第二話 勇者じゃなくてただの侵入者かもしれません
ちょっとずつ改変してあります。
場所は変わって魔王城の一室。
現在、魔王である妹の書斎となっている部屋に私たちは移動していた。
本来、魔界には人間の王国のように財政だの政策だのする必要はなく、魔王が居るだけで魔界も魔族たちの生態も安定するらしいんだけど、そこはそれ。
何もしないというのも詰まらないということで、私たちは政治の真似事をしていたりするのだ。
とは言っても本格的なことなどさっぱりなので定期的にパトロールという名の散策をしたり、手つかず過ぎて荒れ放題の場所をちょこっと整備してみたり。
あとは、それぞれの種族に分かれて暮らしている集落(コロニーとも言うらしい)を訪れては激しい魔王さまコールと魔王妃さまコールに圧倒されたり、できるだけ悠々自適に暮らせるようにこっちにはない知識で改革してたりするのだ。
それらの仕事をするために、「取りあえず、書斎ってほしいよね」という妹の言葉に、全力で魔王をリスペクトしている四大公以下魔族たちが準備してくれたのがこの書斎である。
ちなみに私の書斎も一応あるけど、今ではただの書庫代わりになっている。部屋主である私が基本的に妹の書斎に入り浸っているからだ。
とにかく、今現在魔王の書斎には、部屋主の魔王である妹が明らかにデカい書斎机に向かって座り、私は正面にある応接セットに陣取っていた。
そして応接セットを挟んで扉側に立っているのは、ラズとカルナ。
それから、四大公の一人であり、獣族の長であるキダートヴェルム・ナクエ・リヴァル・コルヴァーダ・カナエリアス・ガルム・オヴィニレス・ルヴルーガ。………取りあえず長いので「キーダ」と呼んでいる。
キーダは銀灰色のざんばらな髪に、肉食獣のアーモンド形の黄金色の瞳を持つ、いかにも活発そうな野性味あふれる美青年だ。
強い者が好きなキーダはいつもキラキラした目で魔王である妹を見ている。
「で? どういうことなの?」
「はい。キーダの統治する獣族領の、人間界との境界線付近にて、人間が侵入してきたのを確認したそうです」
魔王の第一側近であり、四大公の第一席でもあるカルナが報告すると、早く話したくて待てない駄犬のようなキーダが口を開いた。
「そうそう! 境界の守護をしている《エント》たちが、勝手に人が入って来て、【新芽の寝床】を踏み荒らして困ってるって言ってきたんです」
《エント》とは、樹木の姿をした魔族のことだ。
枝の手と根の足を持ち、草木の保護者でもある。
気性としてはとても大人しい種族で、人間が勝手に樹木を切り倒さないように見張ることもする。
ちなみに【新芽の寝床】とは、未来あるエントたちの種が地中にて眠っている場所のことだ。
エントは地中で魔力を溜めながら長い月日をかけて種の状態で過ごし、一定量の魔力を溜めたら一気に成長するのだそうだ。
「それは由々しき事態だね。 エントたちは大丈夫?」
「幸い、《種》を掘り起こされたりしたわけじゃないし、侵入者も一人と一頭ってことでそれほど被害は少ないみたいです」
心配そうな顔になった妹に、キーダは慌てたように付け加える。
彼は(というか四大公みんな)、大事な魔王さまの悲しそうな顔が苦手なのだ。もちろん私もだけど。
………ん?
「ちょっと、待って。今、一人と一頭って言った?」
「はい。魔王妃さま。確認出来たのは人間一人に、魔獣が一頭です」
思いっきり応接セット(ふかふかで座り心地のいいソファ。メイドイン、人間界)にもたれかかっていた私はふと身体を起こして確認する。
「でも、カルナ。さっきは『勇者が侵入した』って言ってなかった?」
「はい。人間が過去何度か魔界に侵入してきた際、皆そろって「自分は勇者だ」と言っていたので、今回もそうではないかと思ったのです」
ん? なんか変だぞ?
のほほんとした印象のカルナに、私の仕事したくない派な表情筋が歪むのを自覚する。
勇者って普通、単身魔界に乗り込んで来ないよね?
大抵、魔法使い(この世界だと魔術師らしい)とか神官とか取りあえずパーティー組んでやってくるよね?
間違っても単身(従獣はいるみたいだけど)では乗り込んで来ない。………と思うのだけど?
ちらりとあまり喋らないラズを見遣る。
私の問うような視線に気づいた彼は、おもむろに口を開いて疑問に答えてくれた。
「人間が単身で乗り込んできたのは初めてです」
「だよね。」
侵入者が自分で「勇者だ」と名乗ったのでない限り、一概に勇者だと判断するのはめんど…………いや、早計だ。
道に迷っただけかもしれないし。………まあ、魔界に迷い込むとかって滅多にないはずだけど。
「え? あれ? 勇者って一人なの? 仲間とかは?」
同じく疑問に気づいた妹が尋ねるも、カルナは優しそうなのほほんとした美形で「さあ?」とどうでもよさげだ。
実際、たとえ勇者として幾人かの人間がやって来たとしても、余程の手練れでない限り四大公の誰か一人の手で簡単に排除することが可能なのだ。
魔王自ら出るまでもない。
しかし、うちの魔王さまはちょっと考える。それからちらりと私を見た。
うわ。これはお願いモードの顔だ。
「あのね、お姉ちゃん」
「……………………………………………なに」
こいつまた面倒なこと言うのかという私の予想通り、行動派な妹はにっこり笑った。
「私、その侵入者に会ってみたいな」
「………………………………………」
キラキラした美少女な魔王さま。もとい、妹。
くそ、可愛い顔でお願いしやがって可愛いぞちくしょー。
思わず深いため息をついた私は、結局妹のお願いには弱いのだ。
なんか魔王妃に生まれ変わってから余計に弱くなった気がするけど、それは気のせいということにしておく。
「キーダ。」
「はい! 魔王妃さま」
忠犬よろしく元気な返事をする美青年。実際彼は狼系獣族だ。
「その侵入者を、一切の怪我なく、安全かつ迅速にユキの所まで誘導して」
「魔王さまと魔王妃さまの望みとあらば!」
相変わらず元気のいい返事だ。
見た目は二十歳そこそこの美青年なのに、中坊くらいのワンコに見える。
「よし。ちゃんと出来たら今度ブラッシングしてやる。魔王さまが」
ついでとばかりに褒美をちらつかせると、瞬きの間にキーダの姿は書斎から消えた。
さり気なくご褒美を勝手に決められた妹は、「え、それ私がやるの?」ときょとんとしていたけど、もともと動物好きで、キーダの本性である巨大な狼姿をかなり気に入っているから、特に否やは言わずにまあいいかと承諾していた。
「よろしいのですか、魔王妃さま。いくら魔王さまのお望みでも、侵入者を魔王城に入れるなど」
ちょっと心配そうなカルナに、しかしにっこり笑ったのは妹だ。
「大丈夫だよー。だってここにはカルナたち四大公もいるし、私って歴代最強なんでしょ?」
「それはもちろん! 魔王さまは他に類を見ない最高の魔王さまです! 私どもも魔王さまの為とあらば人間の百や二百、片手で排除してみせます!」
「うん、排除はしなくていいからね。取りあえず、なんで魔界に居るのか聞きたいだけだから」
のほほんとした印象に似合わず熱く力説するカルナに、妹は変わらない笑顔で対応する。
さすが、魔王さま。熱く語る天使ばりの美形に、私は生ぬるい視線を向けるので精いっぱいだ。
そして無言のラズは、さっきからずっと、じぃっと私の頭部を上から見つめている。
あんま見るなよ、禿げるだろ。
「…………何かな、ラズ?」
「人間を連れてくるだけでご褒美がもらえるなら、俺もやりたいです」
駄々っ子か。デカい図体しやがって。
胡乱気にラズの方を振り返ると、特に役に立てなくてどことなくしょんぼりした美青年と視線が合った。
普段表情筋は仕事しないくせに、炎のような真紅の瞳だけは大変優秀な仕事をする。
ちょっとかわいいと思ってしまった私はだいぶ毒されている気がした。
「自分でユキに頼みなさい。ただし、侵入者でもない人間を連れてくるのは却下」
「……魔王妃さまは?」
「何が?」
自分の望みは自分で叶えよ! の精神で適当に言うと、何故か私の望みは何かないのか、と真紅の瞳が問いかけてきた。
お前喋れよとも思うけど、口に出さなくても理解できてしまうのでまあいい。
「今は特にない」
「……そうですか」
きっぱり断ると余計にしょんぼりした声になる。
なんだか私がいじめているみたいで嫌だな。
ラズは基本、魔王妃である私付きの側近なので、若干、魔王である妹よりも魔王妃である私に傾倒している節があるのだ。
尊敬しているのは魔王だけど、優先的に守ろうとするのは魔王妃である私らしい。まあ、その私の最優先は魔王である妹なんだけどね。
しょんぼりしたラズから視線を外して前に戻すと、書斎机に座る魔王(美少女)と魔王の第一側近(銀髪美形)が何やらこちらも褒美がどうとか話している。
「私も何かやるので褒美を頂けますか」
「何してくれるの?」
「魔王さまのご所望の人間を千人くらい連れてきましょうか!」
「うん、そんなに人間要らない。」
………カルナは頭良いのに時々阿呆だな。人間千人もいらねえよ。
これが四大公の中で二番目に年長さんかぁと、思わず生ぬるい目になる。
「………ラズ」
「はい。何ですか、魔王妃さま」
呼ぶとちょっと期待したような真紅の瞳に、しかし結局何も浮かばず、「なんでもない」と返した。
もちろん、真紅の瞳は再びしょんぼりした。ごめん、ラズ。上げて落とす感じになって。
ここでちょっとプロフィール。
*魔王(真波 雪羽)
姉(主人公)からは「ユキ、ユキちゃん、ユッキー」と呼ばれる、十二歳くらいの美少女最強魔王さま。(元二十二歳日本人)
にこやかな重度のシスコン。一見爽やかなので「あれ?」と思わせるだけだが、かつての(日本人だったときの)恋人たちに、
『僕とお姉さんどっちが好きなの!?』
『お姉ちゃん。』
と即答するくらいにはヘビー級。
基本人当たりも良く愛されキャラな性格だが、「終わりよければ全て良し」ならぬ、「お姉ちゃんが無事で、私が楽しければ全て良し」な所があるので、大体面倒ごとを釣り上げる。
魔力の保有量は歴代最高で、ほぼ無尽蔵。
ちょこちょこキャラのプロフィールもどきを載せてみようと思います。
ここまで読んでもらえたら嬉しいです。




