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男女比1:99の世界で“男”になった俺は、愛ではなく管理対象として扱われる  作者: こうた
第2章異物の出現と揺らぎ

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8/22

第2話ずれ始めた基準

翌日、記録は“正常”に戻っていた。



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【特別観察対象:封入維持】

【異常値:抑制成功】

【影響範囲:限定的】



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神代湊は端末を閉じる。



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処理としては完了している。


そう記録されている。



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だが、それで終わっていないことは分かっていた。



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「神代さん」


管理官が呼ぶ。



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「本日の適合業務は予定通りです」



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「了解しました」



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返答は自動的だった。



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施設はいつも通り動いている。


女性の流れ。面談の繰り返し。静かな契約。



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だが、昨日までと少しだけ違う。



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視線がある。



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誰かが見ているのではない。



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“見ているという感覚”だけが残っている。



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面談室。



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女性は丁寧に頭を下げる。



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「よろしくお願いします」



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いつも通りの言葉。


いつも通りの手続き。



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だが神代は、一瞬だけ止まる。



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その言葉が、昨日より“軽く”聞こえた。



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理由は分からない。



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ただ、基準が少しだけズレている。



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終了後。


廊下で管理官が言う。



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「昨日の件ですが」



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神代は歩きながら聞く。



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「記録上は問題なしです」



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「ただし」



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間が空く。



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「認識干渉の可能性があります」



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神代は止まらない。



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「何がですか」



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管理官は少しだけ声を落とす。



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「観察対象の発言です」



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“おかしい”



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その単語。



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神代の中で、また同じ位置に戻る。



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その日の午後。


神代は再び施設外縁へ向かうことになる。



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理由は“追加確認”。



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だが本当の理由は、説明されない。



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到着した場所は、昨日と同じ区画だった。



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そこに、男はいた。



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拘束は外されていない。



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しかし、目だけは動いている。



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神代を見る。



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「……また来たのか」



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声は弱い。



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だが、記憶はある。



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神代は記録を確認する。



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【封入対象:意識保持確認】

【反応:継続】



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「あなたは記録を保持していますか」



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神代が言う。



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男は笑う。



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「記録?」



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「何のだよ」



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少し沈黙。



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そして男は言う。



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「俺はただ」



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「おかしいと思ってるだけだ」



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その言葉が、また同じ場所に刺さる。



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神代は問う。



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「何がですか」



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男は即答する。



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「全部だよ」



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「女ばっかの街も」


「男が少ないのも」


「お前らが普通みたいな顔してるのも」



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「全部おかしい」



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その瞬間、神代の内部で小さな揺れが起きる。



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しかしまだ崩れない。



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「あなたの世界は?」



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神代は聞く。



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男は少し黙る。



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「1980年だって言っただろ」



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「普通だったよ」



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その“普通”という言葉が、逆に異質だった。



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神代は理解する。



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この男は比較している。



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そして、この世界は比較に耐えていない。



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管理官が割って入る。



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「観察終了します」



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空気が再び固定される。



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男の声が途切れる。



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だが最後に一言だけ残る。



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「お前もいつか気づく」



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処理。



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終了。



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神代は施設を出る。



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だが足取りは少しだけ遅れていた。



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“普通”が、少しだけ遠くなる。



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(第2章 第2話・終)

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