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男女比1:99の世界で“男”になった俺は、愛ではなく管理対象として扱われる  作者: こうた
第1章 選ばれる側の世界

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第4話拘束

朝の通知は、いつもより静かだった。


音が小さいわけではない。

むしろ逆で、必要な情報だけが過剰に正確だった。



---


【神代湊】

【長期管理対象:第七区画指定】

【移送準備:開始】



---


神代は画面を見たまま、しばらく動かなかった。



---


理解はできる。


しかし感情が追いつかない。



---


「……決定、か」


声に出しても、誰も答えない。



---


玄関の外には、すでに管理官が立っていた。


待っていた、というより“そこに配置されていた”という方が正しい。



---


「予定通りです」


それだけ。



---


神代は抵抗しない。


この世界では、抵抗は存在しない。



---


ただ、従うか、処理されるかの二択だ。



---


車両に乗ると、窓の外の景色は変わらない。


人も、街も、昨日と同じまま動いている。



---


それなのに、自分だけが別の場所へ向かっている。



---


到着した施設は、以前より静かだった。


静かすぎて、音が吸われているように感じる。



---


入口で、一ノ瀬梨沙が待っていた。



---


「来たんだね」


その声は、いつもと変わらない。



---


だが距離だけが違った。


少しだけ、遠い。



---


「仕事だ」


神代は短く言う。



---


梨沙は頷く。


「知ってる」



---


沈黙。



---


この沈黙は、以前のものとは違う。


会話の余白ではない。



---


“終わりの準備”だ。



---


「湊」


梨沙が言う。



---


「これで、しばらく会えない」



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神代は答えない。


答える言葉が、どこにもない。



---


施設の扉が開く。



---


中には、すでに手続きのすべてが用意されていた。


書類ではない。


環境だ。



---


神代の名前は、すでにそこにある。


書かれる前に、決まっている。



---


【長期管理対象:適合確認済】

【移送先:第七区画】

【自由行動:制限解除】



---


制限解除。


それは自由ではない。



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ただの切断だ。



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管理官が淡々と言う。


「これより生活圏の移動を開始します」



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神代は頷く。



---


そのとき、梨沙が一歩前に出る。



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「最後に」



---


声は小さい。


だが確かだった。



---


「一つだけ、覚えてて」



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神代は見る。



---


梨沙は続ける。



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「あなたは、まだ“人”だから」



---


その言葉は、優しさではない。


命令でもない。



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ただの確認だった。



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その瞬間、施設内の警報が一瞬だけ鳴る。



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しかしすぐに止まる。


異常ではないと判断されたからだ。



---


神代は理解する。



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この世界では、“人であること”の方が異常だ。



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移送準備が進む。



---


拘束はない。


逃走防止もない。



---


必要がないからだ。



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この場所に来た時点で、もう選択は終わっている。



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それでも神代は、少しだけ足を止める。



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理由はない。



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ただ一つだけ、残っていた感覚がある。



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“選ぶ”という言葉。



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誰かが言っていた。


誰かが壊れながら言っていた。



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そして誰かが、こちらを見て言った。



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「選んで」



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神代は息を吐く。



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そして初めて気づく。



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この世界には「戻る場所」がないのではない。



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最初から「選ぶ場所」が存在しないのだ。



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梨沙を見る。



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彼女は動かない。


止めもしない。



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ただ見ている。



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それが一番、残酷だった。



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管理官が言う。


「移送を開始します」



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その瞬間、神代は理解する。



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これは終わりではない。



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ただの“固定”だ。



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人としてではなく、役割としての固定。



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車両へ向かう途中、梨沙が最後に一言だけ言う。



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「……ねえ、湊」



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「壊れないで」



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神代は答えない。



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答えられない。



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そして、車両に乗る。



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扉が閉まる音がする。



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静かになる。



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外の世界は、何も変わらないまま続いている。



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ただ一人分だけ、いなくなるだけだ。



---


それだけのことだった。



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(第4話・終)



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