24.帰ろう
「主上、お怪我は」
飛びついてきた翠は、少し泣いていた。
「大丈夫だ」
「ご無事でなによりです。安心しました。お体を確認させてください」
翠は涙をぐいっとふき取ると、脇腹の傷口を見始めた。そこは、服ごとすっぱりと切れている。
「服越しではわかりづらいので、失礼します」
翠は手際よく服を脱がせ、傷口をあらわにする。
「血は止まっていますね。良かった。毒があるやもしれません。失礼します」
傷口付近を触診される。傷口を見ているその瞳は、真剣そのものだ。涙に濡れたまつ毛が、何度もしばたかれる。
(近いな)
呼吸を詰め、されるがままになる。
「毒は大丈夫そうです。臓腑も――ひとまず傷ついている様子はないでしょう」
「お前こそ、けがをしていただろう」
「そういえば、忘れていました。お気になさらず。王のお体のほうが大切ゆえ」
「俺はもう大丈夫だ。見せてみよ」
翠が、裾をまくり上げる。そのふくらはぎには、刺さったままの飛刀が二本。刀は小さいとはいえ、痛々しいほどぐっさりと刺さっている。
「お前、よくこれで――」
暗殺者にあれほどの蹴りを入れられたものだ。
「すまなかった。――恩に着る」
実際、白刃は目の前まで迫っていた。翠の蹴りがなければ、そのままやられていただろう。
(俺のせいだ)
翠のことを気にかけすぎた。それを敵に気取られ、利用された。
「これは――抜くと出血がひどくなるかもしれんな。このまま宮へ戻ったほうがいいかもしれん。それで大丈夫か?」
「はい」
細かな傷や、血や泥の汚れをぬぐってやる。
(小さな頭だ)
細い首、肩も華奢だ。ぬぐっている足も、折れそうに細く、頼りない。
(こんなに小さいのに)
「無茶しやがって」
王は翠の頭をポンとたたくと、立ち上がった。
「ふう、疲れたな。――帰るか」
「そうですね」
王は翠の前にしゃがみ込み、
「負ぶされ」
と言った。
「大丈夫です。そのような、恐れ多い」
「その足で歩けるか。いいから乗れ」
「……では」
おずおずと首に腕が回される。背中にしがみついた少女は、驚くほど軽い。
「帰ろう」
王は歩き始めた。
背中が温かい。疲れもあり、眠いような心地いいような、不思議な気分になる。
「このお怪我、侍従にどうやって説明するんですか?」
「……考えていなかった。かなりまずいな」
「食らいますか、大目玉」
「最大級のを食らうだろうな。――いや首になるかもしれん」
と王は笑った。
それもいいかもしれない。そうしたら、謎の剣客とその妹。そうして旅をするのも楽しいだろう。
起きえないことを、少し夢見心地で考える。
背中の少女が、重くなった気がした。一瞬で最悪の事態まで想像し、背筋が粟立つ。
「――翠?」
返事がない。が、すぐに規則的な呼吸音が聞こえ、彼女が眠ったことが分かった。
王は翠を負ぶいなおし、王宮へと歩いていった。
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