↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
16/50

16.またまた猫探し

 杏は、届いた手紙を見て、意外に思った。


(雪蘭妃さまから――)


 第二夫人の雪蘭妃は、人付き合いをほとんどしない人だ。一方で翠も、ほとんど社交はしていない。


(どんな接点が?)


 そう思いながら、主人に手紙を渡す。


「翠さま、雪蘭妃さまからです」

「え?雪蘭妃さま?」


 翠も戸惑っている。


 内容をざっと読んで、翠は顔を上げた。


「杏、今日の午後、一緒に雪蘭妃さまのお屋敷に行ってくれない?紅も誘おうかな。また、猫だ」


 そう言って見せてくれた手紙には、


 ――あなたは、明鈴妃さまの猫を見つけたと聞き及びました。私も猫を探してほしいと思っています。


 とあった。


「杏、雪蘭妃さまってどんな人か知ってる?」

「何度かお見かけはしましたが、なんというか――明鈴妃さまとは反対の印象の方です」

「へえー。猫を飼っていらっしゃるってことだけど、どんな猫か知ってる?」


 杏はそれには首を振った。


◆


「そなたが、翠か」


 雪蘭妃は、翠が訪ねたとき、本を読んでいた。部屋の壁一面に本が並び、床にも積まれている。この部屋の主が本好きであることは、一目瞭然であった。そこには、愛読書の「お色気三姉妹」があることを、翠は目ざとく見つけていた。


 杏が言う通り、あの華やかで愛想のいい明鈴妃とは逆だ、と翠は思った。


 髪は整えられているが地味、上妃にしては簡素な服装。翠を見る目は警戒心に満ちていて、他者の存在を拒絶しているようだ。

 

 雪蘭妃は読みかけの本を閉じもせず、彼女らを迎える。


「我の猫は、白い猫でネーネーという。茶色のぶちがある、少し太った猫じゃ。探してくれるかえ?」


 三人は思わず目を合わせた。ニャンケイと同じだ。


「そのネーネーは普段はどの辺りに?」

「知らぬ。飯の時間になると、どこからともなく来るので愛でておるのじゃが、ここ数日、見ぬのじゃ。連れてきてくれるかえ」

「分かりました。探してみましょう」


 普通の探し物なら、情報が少なすぎて難しいだろう。しかし――。

 

「どう考えてもニャンケイじゃない」


 紅の言葉に、二人はうなずく。


「だね。こっちの屋敷にも出入りしているのかな」

「そういうことよ。だからあんなに太っているんだわ」


 翠は、あのふてぶてしいデブ猫を思い出す。あの猫なら、ご飯の二重取りくらい平気でしそうだった。


「でも、今ごろはどこにいるんでしょうね」


 杏の問いかけに、翠は考える。


「この時間だと、明鈴妃のお屋敷のおやつをもらっているのかも」

「でも困ったわねぇ。明鈴妃さまのお屋敷へ行ってニャンケイを捕まえて、こちらにお連れするというのも、かなり角が立つわ」

「明鈴妃さまのお屋敷に入ることなく、あの猫を捕まえる必要があるな」


 三人で話していると、雪蘭妃の近侍が話しかけてきた。


「雪蘭妃さまはどこから来るかわからないとおっしゃっていましたが、いつもネーネーは、北のほうから来ます。蔵書倉庫があるので、そこを住処にしているのかもしれません」


「ありがとう。じゃあ、その蔵書倉庫から見てみよう」


◆


 蔵書倉庫は、思ったよりも大きな建物だった。中に入ってみると、本がうずたかく積まれていた。


(こんなに本が!)


 思わず、タイトルを検分してしまう。その中で、気になったタイトルがあった。


(「暗殺者だって恋がしたい!」……、「暗殺者だって恋がしたい!2~だってお年頃なんだもん~」……、これは――!)


 ――最近読んだ「ドキッ☆大工の娘の私が王子(ドキプリ)に見初められちゃった!」と同じ作者だ。


(しかし、なんつータイトルだ。……気になるな)


「空気の流れを感じますね」


 杏が冷静に調査をしている。


「ここ、猫の足跡があったわ」


 紅もうまくやってくれている。


 ――「放蕩王女の日常」、「水色桃色どっちがお好き?」、「なぜか最強剣士に守られています」、「異国の王子の腕の中」、「危ない夜はもうこりごり」――


(抜群に趣味がいい!!)


 最高だ。これは垂涎もの。宝の山だ。


「あ、ここの床、動きますね」

「本当だわ!――ねえ翠さん、本を見てよだれを垂らしている場合じゃないわ!」

「翠さま、お早く」


 二人に促され、翠はやっと本のタイトルを追うのをやめた。


「ごめん。どこの床?」

「ここです」


 確かに床板がずれている。猫の足跡も多い。さらにずらすと、果たして地下への階段があった。ひんやりとした空気が流れてくる。


「明かりがほしいな」

「これをお借りしましょう」


 蔵書倉庫にあった明かりを借り、階段を降りていく。


「ネーネーは――いないな」


 地下道はまっすぐ北に向かっており、少し先で右に折れている。明かりを頼りに右折し、さらに進んでみる。すると、十字路に差し掛かった。


 翠は右の道が気にかかった。わずかに明るい。


「ちょっと様子を見てくる」


 明かりを杏に持たせて一人で進んでみる。


(明鈴妃の屋敷は、雪蘭妃の屋敷の東側に位置している。ということは……)


 明かりが遠いので、かえって夜目がきく。少し進むと、上への階段。そして、その天井は明るかった。


(おそらくここは――)


 翠の予感があっていれば、明鈴妃邸の物置だ。


 ずず……と、天井をゆっくりとずらす。急に明るくなり、翠は眩しさに何度か瞬いた。


 頭を出してみると、古びた甕に、壊れた掃除道具。やはり見覚えのある物置だった。


 すると、さっと横切る白い毛玉。


「あ!ネーネー!」


 翠は床から飛び出た。ネーネーを捕まえようととびかかるが、かわされる。ネーネーはそのまま地下道へと飛び込んでいった。慌てて翠も飛び込む。


「杏!紅さん!ネーネーがそっちへ行った!」


 翠の声が大きく反響した。


 わ!きゃっ!え?という声と、ドタバタした音。


 翠が走って追いつくと、明かりをもった紅が、北への道を指さした。


「杏!捕らえたか?」

 ネーネーを追って走りながら、翠は叫ぶ。


「いいえ!どんどん奥へと逃げていきます」

「私も行く!」


 二人は、ほとんど足音をさせないまま、素早く猫を追いかける。


 と、ネーネーが立ち止まった。行き止まりだ。上への階段になっているが、床板はピッタリと閉じており、ほとんど明かりがない


(ちょっと暗すぎるな――)


 紅が持っている明かりはあるが、彼女はマイペースに歩いているから、まだ遠くにいる。ほとんど真っ暗だ。


(さっき、光を浴びちまったからな)


 まだ、目が完全に慣れない。猫のだいたいの形は捕らえられるが、目線や細かな重心まではうかがえないから、動きの予想がつかない。


「杏、見えるか」

「はい。大丈夫です」

「私はちょっと見えにくい。私がネーネーを追い立てるから、お前が捕まえてくれ」

「かしこまりました」


 杏が少し下がる。翠はゆっくりと、猫と思われる影へと近づく。

 影が動いた。


 杏のほうをちらりと見る。通路の左側で構えている。


(わざと逃げ道を作っているな。右側に追い立てろということか)


 大きな動きで、猫を追い立てる。ネーネーは思った通り、杏の右側を駆けていく。


 杏が動いた。


 素早く猫の逃げ道をふさぎ、その手で抱きとめる。


「捕らえました!」

「ありがとう!」


「やったじゃない!」

 ようやく紅が追い付いてきた。


「そうそう、こんなこともあろうかと、これを持ってきたのよ」


 紅は懐から、まんじゅうの皮を取り出した。ネーネーの口元へ持っていくと、デブ猫は嬉しそうに頬張る。


「ニャンケイちゃんは、これが好きなのよね」

「紅さん……それを持ってきてくれていたなら、うまくおびき寄せられたかも……」

「確かに!あらごめんなさい、思いつかなかったわ」


ぴったり閉じた天井を、翠は見上げた。

(この上は、どこにつながっているんだろう)


 明鈴妃の屋敷から、まっすぐ北。王の私的なエリアであることは、ほぼ間違いない。


(そうだ。王が知っているのかも)

お読みいただき、ありがとうございます!

感想、ブクマ、リアクション、評価★★★★★などとても励みになりますので、よろしくお願いします!!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。