22.襲撃!
城下町から王宮への裏道は、左右を竹林に挟まれた、薄暗い道だった。そこを二人は、腕を組んでまま歩いていた。
すると、翠が突然、腕を離した。
「誰か――います」
ささやいた声はごく小さい。それでも彼女が発する緊張感から、何か異変があることがわかる。
「どっちだ」
「前方です」
満月の夜は明るい。無数の竹が複雑な影を作る。その影に。
一人の男が立ちふさがっていた。
(まずいな)
その剣呑とした雰囲気から、自分を狙った刺客だとわかる。前方の王宮への道はふさがれている。後方は、城下町。夜市で浮かれる人たちを、血なまぐさい闘争に巻き込みたくない。
「逃げるぞ。右だ」
「はい」
二人は同時に走り出した。
男もすぐに追ってくる。
立ちふさがる無数の竹。滑る足元。それでも男を撒ければと走るが、距離を稼げない。
(くそ)
このあたりの地形を思い出す。
裏道の左側は、すぐに岩山に当たる。だから選ばなかった。
右側は――。
(もうしばらくすると、崖がある)
深い谷になっていたはずだ。このままだと、どちらにしても追い詰められてしまう。
「このままじゃ、埒が明かん。二手に分かれよう。あいつの狙いは俺だろうから、俺のほうに来るはず。お前は逃げて、助けを呼んで来い」
と、走りながら、翠に提案する。
「論外ですね」
翠は即座に答えた。
「なぜだ。俺のほうが武器を持っているし、ひきつけ役には向いている」
王としては、ごく冷静に、合理的に考えたつもりだった。しかし――。
「あーもう!主上は馬鹿ですか!?いいですか、一国の王と、替えの利く隠密。どちらの命が重いか、考えればわかるでしょう。私が男をひきつけますから、その間に主上はお逃げください」
「……論外だな。やつの狙いは俺なんだから、ひきつけ役は俺だ」
「なんて聞き分けの悪い!」
翠が、ものすごい形相で睨んでくる。
(――説得は無理だな)
あの男の狙いは、自分の命だ。その目的が達成されれば、翠の命を執拗に狙うことはないだろう。
「わかった、譲歩しよう。一緒に戦う。これでいいか?」
「…………いいでしょう」
まったく納得のいっていない表情で、翠はしぶしぶ承知した。
二人は同時に立ち止まった。王は刀を抜く。
「主上、お下がりください」
丸腰の翠が、王を後ろにかばいながら構える。
抜き身の剣を持った男が、ゆっくりと近づいてくる。月光に照らされたその顔を見て、翠が声を上げた。
「兄さま……!」
「翠……か?」
(――翠の兄弟子か?)
「お前、失敗して始末されたのかと思っていたが、こんなところで何をしている!ちょうどいい、今すぐ王を討て」
「できません」
「篭絡されたか!――なるほど。お前も、女だったんだな」
兄弟子は表情をいやらしくゆがめる。
「お前の兄弟子か」
「はい」
「あいつの実力は」
「私と同じくらいかと。しかし相手は得物を持っていますので、主上をお守りしながら戦うのは、少し荷が重い」
王は思わず口元を綻ばせた。
武器を持っている立派な体躯の自分と、丸腰で小柄な娘。
どちらが守るほうで、どちらが守られるほうかは一目瞭然だ。
――なのに、小さな娘が本気で自分を守ろうとしている。
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