20.的の真ん中を狙え
(次は何にしようかな)
翠は店を見回した。すでにイカ焼きと串焼きと肉まんを食べ、おなかはいっぱいだ。次は食べ物じゃないもの――。
すると、「弓当て」と書いてある遊びが目に入った。
「今度はあれがいいです!」
「弓当てか。なかなか難しいぞ」
「お任せください」
武器は一通り使えるが、その中でも弓は得意なほうだ。
「お、姉ちゃん。やるかい?」
「お願いします」
「弓をひけるのは3回。あの的の真ん中に当てられたら、ここから好きなものを持って行っていい」
主人が示した箱には、いろいろなものが入っていた。宝石のついた腕輪、金の細工、孔雀の羽根飾り、櫛、蛙の置物、飴玉、墨、小さな紙包み。
「わかりました」
的はそんなに遠くない。あの真ん中なら、難しいことはないだろう。後ろを振り返ると、王がにこにこしながら見ている。
翠は弓を受け取った。思ったより小さいそれは、弦の張りは弱く、子供っぽい作りだ。
(初めて使うタイプだな)
「やってみますね」
狙いを定めて弓をひく。
放った矢は上に浮き、狙いのはるか上のほうへと消えていった。
(あれ?かなり上滑りするな)
自信があったのに、とチャチな弓を、ぐいぐい引っ張ってみた。
後ろを振り返ると、王が慰めるように頭をぽんぽんと叩いてくる。
(くそ)
(次は絶対当ててやる)
「俺はちょっと、ほかの店を見てくる。楽しんでいてくれ」
と、王はふらっと出て行ってしまった。
「かあ~!惜しいね!2本目、いってみようか」
と、主人はにやにやしている。客が的に当てられるとは思っていないのだろう。
(あいつがいない間に、的中させてやる)
(上に浮くなら、その分を調整すれば)
子供のおもちゃのような軽い弓を持ち直す。矢をつがえる。先ほど浮いた分を加味し、狙いを定める。
(このあたりか)
ズバン。
狙いすました矢は、下から上へえぐるような軌道を見せて、的の中央へ吸い込まれていった。
「よし!」
「すごいな、姉ちゃん」
当てられるとは思っていなかったのだろう。主人は驚きながら、景品の箱を示した。
「さあ、好きなのを一つ、持っていき」
「まだ、もう一回ひけるだろ?」
「おいおい、こりゃまぐれだろ。もう一回は――」
翠はもう一度、弓を絞る。
(もうコツはつかんだ)
最後の矢も、見事に中央へ引き寄せられていく。
「やった!」
主人は目を丸くした。
「姉ちゃん、何者だよ」
「景品は、2個でいいかな」
「しょうがねえな、好きなの選びな!」
主人は、まさか二つとられるとは思っていなかったのだろう。半ばやけくそのように言った。
一つは、最初から決めていた。
「これで」
と、墨を手にする。
「羽根飾りとかじゃなくていいのかい?姉ちゃん、文字なんて書かねえだろう」
「ふふ、ちょっと」
あと一つは何にしようか。
翠は箱を覗き込んだ。金の細工や宝石が、祭りの明かりにきらめく。が、その中にある、なんでもない紙包みが気になった。
「この紙包みは?」
(予感がする。これは――)
「お、いいのに目を付けたね」
「開けてみても?」
「いいぜ」
(王の寝所でもらったものも、こんな風に包まれていた)
丁寧に包まれたそれを開けると、果たして金飛糖が一つ、転がり出てきた。
「そりゃ、すっげえ珍しい西方の菓子だ。なかなかお目にかかれないやつだぜぇ」
「金飛糖……」
「そうそう、よく名前を知ってるな」
「これがほしい」
「分かったよ。――姉ちゃん、次からはもっと手加減してくれ。商売あがったりだ」
「すまなかった」
景品を手にし、店を後にした。
(王はどこへ行ったんだ)
きょろきょろと探すが、道行く人は、全員知らない人だ。急に不安になってきた。
(探しに出てみようか)
(いや、動くのは得策ではない)
(どこへ行った?)
(弓当てに夢中になりすぎた)
不安の種はどんどん大きくなる。胸の奥がきゅうきゅうする。
――もしこのまま戻ってこなかったら?
根拠のない想像が入り込んでくる。
どうしたらいいのかと所在なく立っていると、ちょうど人込みから探し人が現れた。背が高いからわかりやすい。
(良かった)
不安の種がふわっと霧散する。
悪い、と言いながらこちらにくる背の高い男は、あちこちで焚かれている明かりを一人で背負っているかのように、オレンジ色に輝いて見えた。
「どうだった?」
「みごとに的中です。これ、もらいました」
と、翠は紙包みを取り出し、中を見せる。
「お、金飛糖か。市でも出回ってるんだな」
「景兄、口」
促すと、王は素直に口を開けた。入れやすいように、少しかがんでくれている。
その口に、菓子をぽいと放り込む。
「うん、うまい」
と、彼は菓子をボリボリ噛んだ。
このスカした男は気づいていないだろう。金飛糖を食べるとき、口元がふにゃふにゃとだらしなく緩むのを。それを見るのは楽しい。
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