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男女比1:99の世界で“男”になった俺は、愛ではなく管理対象として扱われる  作者: こうた
第1章 選ばれる側の世界

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第5話制度の外側で

車両の内部は、想像よりも静かだった。


音が遮断されているわけではない。

ただ、意味のある音だけが存在しない。



---


神代湊は窓の外を見ていた。


街は変わらない。


人も変わらない。



---


それでも、自分だけが少しずつ切り離されていく。



---


「ここから先は、観測区域です」


管理官の声が響く。



---


観測。


それは説明ではない。

定義だ。



---


神代は頷く。


「了解しました」



---


それ以上はない。



---


車両が停止する。


扉が開く。



---


外は、都市の端だった。


整備された区域ではない。


だが崩れてもいない。



---


“管理されているが、管理の顔をしていない場所”



---


そこに、一ノ瀬梨沙が立っていた。



---


今までとは違う服装。


今までとは違う距離。



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「ここなら」


梨沙は言う。



---


「少しだけ、時間がある」



---


神代は答えない。



---


時間。


その概念は、この世界では希薄だ。



---


すべてはすでに予定されている。



---


それでも梨沙は続ける。



---


「あなた、まだ戻れると思ってる?」



---


神代は少しだけ間を置く。



---


「戻る場所はない」



---


梨沙は小さく頷く。



---


「うん」



---


「でもね」



---


一歩近づく。



---


「選ぶ場所は、ここにある」



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その言葉で、空気がわずかに変わる。



---


神代は周囲を見る。



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監視はある。


管理もある。



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だが“決定”だけが存在していない。



---


初めて見る空白だった。



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梨沙は静かに言う。



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「湊」



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「あなたはずっと、選ばれてきた」



---


「でも」



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「一回くらい、自分で決めてもいい」



---


その言葉は優しさではない。


誘導でもない。



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ただの事実の提示だった。



---


神代の中で、何かが浮かび上がる。



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消耗した男。


壊れた女。


子供の問い。


そして1980年の男。



---


すべてが同じ方向を向いている。



---


「おかしい」



---


その言葉だけが、繰り返されている。



---


神代はゆっくり言う。



---


「何を選べばいい」



---


梨沙は答えない。



---


代わりに、少しだけ笑う。



---


「それを考えるのが、選ぶってこと」



---



---


沈黙。



---


世界は静かだ。


だが初めて、その静けさに“余白”がある。



---


神代は目を閉じる。



---


選ばれてきた人生。


管理された行動。


決められた関係。



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それでも。



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どこかで一度だけ、止まった感覚があった。



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“選んで”



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目を開ける。



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梨沙は動かない。


待っている。



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管理官も動かない。


記録も進まない。



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ここだけが、切り取られている。



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神代は一歩前に出る。



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そして言う。



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「俺は」



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言葉が途切れる。



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だが続く。



---


「まだ」



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「決めていない」



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梨沙は静かに頷く。



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「それでいい」



---


その瞬間、遠くで警告音が鳴る。



---


空間がわずかに揺れる。



---


“観測終了準備”



---


それでも梨沙は動かない。



---


神代は初めて、自分の足で立っている感覚を持つ。



---


誰にも選ばれていない場所で。



---


ただ一人で。



---


(第5話・終)




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