第4話切断される世界
「対象、移動開始を確認」
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無機質な音声が街の上空に響く。
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それは放送ではない。
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“現実の更新”だった。
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神代湊と一ノ瀬梨沙は、路地の奥へと走っていた。
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息が乱れる。
足音が重なる。
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背後にはドローンの光が追従している。
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逃げているのではない。
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“追跡されている状態に移行している”だけだ。
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「こっち!」
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梨沙が曲がる。
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狭い階段を駆け上がる。
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古いメンテナンス通路。
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管理システムの盲点。
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神代は息を切らしながら言う。
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「これで……逃げ切れるのか」
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梨沙は即答しない。
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少しだけ間がある。
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そして。
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「分からない」
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その正直さが逆に現実だった。
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階段の上。
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扉が開く。
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外は高架施設の裏側。
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風が強い。
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都市の“裏”。
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神代は初めて見る景色だった。
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整備されているが、管理の“表情”がない場所。
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「ここなら……少しだけ」
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梨沙が言いかける。
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その瞬間。
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空気が変わる。
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低い駆動音。
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複数。
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ドローンではない。
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もっと重い。
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回収ユニット。
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上空に黒い影が浮かぶ。
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網状の光が展開される。
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空間封鎖。
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【対象区域:隔離開始】
【外部接触遮断】
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神代の呼吸が止まる。
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「もう……無理だ」
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梨沙は振り返らない。
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ただ前を見ている。
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「まだ」
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「終わってない」
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その声は震えていない。
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だが。
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少しだけ、壊れかけていた。
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封鎖フィールドが降りてくる。
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空が“閉じていく”。
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神代は気づく。
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これは逃走ではない。
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“許可されていない意思”の処理だ。
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つまり。
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人間としてではなく。
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“エラー”として扱われている。
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梨沙が神代を見る。
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その目は、もう迷っていない。
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「湊」
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「最後まで決めて」
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神代は一瞬だけ立ち止まる。
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世界が閉じる。
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音が減る。
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光が制限される。
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残された選択肢は少ない。
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逃げるか。
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戻るか。
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だがそのどちらも、“決められた枠”の中だ。
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神代は初めて理解する。
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この世界には「外」がない。
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あるのは、“従う形”だけだ。
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それでも。
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今、自分の中に残っているものがある。
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「……俺は」
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声がかすれる。
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「ここにいたい」
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その瞬間。
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空気が一瞬だけ止まる。
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梨沙が小さく息を吐く。
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「うん」
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封鎖フィールドが完全に降下する。
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光が遮断される。
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世界が、神代湊を“回収”しようとする。
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その中で。
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神代は梨沙の手を強く握る。
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そして初めて。
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“消えないもの”を選んだ。
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(第4章 第4話・終)




