34.日差しあふれる謁見室で
卓に積まれた「お色気三姉妹」を眺めながら、王は、初めて雪蘭に会った日のことを思い出していた。
午後の柔らかな日差しが降り注ぐ謁見室。そこで少女は、深々と頭を下げた。
「――末永く、よろしくお願いいたします」
11歳の少女は、覚えてきた口上を、よどみなく発した。その本当の意味も知らず。
(こんなに小さな子供が側室って――嘘だろ)
15歳の彼には分かる。雪蘭がどうして自分のもとへ来たのか。そして、自分は彼女をどう扱うべきなのか
(父上も、ひどいな)
とりあえず厄介な政治道具を、王位継承からも遠い自分に押し付けたのだろう。しかし自分はそれを拒めない。母の身分は低く、王族の中での発言権は自分にはない。
「うん。よろしく」
なるべく怖がらせないように、気を付けながら答える。
「菓子でも持たせようか?」
緊張に震える少女が、何を好むのか分からない。雪蘭は顔を上げ、少し考えるそぶりをした。王子に菓子をすすめられたときの台詞までは、習っていなかったらしい。
そうしてしばらくして、首を横に振った。
「では、茶は?」
彼女はまた、首を振る。それで二の句が継げなくなり、気詰まりな静寂が訪れた。
「雪蘭さま、そろそろお部屋にご案内しましょうか」
女官がさらりと言った提案に、思わずすがる。
「そうだな。ゆっくりと休むといい」
侍従を呼び、彼女を部屋へと連れて行かせる。どっと疲れた。
――あれから12年。
菓子より本が好きだと聞いたから、できる限り与えた。周りに置く女官も、希望通りに。せめて、居心地のいいように。
(あの雪蘭が、明鈴を)
考えられない。
ずっと自分の世界に閉じこもり、外への興味をほとんど示さない。王の自分にも、まったく興味がないようだ。おそらく、明鈴の顔さえ、覚えていないのではないか。害意を抱く以前の問題だ。
(しかし、このままでは)
何かしらの対応を打たなければならなくなってくる。
王は深くため息をついた。
(せめて、居心地のいいように)
15歳の自分が、あの時決めたことだ。守りたいと思う。
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