すぐ君を親元に帰してやりたいのだが……。すまない、私はここにある目的があって来たんだ」
「目的?」
お? これはさっそく侵入の理由を聞けるか?
思わず期待する目で美少年を見上げる(年頃は十三歳くらいなのに、北欧系なのか背が高く実年齢より大人びて見える。ちくしょー)と、彼は真剣な、決意を固めた目でまっすぐにこう言った。
「私は、私の”きょうだい”を魔王から取り返しに来たんだ」
プロフィールその2
*王妃(真波 柚羽)
一応本編の主人公。元二十七歳日本人、現十歳の少女で魔王(妹)の魔王妃さまやってます。妹には「お姉ちゃん、ユズ姉、柚羽ちゃん」と呼ばれる。
妹よりは静かに節度あるしかし重度のシスコン。妹のお願いなら大抵なんでも聞いてしまう。シスコンて怖いね。
割とちゃっかり者で自分と妹に被害がないなら大事なことでも進んで見逃す。
傍観者と見せかけてそっと問題ごとに扇風を送る愉快犯。さすが姉妹。
ツッコミ担当なのだがそのツッコミに覇気がないので大抵スルーされる。そして気にしない。
魔力の保有量は魔王に次ぐが、純度は魔王を凌ぐと言われている。
次は四大公行ってみたい。
しかし最後の一人がなかなか出て来ないな。




