41.主上が危ない
翠は、縄鏢を持った男と対峙した。
(陣兄さま――)
隠密集団の中ではかなり上の実力だった。扱いの難しい縄鏢をも使いこなせる器用さと、頭の切れを持っていた。
(まずは出口の確保)
陣は、翠が狙っている出口をふさぐように、立ちはだかっている。
(縄鏢は、苦手だな)
縄つきの短剣が、遠いところから飛んでくる。それを避けても、縄を引けば、また手元へ戻る。彼の腰元を見れば、同じものがいくつもぶら下がっている。
(私は、かんざし一本)
リーチが長い相手とは、相性が悪い。
(陣兄さまは、縄鏢の扱いこそ巧みなものの、体術はそこまでだ)
(さっさと懐に飛び込もう)
王のほうをちらりと見てみる。何合か切り結んでいるが、王が優勢のように見える。
(目の前の敵に集中)
陣が、短剣を投げてくる。それを最小限の動きで避け、素早く懐に入り込む。が、相手が飛びすさるほうが早かった。
(距離は取らせない)
そのままもう一歩踏み込む。
陣が手首を返し、縄を引いたのが分かった。
(後ろから来る!)
――でも。
(構うな)
(今は懐に入る)
不規則な動きで手元に戻ろうとする短剣が、後ろから迫る。
「くっ……!」
背中に鋭い痛みが走る。が、足が止まるほどではない。気にせず間合いを詰める。
(よし!懐に入った)
かんざしを振りかざし、右肩を狙う。
(腱を傷つけられれば)
狙った場所へ、かんざしが突き刺さる。
さらに苦痛にゆがむ顔面に、肘を入れる。
「ぐあっ……!」
陣は吹き飛び、倒れた。
(よし……!扉だ)
倒れた兄弟子を横目に、背中の短剣を抜く。扉に近づき、出口を思い切り蹴破ろうとするが、びくともしない。
(おかしい)
扉の構造を思い出す。外から鍵をかけられるようにはなっていなかったはずだ。
(閂――か?)
両開きの扉の取っ手を、棒で渡す。簡易的な閂の完成だ。シンプルだが、そうされると中からは絶対に開けられない。
(まずいな)
だとしたら、かなり用意周到に計画されている。
(警護もおそらく――)
寝かされているか、殺されているか。どちらにせよ、いくら呼ばわっても来ないだろう。
(王をここに閉じ込め、確実に討つ気だ)
翠は考えながら、倒れた陣を見る。
(そもそも、こいつらはどこから)
そこで思い出す。王から王へ引き継がれる、隠し通路。
(隠し通路だ)
(どこにあるんだ?)
(こいつらは、どうしてそれを)
(扉が開かないなら、そこから逃げるか?)
(いや――待ち伏せされていたら、挟まれて終わりだ。危険すぎる)
翠はふうっと息を吐いた。
(逃げる作戦はなしだ。完全に制圧。それしかない)
「主上!扉は開きません。こちらは片付きましたので、加勢に向かいます」
「わかった」
倒れた陣は、うずくまって呻いている。
(でも、どうして兄さまは扉のほうへ?)
(私を引き付けるため――扉へ誘導された?)
(ということは――主上が危ない!)
翠は王のほうへと走り出した。
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