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男女比1:99の世界で“男”になった俺は、愛ではなく管理対象として扱われる  作者: こうた
第2章異物の出現と揺らぎ

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第1話1980年の男


その通知は、通常の分類には存在しなかった。



---


【特別観察対象:封入解除】

【再起動プロトコル:例外処理】

【出現座標:第三区画】



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神代湊は端末を見たまま、数秒動かなかった。



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例外。


この世界では、その言葉はほとんど使われない。


使う必要がないからだ。



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すべては設計されている。


例外は存在しないはずだった。



---


「確認に行きます」


管理官の声は淡々としていた。



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神代は頷く。



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移動中、街はいつも通りだった。


女性の群れ。整った生活動線。静かな秩序。



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だが、施設へ近づくほど、空気が少しずつ“乱れて”いく。



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それは音ではない。


視線でもない。



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意味の欠落だった。



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施設内部。


白い区画。



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その中心に、男がいた。



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座っていない。


拘束もされていない。


ただ、そこに“存在している”。



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そして、周囲を見ていた。



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「……ここどこだ」



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声は低く、乾いていた。



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神代は記録端末を確認する。



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【出現体:分類不能】

【言語認識:可】

【時代照合:不一致】



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男は神代を見る。



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そして言う。



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「お前ら、何してる?」



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その言葉は質問ではない。


拒絶だった。



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神代は一歩近づく。



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「あなたは転送された可能性があります」



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男は笑う。



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「転送?」



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「何の話だよそれ」



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その笑いには理解がない。



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あるのは、“常識の衝突”だけだった。



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「ここはどこだって聞いてんだ」



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管理官が一歩出る。



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「落ち着いてください。説明を――」



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「落ち着く?」



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男の声が一段上がる。



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「まずお前ら全員おかしいだろ」



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空気が変わる。



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神代は気づく。



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この男は“理解していない”のではない。



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“理解の前提が違う”。



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男は神代を指さす。



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「お前、男か?」



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その一言で、空気が止まる。



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神代は答えない。



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代わりに管理官が言う。



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「適合男性です」



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「は?」



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男の顔が歪む。



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「適合って何だよ」



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「人間に適合とかあるわけねぇだろ」



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その瞬間、記録が一瞬だけ乱れる。



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神代は理解する。



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この男は“この世界の外側”を持っている。



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男は続ける。



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「1980年だ」



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沈黙。



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「俺のいた世界は1980年だ」



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管理官の記録が停止する。



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神代だけが、動いている。



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そして思う。



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これは異常ではない。



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“別の基準”だ。



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男は言う。



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「この世界、おかしいだろ」



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その言葉と同時に、拘束プロトコルが起動する。



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空間が固定される。



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男の動きが止まる。



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しかし目だけが動いている。



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神代を見る。



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「お前もか」



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その一言が、残る。



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処理完了。



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記録は閉じられる。



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だが、言葉だけは残った。



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神代は施設を出る。



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空は変わらない。



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だが、世界の輪郭だけが少しズレている。



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「おかしい」



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それは、初めて“外から来た言葉”だった。



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(第2章 第1話・終)

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