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「さ、さっきから何でこんなにモンスターが……」
「もう回復薬も残ってねぇぞ」
「これマジで俺たちヤベェよ」
尾行すること数時間。日も落ちかけた頃、その時は訪れた。
度重なるモンスターとの連戦で冒険者達の疲労はピークに達していた。
冒険者だったからこそ、モンスターの恐ろしさは人一倍理解しているつもりだ。
モンスターとは不思議なもので、冒険者が弱れば弱る程に引き寄せられるように集まってくる。
冒険者が命を落とす一番の要因はこれだ。
そしてモンスターになった今、まさに俺達は弱って行く冒険者に引き寄せられている。
『ワッフル。奴らそろそろ限界だ。三人のうちの一人が力尽きたタイミングで飛び掛かるぞ』
『わかった』
新たに現れたビッグキャタピラーの群が冒険者達に襲い掛かる。
「うっ、嘘だろ!?」
冒険者のうちの一人がバランスを崩して倒れた。
「や、やめろ。やめて、助けて、うわぁぁぁぁぁぁああああ!!!!」
断末魔が響く。
全身を無数のビッグキャタピラーが覆い、そのまま命を奪ったのだ。
『今だ!! まずは左の男を仕留めるぞ!!』
『うん!!』
勢いよく飛び出し、残った冒険者のうちの一人をターゲットに絞って襲い掛かる。
『ワッフル。俺が足に体当たりしてバランスを崩す。タイミングを合わせて奴の顔に一撃加えてくれ』
『了解!』
俺は男の足首を狙って全力で体当たりする。その瞬間、男はバランスを崩しかけた。
その直後、ワッフルのタックルが男の顔に命中。タックルの力が働く方向に男はそのまま倒れた。
「な、何だ!? ……コフッ」
ゴン。と鈍い音が響き、血溜まりが広がる。
倒れた先には偶然大きな岩があり、そこに頭を強く打ち付けたようだ。
「くっ……このクソモンスターめ!! ぶっ殺してやる!!」
『まだ一人残っているぞ! 反撃される前に一度撤退して身を隠せ!』
『は、はい!』
残った一人がヤケクソに振るった剣を間一髪で回避し、そのまま逃亡。茂みに姿を隠して再びタイミングを伺う。次で確実に仕留める。……と、思っていたのだが、俺たちの出番は訪れそうにない。
ウイルスバットの毒に侵された冒険者はやがて地面に膝を突く。そのまま崩れ落ちるように倒れた身体はビッグキャタピラーの群れに飲まれて二度と起き上がる事はなかった。
『終わったな』
『うん』
勝利と言えば勝利だろう。だが自分達の力だけで掴んだものでは決してない。この勝利でワッフルは納得するとだろうか。
『ワッフル、大丈夫か?』
そう尋ねるとワッフルは少しだけ悲しい顔で笑った。
『うん。スッキリしたよ! ありがとう』
『そうか……』
なんと言葉を返して良いか、俺にはわからなかった。
『そんな事より、道具を回収しようよ!』
すっかり忘れていた。
冒険者の道具の中にワッフルの武器になりそうなものがあれば良いが。
『ちょいとごめんよ』
ビッグキャタピラーの群れに割って入り、冒険者達の遺体を漁る。
『……えぇっ!? ねぇねぇ聞いた聞いた? 今あのスライム喋ってたよね!? マジ凄くない!?』
後ろで喋るビッグキャタピラーの会話が耳に入ってくる。……もしかして、スライムって喋らないのか? あまり意識してなかったが、よく考えてみたらここ数日で見かけたスライムはどいつも話しをしてなかった気がする。
間も無くしてビッグキャタピラーの一体が話し掛けて来た。
『ねぇねぇ、あんた達何してんの? 人間の死体漁るとかマジウケるんですけど』
何が面白いのか全くわからないが、ビッグキャタピラーは身体をうねらせながらはケラケラと笑っている。スライムになってしまったとは言え、この俺、魔獣殺しのグレイル様がこんな性別も年齢もわからない芋虫風情に小馬鹿にされるとは……。
◉
若いメスのビッグキャタピラーか……。何を言っても笑ってしまう年頃だな。よし、ここは一発モンスタージョークを披露するとしよう。
『何するって? 残さず食べるんだよ! 俺ってほら、肉食系スライムだからさ』
『……え? 食べる? 引くわぁ。マジムリなんですけど……』
全くウケなかった!?
『グレイル。くだらない事言わないの。人間の道具を回収するだけでしょ!』
スベった俺を庇い、ワッフルがフォローに入る。
『あれ? あんたもしかしてホーンラビット? てか角どうしたの!?』
『一応ホーンラビットだよ。……この人間達に襲われた時に折られちゃったんだよね』
『マジか!? 実はあーしも少し前に触覚と足数本やられてるんだよね。ほら、見てみ』
そう言われて見てみると確かにそのビッグキャタピラーには触覚がない。足は短いしいっぱいあるからパッと見はわからないがよく見ると……やっぱりわからない。
『そうなんだぁ……。お互い大変だけど頑張ろうね』
『うん! マジありがとう! てかさ、そっちの肉食系スライムは本当にスライムなの!? あーし、喋るスライムみたの初めてなんだよねぇ。てかぶっちゃけ今までスライムに意思があるとも思ってなかった。みたいな?』
『よくわからないけど多分スライムだと思うぞ。あと俺の名前はグレイルだ。出来ればスライムではなく名前で呼んでくれ』
『グレイルね。オッケー。覚えた。ちなみにホーンラビットにも名前あるの?』
どうやらこのビッグキャタピラーには名前の概念があるらしい。
『私はワッフル。よろしくね』
『ワッフルね! よろー!』
『ちなみにお前は名前あるのか?』
『んー? ないよ。ぶっちゃけビッグキャタピラーに名前っていらないんだよね』
よく意味がわからないな。名前の概念があるのならそれぞれに名前が付いているのは至極普通だと思うのだが……。
『どうして名前がいらないんだ?』
『ウケる! そんなの決まってんじゃん。すぐに死ぬからだよ』
ケラケラと笑いながらそう口にするビッグキャタピラーを見て本能的に種族の壁のようなものを感じた。
『すぐ死ぬってのはどういう事だ?』
こう言う場合、本来は深く聞かない方が良いのかもしれないが、それは人の間での話だ。これだけ軽く笑いながら口にする辺り、少し踏み込んだ話をしても問題はないのだろう。
『いやさ、人間に殺されるっしょ? それと元々ビッグキャタピラーの寿命ってちょう短いんだよね。平均寿命三ヶ月くらい。みたいな? あーしは今生後二ヶ月だし、身体も欠損してるから明日死んでもおかしくないってわけ!』
軽く言っているが何とも悲しい話だ。
ワッフルなんか悲しくて目が真っ赤になっている。
……やっぱり、それを聞かされて何もしないってのも違うよな。
『もしよければだが、お前の名前、俺に付けさせてくれないか?』
『マジ!? 別に良いけど……あんま意味ないと思うよ?』
『俺が付けたいんだ。お前をずっと覚えておく為、お前が死んだ後も思い出しては名前を呼ぶ為に。折角知り合ったんだからさ』
『ちょっ……恥ずいんですけど……』
身体を窄めて赤くなった顔を必死に隠そうとするビッグキャタピラー。随分と可愛いところがあるもんだ。
……さて、肝心の名前はどうするか……そうだ!
『お前の名前はミラ』
『ミラ……なんか綺麗過ぎてあーしには勿体無い名前だね』
『そんな事はない。ミラクル……奇跡って意味から取った名前だ。俺はお前に死んで欲しくないからな。奇跡起こして長生きしてくれよ』
『ウケる。変なスライム。……じゃなかった。変なグレイル。そんな事言われたら死にたく無くなっちゃうじゃん』
ミラの瞳から大粒の涙が零れ落ちる。
『それが普通の反応だ。やっぱり死にたくないし、死ぬのはみんな怖いよな。何か少し安心した』
『うわっ! 鈍感! マジ無いわ〜』
突然ミラが冷めた視線と冷たい口調でそう言い放つ。
『だよね。グレイルのこう言うところ、所詮スライムって感じ。女の子の気持ちとか全然理解出来ないんだよ』
ワッフルも冷めた視線と冷たい口調で同調する。
俺、何がダメだったんだ? ……わからん。




