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男女比1:99の世界で“男”になった俺は、愛ではなく管理対象として扱われる  作者: こうた
第4章拘束される未来

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第5話まだ人間であるということ

封鎖フィールドの中は、音がなかった。



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正確には、音が“意味を持たなくなっていた”。



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神代湊は梨沙の手を握ったまま、動かなかった。



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逃げ場は消えた。



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視界の外側では、回収ユニットが静かに降下している。



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ゆっくりと。


確実に。



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「対象、確保フェーズへ移行」



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機械音声が響く。



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感情はない。


躊躇もない。



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ただ“処理”している。



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梨沙が小さく息を吐く。



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「……ここまでか」



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その声は諦めではなかった。



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理解だった。



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神代は手を離さない。



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むしろ少し強く握る。



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「まだ」



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声が出る。



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「まだ終わってない」



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梨沙が神代を見る。



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少しだけ笑う。



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「うん」



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その“うん”には、安心も絶望も両方あった。



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上空の装置が展開される。



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光が一点に収束する。



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【人格固定処理:開始】

【対象意識の再構成】



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再構成。



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それは“壊す”ではなく、“戻す”という意味だった。



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この世界にとって、逸脱は修正されるべきものだ。



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神代の視界が揺れる。



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音が遠ざかる。



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思考が薄くなる。



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「湊」



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梨沙の声だけが残る。



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「ここで負けたら」



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「全部、ただの記録になる」



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その言葉で、神代の中に何かが戻る。



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記録。



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適合。



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管理。



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長期対象。



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全部、“自分ではないもの”だ。



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神代は目を閉じる。



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そして思う。



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自分はずっと、“選ばれていた”。



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でも今は違う。



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今は。



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「俺が……いる」



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小さな声。



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だが確かだった。



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その瞬間。



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封鎖フィールドが揺れる。



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【異常検知】

【再構成エラー】



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管理システムが一瞬止まる。



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“意思”が、処理を上回る。



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梨沙が息をのむ。



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「……やった」



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だが次の瞬間。



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さらに強い圧力が降りる。



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【強制再同期開始】



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世界が、神代を“正しい形”に戻そうとする。



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痛みではない。



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消失に近い感覚。



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神代の中の輪郭が薄くなる。



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記憶。


感情。


名前。



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消えていく。



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それでも。



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梨沙の手だけは残っていた。



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神代はそれを握り返す。



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「離すな」



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それだけ言う。



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梨沙は強く頷く。



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「離さない」



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その瞬間。



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神代の中で、最後の境界が生まれる。



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“これは俺だ”



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その認識だけが、崩れない。



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管理システムが警告を発する。



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【対象:未回収状態】

【処理不能】



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初めてだ。



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世界が“処理できない個体”を前にしている。



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静寂。



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そして。



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回収ユニットが停止する。



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梨沙が小さく笑う。



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「まだ人間だよ」



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その言葉は称賛ではない。



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事実の確認だった。



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神代はゆっくり目を開ける。



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空は変わらない。



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都市も変わらない。



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だが。



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自分だけが、少しだけ違う場所にいる。



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「ここにいる」



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神代はもう一度言う。



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今度は迷わず。



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システムは沈黙する。



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世界は処理を止めたまま、神代湊を見失っている。



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(第4章 第5話・終)

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