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男女比1:99の世界で“男”になった俺は、愛ではなく管理対象として扱われる  作者: こうた
第1章 選ばれる側の世界

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第1話選ばれるという日常

朝は、いつも同じだった。


光の入り方も、空気の温度も、街の音すら一定に調整されている。

この都市では“変化”というものが、ほとんど存在しない。


神代湊は、端末の通知で目を覚ました。


そこには今日の予定が淡々と並んでいる。



---


・適合面談:2件

・生体評価更新:1件

・生活適合確認:1件



---


「……変わらないな」


誰に向けたわけでもない言葉が、部屋に落ちる。


変わらないことは、この世界では安定だ。

安定は、管理の完成度を意味する。



---


玄関を出ると、外はすでに人で満ちていた。


だがそのほとんどは女性だ。


仕事に向かう者、談笑する者、端末を見ながら歩く者。

誰もが自然に見える。


それが、この世界の異常だった。



---


男性はほとんどいない。


いるとしても、表に出ることは少ない。

保護され、管理され、割り当てられる存在。


それが「男」という分類だった。



---


「神代さん」


背後から声がする。


振り向くと、管理局の職員が立っていた。



---


「本日の適合率、更新されています」


端末が差し出される。


数値は高い。

いつも通りだ。



---


「引き続き優先対象です」


優先。


それはこの世界では、特別ではない。

むしろ拘束に近い言葉だった。



---


人間は三つに分類される。


生産側。

消費側。

そして管理対象。


神代はその境界にいた。



---


施設に入ると、空気が完全に切り替わる。


白い壁。

均一な照明。

余計な音のない空間。


ここでは感情は必要ない。



---


最初の面談はすぐに始まった。


部屋に入ってきた女性は、丁寧に頭を下げる。



---


「よろしくお願いします」


緊張しているのが分かる。

だが、その緊張は恐怖ではない。


慣れた緊張だ。



---


神代は軽く頷く。


「問題ありません」


それ以上の言葉は不要だった。


この場では、会話は機能ではない。

手続きだ。



---


数十分後、面談は終わる。


女性は少しだけ安心したような顔をしていた。

何かが解決したような表情でもあった。


しかしそれが何なのか、神代には分からない。



---


次の予定へ向かう廊下で、ふと足が止まる。


理由はない。


ただ、ほんのわずかに、違和感のようなものがあった。



---


「湊」


声。


振り向くと、一ノ瀬梨沙が立っていた。



---


昔から変わらない顔。


昔から変わらない距離。


そして、変わらないまま少しだけ遠い存在。



---


「久しぶり」


「仕事?」


「まあね」


短い会話で終わる。


それが一番自然だった。



---


「疲れてる?」


「別に」


「そう」


それ以上は聞かない。



---


沈黙が落ちる。


この世界では沈黙は珍しくない。

しかし彼女との沈黙だけは、少しだけ意味が違う気がした。



---


「ねえ」


梨沙が言う。


「それでいいの?」



---


それ。


何を指しているのかは分かる。

分かるからこそ、答えられない。



---


「仕事だ」


それ以上の説明は必要なかった。



---


梨沙は少しだけ目を伏せる。


「そっか」



---


それだけだった。


否定もしない。

説得もしない。

ただ、そこに“違い”だけが残る。



---


彼女は歩き出す。


止める理由はない。

止める権利もない。



---


「またな」


気づけばそう言っていた。



---


梨沙は振り返らない。

ただ軽く手を上げるだけだった。



---


その背中を見ながら、神代は思う。



---


“それでいいのか”という問いは、この世界には存在しないはずだ。



---


だがその日だけは違った。


その問いは、消えなかった。



---


施設へ戻る途中、端末が通知を出す。



---


【新規特別観察対象:登録】



---


神代は歩きながら画面を見る。



---


出身:不明

登録:未付与

履歴:未確認



---


そして最後の一行。



---


「1980年より転移した可能性あり」



---


足が止まる。



---


意味が分からない。


だが、それ以上に理解できないことがあった。



---


“理解できないものが出てきた”という事実そのものが、この世界では異常だった。



---


神代は端末を閉じる。


空はいつも通りだった。


街もいつも通りだった。



---


それでも、どこかだけが確実に違っていた。



---


この世界は、まだ終わっていないのではない。



---


もしかすると。



---


何かが、始まりかけているのかもしれなかった。



---


(第1話・終)

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