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男女比1:99の世界で“男”になった俺は、愛ではなく管理対象として扱われる  作者: こうた
第1章 選ばれる側の世界

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第3話崩壊の観測

「今日は、見学を入れます」


管理官の声は、いつも通りだった。



---


神代湊は端末から目を離さないまま頷く。


「了解しました」


それ以上の意味はない。


この世界では、予定は感情より優先される。



---


向かった先は、都市外縁部の医療管理区画だった。


白い建物。静かな廊下。整えられた空気。


すべてが“正常”に見える場所。



---


だが、その奥だけは違った。



---


扉が開いた瞬間、空気が変わる。


音が減るのではない。


“意味がなくなる”。



---


そこにいたのは、一人の男性だった。



---


痩せている。


という表現では足りない。


削れている。



---


ベッドに固定され、目だけが動いている。


口は半開きのまま、何かを言おうとしているが、言葉にならない。



---


神代は記録端末を確認する。



---


【対象:男性適合者(低耐久個体)】

【長期管理後期症状:精神・肉体同時崩壊】



---


管理官が淡々と説明する。



---


「適合寿命を超えています」


「機能維持は困難です」



---


神代は頷く。


「終了処理は?」



---


「未定です」



---


未定。


その言葉だけが、この空間に重く残る。



---


ベッドの男が、かすかに動く。


視線が神代に向く。



---


そして、声にならない声が漏れる。



---


「……たす……け」



---


その単語だけが、形を保っていた。



---


管理官は何も反応しない。


神代も同じだった。



---


だが、ほんの一瞬。


“意味”だけが、残った。



---


次の区画へ移動する。



---


そこには女性がいた。



---


一見すると正常だった。


髪も整い、衣服も乱れていない。


しかし目だけが、何も見ていなかった。



---


管理官が言う。



---


「心理崩壊個体です」


「長期適合者との関係継続による疲弊」



---


神代は資料を見る。



---


【長期関係:12回更新】

【情動反応:段階的低下】

【自己認識:不明瞭化】



---


女性は神代に気づく。


しかし反応が遅い。



---


「……あれ」



---


声は、言葉になる前に崩れた。



---


神代は問いかける。


「認識はありますか」



---


女性は少し笑った。



---


「認識……?」



---


その後、沈黙。



---


「わたし、まだ……必要?」



---


その問いは、この世界では成立しない。



---


必要かどうかではなく、割り当てだからだ。



---


神代は答えない。


答えられない。



---


管理官が処理を続ける。


「次へ移動します」



---


廊下を歩く。


音が戻る。


しかし意味は戻らない。



---


次の部屋。



---


そこにいたのは子供だった。



---


小さすぎる。


本来ここにいるはずの存在ではない。



---


記録を見る。



---


【出生調整対象】

【例外的生存個体】



---


子供は神代を見る。


そして、普通に言った。



---


「おじさんは、なんでここにいるの?」



---


神代は止まる。



---


その問いは、あまりに普通だった。



---


しかしこの世界では、普通は異常だ。



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管理官が遮る。


「教育対象です。接触は不要です」



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だが子供は続ける。



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「ねえ」



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「なんで、みんな泣かないの?」



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沈黙。



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誰も答えない。



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子供は少し首をかしげる。



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「ここ、おかしいよ」



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その一言で、空気が凍る。



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管理官が即座に処理を指示する。



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「記録遮断」



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視界の一部が黒く塗りつぶされる。



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子供の声だけが、残る。



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「ねえ、変だよ」



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そして途切れる。



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移動中、神代は何も言わなかった。



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だが内部で、何かが少しずつ崩れていた。



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最初は男だった。


次は女だった。


そして最後は子供だった。



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すべてが同じことを言っていた。



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“おかしい”



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その言葉は、この世界の外側から来ていた。



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施設を出る。


空は変わらない。


人も変わらない。



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それでも神代だけが、少し遅れているような感覚があった。



---


端末に通知。



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【長期管理対象:追加候補選定】



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自分の名前。



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それを見た瞬間、理解する。



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これは他人の崩壊ではない。



---


自分の番が近づいているだけだ。



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そして初めて思う。



---


“正常”とは何だったのか、と。



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(第3話・終)




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