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17.本、借りちゃいました

「ようやってくれた」


 雪蘭妃は、嬉しそうにネーネーを抱きしめた。先ほど翠たちに見せた顔とは、全く違う顔だ。


「ちゃんと毎日来ておくれ。美味しいご飯を用意しておくゆえ」


 ネーネーの額を撫でながら、雪蘭妃は話しかけている。


「雪蘭妃さま、いつもどんなご飯をあげているんですか?」


 紅が尋ねると、雪蘭妃は勝ち誇ったような顔をした。


「猫には古来から粥と決まっておる。それゆえ、極上の粥を与えておる」

「あのぉ~、もしかしたら、なんですが……」


 紅が、懐からまんじゅうの皮を取り出す。


「はい、ネーネーちゃん」


 ネーネーは雪蘭妃の腕を飛び出すと、紅が差し出すまんじゅうの皮を奪い取った。


「なにっ!?」


 雪蘭妃は目を見開く。

 

「ネーネーちゃん、おまんじゅうの皮が好物のようで。次からは、おまんじゅうの皮をあげると、毎日来てくれるかもしれません」

「なるほど。しかしそなたはなにゆえ、まんじゅうの皮を持ち歩いているのじゃ?」

「あ、いえ。これは、たまたま……」


 紅は、明鈴妃がかわいがっているニャンケイとの関係は言わないようにしているようだ。確かにそのほうが良いだろうと、翠も思う。


「そうか。たまたまか。そういうこともあろうな。では次からは、極上のまんじゅうの皮を用意させよう。そなたらはもう、帰ってよいぞ」


 雪蘭妃は猫を可愛がりながら、翠たちには目線もくれずに言う。


 三人は顔を合わせ、踵を返そうとする。が、その直前、翠は言おうかどうしようか迷っていたことを、ついに口に出した。


「あの、雪蘭妃さま。そこにある、『お色気三姉妹』ですが――」

「ああこれか。なんじゃ、読みたいのか?」

「いえ、私も全巻持っておりまして。もう何度も読んでいます」

「おお! そうか!」


 雪蘭妃が身を乗り出す。


「それであの、蔵書倉庫にあった『暗殺者だって恋がしたい!』ですが……」

「なんじゃ、読みたいのか?」


 雪蘭妃の瞳が、ギラっと光った。


「はい! 『ドキッ☆大工の娘の私が王子(ドキプリ)に見初められちゃった!』が大好きで」

「おお。ドキプリの作者の前作が、『暗殺者だって恋がした(あんこい)い!』じゃ。読みたいのなら、持っていくがよい」

「ありがとうございます!!」


◆


「ちょっと翠さん、気持ち悪いわよ、その顔」


 「あんこい」の一巻と二巻を抱えて、翠はニタニタと笑いながら歩く。


「はい、私もそう思います」


 杏は、冷たい目で翠を見る。


「でも、雪蘭妃さまのあんな顔、初めて見たわ」

「そうなのですか?」

「ええ。あまり人を寄せ付けず、自分からお話をされない方だと感じていたから。まさか、翠さんとあんなに意気投合するとはね」


 その翠は、歩きながらもう一巻を読み始めている。


「ちょっと、翠さん。歩きながらじゃ危ないわ」

お読みいただき、ありがとうございます!

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