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男女比1:99の世界で“男”になった俺は、愛ではなく管理対象として扱われる  作者: こうた
第1章 選ばれる側の世界

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第2話1980年の男

その男は、最初から「異物」だった。



---


都市中央区・隔離観察施設。


通常なら、登録・分類・適合評価が終わるまで、被観察対象は動かない。


しかしその男は、最初から椅子に座っていなかった。



---


「……ここ、どこだ?」


声は低く、荒れていた。


神代湊は、記録端末を見ながら部屋に入る。


白い空間の中で、その男だけが浮いているように見えた。



---


服装はこの時代のものではない。


布の質も、形も、設計思想も違う。


何より――


目が違う。



---


「登録名はまだありません」


管理職員が言う。


「出現記録のみ。出身不明」



---


男は周囲を見回していた。


壁。天井。端末。人間。


そして最後に、神代を見る。



---


「お前ら……何してんだ?」


その言葉は、問いではなく拒絶だった。



---


神代は一歩近づく。


「あなたは、ここに転送された可能性があります」



---


「転送?」


男は笑った。


乾いた、理解できないものを見る笑い方だった。



---


「意味わかんねぇよ」


「ここはどこだって聞いてんだ」



---


管理職員が一歩前に出る。


「落ち着いてください。説明を――」



---


「落ち着く?」


男の声が少しだけ上がる。


「まずお前ら、全員おかしいだろ」



---


空気が変わる。


この世界では珍しい“乱れ”だった。



---


神代はそれを見ていた。


理解できないのではない。


“理解する基準が違う”。



---


男は神代を指さした。


「お前、男か?」



---


その一言で、空気が止まる。



---


神代は答えない。


代わりに職員が言う。


「適合男性です」



---


「は?」


男の顔が歪む。



---


「適合? 何だそれ」


「人間に適合とかあるわけないだろ」



---


その言葉は、この世界の前提を踏み抜いていた。



---


神代は初めて気づく。


この男は“この世界の説明を必要としない”。


なぜなら、この世界を知らないからだ。



---


「あなたの時代を教えてください」


神代は言う。



---


男は少し黙る。


そして、ようやく言葉を選ぶように話す。



---


「1980年だ」



---


沈黙。



---


「西暦1980年から来た」



---


管理職員が記録を止める。


神代はその瞬間、理解する。



---


これは“異常個体”ではない。


“別世界の人間”だ。



---


男は続ける。


「俺の世界じゃ、こんな管理とかありえねぇ」


「人間を分類? 適合? 意味わかんねぇよ」



---


神代は、その言葉を聞いていた。


しかし感情は動かない。


ただ、データとして処理するだけだ。



---


だが――


ほんのわずかに、違和感が残る。



---


男は笑う。


「お前ら、普通に狂ってるぞ」



---


その瞬間だった。


施設内の警報が鳴る。



---


【観察対象:精神不安定反応】


【制御プロトコル起動】



---


空気が変わる。


壁の一部が開き、拘束装置が展開される。



---


男はそれを見て後退する。


「おい待て、冗談だろ」



---


神代は一歩前に出る。


「抵抗は推奨されません」



---


男は神代を見る。


そして、初めて少しだけ声を落とす。



---


「……お前もか」



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その一言が刺さる。


理由は分からない。


しかし確かに、何かが揺れた。



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拘束装置が起動する直前。


男は叫ぶ。



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「この世界、おかしいだろ!」



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その言葉と同時に、全システムが彼を固定する。



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静寂。



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施設は再び“正常”に戻る。



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神代はその場に立っていた。



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記録は更新される。



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【特別観察対象:封入処理完了】


【第2種異常個体として管理】



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画面を見ながら、神代は思う。



---


“おかしい”と言った男は、処理された。



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だがその言葉だけは、処理されなかった。



---


施設の外に出る。


空は変わらない。


人も変わらない。



---


しかし神代の中でだけ、何かが一度だけズレた。



---


「おかしい、か」



---


初めて、言葉として認識する。



---


その意味を理解しないまま。



---


(第2話・終)



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