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魔王と王妃ですが姉妹です。  作者: 大福うさぎ
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第五話 四色と黒ともう一色

ちょっと長いかもです。

色々造語が出てきます。お付き合いいただけたら嬉しいです。


ルクスライン王子が飛び込むように入った謁見の間は、本当に無駄にだだっ広い。

その、扉の真正面。

階段―――というかひな壇みたい―――の一番上に、赤く大きな玉座があり、そこに鎮座していたのは我が妹。

そして両サイドにカルナとラズ、そして中途半端にお使いを済ませたキーダがいた。

彼ら以外には他に魔族の気配もなく、瞬時にあたりを見回した王子は、しかし視線を固定した玉座に座るのが、自分とそう年の変わらない少女だということに気付いて怪訝そうな顔になった。


「魔王はどこだ!」

「はい、ここです」


威勢よく発した声に、妹―――魔王はにこにこと楽し気に、挙手までして返事を返した。


「……………は?」

「はじめまして、私が魔王です」


座るというより乗っかるという方が表現的に正しい玉座からぴょこんと飛び降り、魔王はなおもにっこり笑っていた。まるで悪戯が成功した子供のような顔だ。

いや、外見はめっちゃ子供だけどね。


「——―——―魔王って男じゃないのか!?」


わりと安直な王子の叫びに、私はそっと肩をすくめた。







「魔王=男って、また安直な考えだなぁ。まあ、イメージ的にはわかるけど」

「え、いや……しかし、君はどう見ても………」

「見た目的にはあなたと年齢変わらなそうだね」


楽しそうにニコニコ笑う魔王に、驚きを隠せない様子の王子。

王子のそばにいる魔獣・グリスだけが、一切警戒を解いていない。

だがしかし、見た目が幼い子供故か、持っている長剣を振るうことも、敵意を向けることも躊躇っている王子に構わず、ふっと移動した視線の先に私を見つけた妹はぱぁっと音がしそうなほど顔を輝かせて上座から飛び出して一直線に走り出した。

そう、はた目から見たら、王子と警戒するグリスに向かって。


「お姉ちゃ―――ん!!」

「——―は!?」


ちょうど彼らの斜めちょっと後ろから様子を見ていたので、王子たちからしたら、突然魔王(自称)が自分たちに向かって突進してきたようにしか見えないだろう。

思わず反射的に長剣を構えた王子を無視して、妹は一足飛びで王子も魔獣も飛び越えると、華麗な着地をして見せる。

そのまま私にタックルをかまして来た。

相変わらず魔王さまは身体能力も人外ですね。まあ、人のこと言えないけど。


「うぐっ―――!」

「もうっ、どこ行ってたのー! 寂しかったんだよー!」

「わかったから、絞めないで」

「……………」


自分よりも外見年齢の高い妹にぬいぐるみよろしく抱き締められ、思わず呻く。

妹ごしに唖然としたルクスライン王子と視線が合った。

その目がとんでもなく困惑していて、魔獣のグリスですらなんだか唖然とした目をしている。

たぶん、妹の突然の奇行に驚いているのだろうと勝手に解釈して、


「ひとまずは、話し合いをしようか」


ぎゅうぎゅうと締め付ける勢いで抱き着く妹の腕の中から、そう提案した。








「取り敢えず、ルクスライン王子。その長剣仕舞ってください。グリスさんもそんな警戒しなくても取って食いやしないから」


この場で一番外見年齢の低い私は、魔王を背中に引っ付かせたままため息交じりに司会進行よろしく口を開く。

それから、いつの間にやら玉座付近から離れて私たちのすぐそばにいるカルナたちを見上げ、まずキーダに一言。


「キーダ。ご褒美のブラッシングはなし。ユキ、やらなくていいからね」

「? お姉ちゃんが言うなら。わかった」

「えっ!? 何でですか魔王妃さま! 俺頑張ったのに! ちゃんと怪我させないで魔王城まで連れてきたんですよ!?」

「誰が”魔王城まで”って言ったよ。私は、”魔王さまの元”にって言ったはずだけど? それを、魔王城に着くなり玄関に放置とか。お使いはきちんと最後までやり遂げなさい。そしてお客さまを玄関で放置しない」

「そんなぁ・・・」


容赦なく言い捨てると、キーダはしょんぼりとがっちりした肩を落として落ち込んだ。本性の獣型だったら、きっと盛大に耳と尻尾も垂れているだろう。

それを見ていたカルナは一見優しそうな表情ながら瞳が「ざまぁ。抜け駆けするからです」と言っていたし、ラズに至っては「調子に乗るからだ、この駄犬」と言っていた。

これでも別に仲が悪いわけではないはずなんだけどね。まあ、特別良くもないけど。

とくに魔王さまに関しては。


「………君は、魔族だったのか? というか、魔王妃?」


こちらのやり取りを困惑気味に見ていたルクスライン王子は、構えていた長剣をいささか下げ、殺意とか闘志とかは霧散し始めていた。

いや、魔王が十歳の少女(私な)に突進かましたあたりからか。


「改めまして、ルクスライン王子。魔王の魔王妃、柚羽(ユズハ)です。これでも一応姉やってます」

「あ、私は雪羽(ユキハ)っていいます。さっきも言ったけど、僭越ながら魔王をやらせてもらってます」


日本人らしく(今は魔族だけど)律儀に自己紹介する。

挨拶は基本だよね。


「あ……。私はグラティナス王国、第二王子。ルクスライン・アースヴィルド・レイスヴォルグだ」


流されたのか衝撃が抜けないのか、王子も律儀に返して来た。


「いや、そうじゃない! 挨拶をしに来たのではない! なんだ、何なんだ、ふざけているのか!? 魔王がこんな、私とそう年の変わらない少女で、さらに年下の少女が姉で、魔王妃!? しかも二人とも”神の愛し児”だと!? というか姉妹で王と王妃とか! どこから突っ込めばいいんだ!?」


おや。

この王子、見た目に反して行動力半端ないけど、実はツッコミ属性か?


「まあまあ、落ち着いてください。取り敢えず―――――お腹、空いてない?」


今にも頭を抱えそうな王子と、展開についていけないグリスを宥めて、お茶会のお誘いをしてみる。

私は取り敢えず、何か甘いものが食べたい。ちょうど三時のおやつの時間だし。

困惑している王子とグリスを、謁見の間からすぐ隣の(といっても結構距離ある)食堂へ案内する。

王子は、私たちのすぐそばに控えている美形魔族三人をちらちらと気にしているようだ。


「お前たちは絶対手を出しちゃだめだよ」


私にくっつくので忙しい魔王さまの代わりにそう言って牽制をかけるのを聞いて、取り敢えず王子は大人しく付いて来てくれた。

カルナたちは一瞬不満げな顔を見せるけど、妹の「話の邪魔はしないように」という言葉に黙って頷いていた。



食堂には、優に五十人くらいは着席できるであろう長卓と、理路整然と並べられた豪奢だけど嫌みのない洗練された椅子がずらりと揃えられ、一番上座にはひと際豪奢で一目で特別とわかる椅子がある。

もちろん、この魔王城の主であり、魔族の王である魔王がそこに座る―――――わけもなく、何故かその斜め隣に座った私のさらに横に普通に座ろうとする妹。


「………ユキ、ちゃんと上座に座りなさい」

「えー。」

「えー、じゃない。お客さまが来てるんだから、示しのつかないことしない」

「はーい」


ちょっとつまらなそうな顔になったけど、私の言いたいこともちゃんと理解しているので、大人しく上座に座り直す妹。

まったく、世話の焼ける子だ。


「ルクスライン王子も、そちらにどうぞ。グリス……は、座れないか」


ひとまず、ちょこまかと給仕の為に動き回っている小型のゴブリンたちに頼んで、王子の横の椅子を下げてもらい、グリスが座れるようにしてもらった。

王子は困惑が抜けてきたのか、慎重に私が進めた椅子に座る。


カルナとまだしょんぼりしているキーダはそれぞれ魔王さまの両サイド、二歩ほど後ろに立って控え、ラズは私の左手斜め二歩後ろに立って控える。

まもなく、ちょこまかと動くゴブリンたちが給仕用カートに美味しそうなタルトケーキと紅茶のポット、お揃いの美しい食器を載せてやって来た。


ケーキは”ココリ”という柑橘系の果実で作られたタルトで、私のお気に入りでもある。

紅茶も、オン爺や魔王城に定住している人たちが育ててくれた茶葉で作っている。

ゴブリンたちは魔王と私、それからちょっと怯えたように様子を伺いながら、王子とその連れであるグリスにもタルトケーキを切り分けてくれた。


―――ゴブリンにはいくつか種類がいるけど、この子たちはその中でも小型で大した魔力は持っておらず、気性も大人しい子たちだった。

ちなみに私と妹は”家ゴブリン”と呼んでいる。

こうやって給仕などをしてくれるので料理人のラルルさんとも仲良しなのに、基本的に臆病というか、人見知りする子たちだった。


まあ、それは置いておいて。

妹は目を輝かせながらタルトケーキを褒め、しかし礼儀としてか、まず最初に王子に勧めた。


「ラルルさんのケーキ、いつにも増して美味しそう! どうぞ、お召し上がりください」

「……………そう言われて、素直に手を付けるほど、私は馬鹿ではない」


少し硬い表情と声で、馬鹿にしているのかと王子は魔王を睨んだ。

まあ、もっともか。

王子にとってはいまだここは敵陣なのだ。

……まあ、何でか同じ食卓に着いてるけど。


「心配しなくても、毒なんて入ってないよ。そもそも、デザートに毒を盛るなんてもったいないことしない」


思わず少し苦笑して促すけど、さすがにもう流されてくれないらしい。


視線は見たことないらしい甘味に興味深そうなのに、必死にそれを隠している様子が伺えるのが可愛らしいと思ってしまい、ついつい敬語が外れてしまった。

頑なにデザートフォークには手を伸ばさない王子に、魔王さまは「じゃあ私が食べる」と言ってすぐさまフォークに手を伸ばす。


一口分フォークに取ると、迷わず口に運び、ぱくん。

途端に輝く笑顔に、両サイド斜め後ろで控えているカルナとキーダが恍惚そうな顔になった。

お前らなんで後ろにいるのに妹の表情見えてんだよ。

まあ、私も思わず表情筋が仕事してしまったが。


「美味しい! ね、美味しいよ、お姉ちゃん!」

「じゃ、私も」


勧められるまま私も一口食べて、思わず頬がほころんだ。

……美味しい。

柑橘系のさっぱりとした甘さと、それに合わせた甘すぎないカスタードクリーム。サクサクのタルト生地は少し塩っ気があって絶妙だ。

ラルルったら、もうすっかりカスタードクリームを使いこなしているな。


元々この世界には、まだカスタードクリームというものはなく、私と妹が食べたい一心で似たような食材を探し、作り方を必死で思い出し、ラルルさんに再現してもらったのだ。

もちろん、私たちの知識通りの食材が全部そろうわけはなく、特にバニラビーンズに相当するものが全然見つからなくて一時は諦めかけたけど、とある花の香りがバニラビーンズにそっくりで、尚且つ砂糖漬けにすると保存食にもなることが分かった時にはかなりはしゃいだものだ。



失礼、話が逸れた。

とにかく、今日も今日とてラルルさんのデザートは美味しい。

二人して美味しい顔をしていると、背後の側近たちがちょっと鼻息荒くなった気がしたけど、気にしない。特にカルナとか、天使張りの超絶美形が台無しだ。

そしてラズの視線が痛いというか若干鬱陶しいけど、無視する。


「食べないの?」


私たちを見ながら、それでもまだ警戒して手を出さない王子に視線を向けた。


「魔族の作ったものなど、食べるわけないだろう」

「それ作ったの、君と同じ人間だよ」

「………何?」

「私も魔王も、本来こういう経口食って必要ないんだけどね。甘い物が好きなもので、それを作れる人を雇ったんだよ。魔族とかは、そもそも経口食の習慣がないからね。食事を作るって概念がないから」

「お前たちは、自分たちの為に人間を攫ってきたというのか!」


何やら途端に怒ったような顔になった王子に、妹はきょとんとし、背後でだらしない顔になっていたカルナたちの眉間にしわが寄る。


「そんなことするわけないでしょう。お姉ちゃんが言ったよね、”雇った”って。ちゃんとお給料出してるよ」

「はっ、何をふざけたことを………!」

「ふざけてません。ちゃんとラルルさんには私たちが魔族で、魔界で私たちの為に料理をしてほしいって全部お話して来てもらったんだから」


心外な、という顔になった妹と、今だ睨むような視線の緩まない王子を見比べながら、私はもぐもぐとタルトケーキを食べる。


美味しい。止まらない。

魔族っていいわ。経口で何かを食べても、余程異質なものでもない限り体の中ですべて魔力に変換されるので排泄なんてしないし、肥満にもならないのだ。

魔族万歳。とか思いながら、しかし目の前でいつの間にか険悪ムードになって来たせいで、若干美味しさが半減してきた。

仕方がないので、ちょっと食卓に上半身を乗り上げながら、食卓にあるグリスの分のタルトケーキと、何故か置いてあるデザートフォークに手を伸ばす。

グリスはちょっとだけ興味深そうな目で、私とタルトケーキを見ていた。


「グリス、あーん」


私の行動に気付いて視線をこちらに向けていた魔王と王子をしり目に、私はグリスの分のタルトケーキを一口分取り、そのままグリスの口元に差し出した。

予想していなかったのか、きょとんとしたくすんだ金色が、私とタルトケーキを交互に見遣る。

しかし、くんくんと差し出された物の匂いを嗅ぐと、一瞬ちらりと王子を見てから、ぱくんと躊躇いなく口に含んだ。

お? 結構信用してくれてるのか?


「グリス!」


思わず立ち上がって声を上げた王子に、しかしグリスは「大丈夫だよ」とでも言うような視線を向け、ゆったりと二俣を振った。

それを見て渋るような顔になった王子だが、すぐに深いため息を吐いて、大人しく座り直す。

まだ少し躊躇いながらも、タルトケーキを一口分取り、覚悟を決めたようにぱくん。


「………美味しい。これは、ココリの実か」

「でしょ!」


びっくりしたように呟いた王子に、妹は機嫌を直したのかニコニコ笑顔に戻った。

それを見て、少しばつの悪そうな顔になった王子だけど、すぐに目的を思い出したのかフォークを置く。


「いや、私は持て成されに来たわけでなく!」

「そう言えば、何で魔界に?」

「お前たちが私の”きょうだい”を攫ったからだろう!」


憤然と言い放った王子に、やっぱり私も妹も訳が分からず首を傾げた。




そこでようやく、彼の話を詳しく聞くことができた。

最近、彼の母国であるグラティナス王国の国内で行方不明事件が頻発しているらしい。

行方不明になるのはある特徴を持った女性ばかりで、貴族や平民問わず、突然行方が分からなくなるのだそうだ。

ある平民の娘は、お使いに出たきり帰らなかったり、とある下級貴族の娘はパーティーの最中に忽然と居なくなったり。

これだけ聞けば、別に魔族のせいとは考えないのだが、何故か娘たちが消えたと思われる場所一帯には必ず魔力の残滓が残っていたらしい。


「でもそれって、必ずしも魔族の仕業とは言い切れないんじゃない? 人間の中にだって、魔力を使う人はいるんでしょう?」

「確かに、人の中にも魔力を行使できる魔術師がいるが・・・・・。忽然と人を攫うことができるほどの魔力を持つ者など早々いない。娘たちが攫われる所を見た者は誰一人いないのだ。ただの人の仕業なら、何かしら痕跡が残るはずだ。しかしそれもなく、娘たちが最後に目撃された場所の近くからは不自然な魔力の残滓が見つかった。全てではないが、その数か所の魔力の残滓を王宮の魔術師が解析したところ、転移魔法だということがわかった」

「じゃあやっぱり」

「いいや。転移魔法はとても高度なもので、消費する魔力も膨大だ。いくら優秀な魔術師でも、せいぜい一度に転移できるのは自分自身と少しの無機物のみだと聞く」


つまり、もしも魔術師が娘を攫ったなら、その場から消えるのには絶対自分と娘、二人を転移させなければならないというわけだ。

しかし、それは人の魔術師にはほぼ不可能。


「そうなの?」

「はい。確かに」


王子の説明に、魔王は斜め後ろに控えているカルナに振り返った。

声をかけられて嬉しいのか喜々として口を開く。


「人間は私たち魔族ほどの魔力は持っていません。稀に高い魔力を有する者もいるようですが、それでも我ら魔族の中でも、せいぜい下位魔族程度。彼らは自らを転移させることはできますが、他者をも転移させることはできませんし、そう何度も転移はできません。無理に転移しようものなら、魔力が枯渇して消滅してしまいますから」

「なるほどー」

「つまり、だ。色々総合した結果、一番確率が高いのが、魔族の仕業ということだったんだ」


王子の説明を聞いて、私は一口紅茶を飲む。

それで、「魔王が人間を攫った」になるのか。


「過去にも、魔族が魔王の命令で人間の娘を攫うということがあったと、文献に載っていた。今回も、当代の魔王の所業だと」

「そっかー。でも残念だけど、私にはこれっぽちも覚えがないんだよねー」

「そんなはずは・・・・!」

「ないよ。そもそも、私もお姉ちゃん―――魔王妃も、魔族が勝手に人間を攫ってくるのを禁止してるんだから」

「———―なに?」

「だって嫌じゃない? 自分の意思と関係なしに、自分の望まない場所に連れて行かれるなんて」


妹の至極もっともな言葉に、王子は面食らったような顔になる。

まさか、魔族の王からそんなことを言われるとは思っていなかったようだ。

しかし、ふと何かに気付いたように考え込む。


「そういえば・・・・・、ここ十数年は、魔族による被害はほぼ報告されていない・・・・」

「ほら。私たち、別に人間と争いたいわけじゃないんだよ。まぁ、先代以前の魔王がどうかは知らないけど。少なくとも、私もお姉ちゃんも人間と魔族で戦争したいわけじゃないし、こっちからわざわざ喧嘩ふっかけたりしないよ」

「戦争とか面倒くさいこと誰がするか。自衛の為ならいざ知らず、わざわざ自分から火種を蒔くほど生きるのに飽きているわけじゃないし」

「・・・・・・・・・・・・では、——―では、何故彼女は突然姿を消したんだ!」


私と妹がそろって言うと、王子は顔を俯けて少し沈黙したかと思ったら、憤るようにそう唸った。


「——―彼女?」

「私の、”きょうだい”だ。彼女は、ある日突然姿を消した。その時の状況が、最近頻発している行方不明事件と酷似していたんだ」

「だから、その”きょうだい”も魔族に誘拐されたと思ったの?」

「そうだ。それ以外、考えられなかった! 彼女はいつも私と王宮にいた。王宮は常に警備の目が光る場所だ。そんな場所から人ひとり誘拐するなど、それも一切人目につかないようになど・・・・!」


ぎゅっと、膝に置いたこぶしを強く握っている王子を見て、紅茶を飲んで、ちらりと妹を見る。

ちょっと困ったような顔でこちらを見ていた魔王さまに、軽く息を吐いた。


「取り敢えず、情報を整理したいから、いくつか質問していい?」

「・・・・・・・なんだ」


淡々とした口調の私を、王子は少し睨むように見た。憎悪や嫌悪というより、焦燥が浮かんでいる。


「まず一つ。その行方不明事件の被害者は、すべて”ある特徴を持った女性”なんだよね? その特徴って何?」

「被害者の女性は皆、《知恵の瞳》を持つ娘だという情報だ」

「《知恵の瞳》?」

「それも知らないのか・・・・・。さっき、黒い瞳は四属性すべてを兼ね備える特別な色だと教えただろう」

「ああ、”神の愛し児”ね。・・・・私たち魔族だけど」

「失礼ながら、我ら魔族は”全なる心臓(コル・オムニス)”と」


私の呟きに返したのはカルナだ。

余談だが、この中ではカルナは結構知識人だ。さすが二番目の年長さん。


「また、《知恵の瞳》とは――――これも人間の呼び名で、我ら魔族は”魔女の瞳オルクス・ヴェネフィカ”と呼びます――――、《火・水・風・地》どれにも属さず、またどれにでも属している者のことで、総じて《灰紫(アッシュ・モーヴ)の瞳》を持つ女のことです」

「どれにも属さず、どれにでも属している?」


意味不明な説明に、妹と二人で首を傾げた。


いわく、《知恵の瞳》——―魔界では”魔女の瞳オルクス・ヴェネフィカ”——―を持つ者は、生き物ならば誰もが持っているはずの帰属すべき属性を、生まれた時から持たないのだという。代わりに、自分の意思でその時々で帰属したい属性を任意で選ぶことができ、知識の高い者が多かったらしい。

また、魔力保有量は決して高くはないが、その純度は中位魔族にも匹敵するという。

魔族から見たら「そんなもの」と思うかもしれないが、人間から見ればかなり稀有な存在というわけだ。

そうした存在の者は、総じて《灰紫(アッシュ・モーヴ)の瞳》を持つ女性が多いらしい。


「昔は、もっとたくさん《知恵の瞳》を持つ女性はいたらしいが・・・・・・。その純度の高い魔力を狙われて、多くの者が命を落としたと伝えられている」


再び王子が言葉を引き継ぎ、人間界での話を教えてくれる。

後で知ったことだけど、《灰紫の瞳》を持つ女性が狙われやすいのにはもう一つ、その心臓を取り出すと純度の高い魔石になるという理由があった。

それを欲して中世のヨーロッパみたいな「魔女狩り」という歴史もあったらしい。


「狙うって、魔族に?」

「魔族や人間問わず、だ」

「同じ人間にも?」

「魔術師たちだ。昔は、今ほど統制がとれていなく、無法者も多かった魔術師の中には、自分の魔力を高めるために、あるいは魔族を召喚しその力を借りる対価として差し出すために狙われていたらしい」

「最悪だね・・・・」

「だが今では、国法で《知恵の瞳》を持つ者に対する理不尽な行いは禁止されているし、他国でもそうだ」

「なるほど。特徴はわかった。じゃあ、ルクスライン王子の”きょうだい”も、その《灰紫(アッシュ・モーヴ)の瞳》を持つ女性なんだね?」

「そうだ」

「じゃあもう一つ。”きょうだい”って、どういう意味? ルクスライン王子は王族なんでしょ。だったら、その”きょうだい”も王族ってことじゃない? 見当違いも甚だしいけど、その”きょうだい”を魔族に誘拐されたかもしれないのに、捜索隊―――もとい、魔界への侵攻を反対されてたの?」

「・・・・・・エリシア——―彼女は、正確には私の”乳飲み姉弟(きょうだい)”なんだ」




プロフィールその4


*ラズフェアリフォス・ウルズ・フェクト・ユリナエール・フォノス・フェニス

愛称は『ラズ』。鳥族の長で、四大公がひとり。鳥なので《風属性》かと思いきや、実は《火属性》で、属性色は《紅》。

赤と金の混じった短髪に健康そうな浅黒い肌、炎のような真紅の瞳を持つ。精悍さと猛禽類の静かな鋭利さを感じさせる釣り目の美青年。

表情筋が仕事しない。あまり大声も上げない。かといって大人しいわけでもなく、割と無差別攻撃が得意。

基本、礼儀正しいのは魔王と王妃に対してのみ。特に王妃付きの側近なので、時には魔王より王妃を優先することもある。

四大公の中では三番目の年長者。地位(魔力)的には第二席。


*本性

赤と金の羽根を持つ、長尾の猛禽類。鷲系鳥族。ゾウを二回りくらいは大きくした巨鳥。

胸部に真紅の宝玉が埋まっている。

その身に炎を纏う姿から、魔族と人の区別が曖昧な頃は”太陽の化身”として信仰の対象になっていたりした。(本人はどうでもいいと思っている)




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