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男女比1:99の世界で“男”になった俺は、愛ではなく管理対象として扱われる  作者: こうた
第3章崩れていくもの

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第4話逃げ場のない世界

「移送日は三日後です」



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管理官の声は静かだった。



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静かすぎて、逆に現実感がない。



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神代湊は、通知画面を見つめたまま動かなかった。



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【長期管理対象:正式認定】

【移送先:第七管理区画】

【自由行動期限:残り72時間】



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72時間。



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それは猶予ではない。



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“終わりまでの残り時間”だった。



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「質問はありますか」



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管理官が聞く。



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神代は少し考える。



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だが、何も出てこない。



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質問をするには、“選択肢”が必要だ。



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この世界には、それがない。



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「ありません」



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自分の声が、妙に遠く聞こえる。



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施設を出る。



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外は昼だった。



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空は青い。


街は正常。


人々は笑っている。



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何も変わらない。



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それなのに。



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神代だけが、世界から切り離され始めている。



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歩く。



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視線が集まる。



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女性たちの目。


期待。


欲望。


羨望。



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だが今の神代には、それが全部“同じ顔”に見えた。



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“俺”を見ていない。



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見ているのは、役割。



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希少性。



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機能。



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「湊」



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声。



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振り向くと、一ノ瀬梨沙がいた。



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彼女は神代を見る。



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そしてすぐに気づく。



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「決まったんだね」



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神代は頷く。



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沈黙。



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街の音だけが流れている。



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「……そっか」



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梨沙は小さく呟く。



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その声は、少しだけ震えていた。



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神代は初めて思う。



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この人は、感情を隠すのが上手かったんだ、と。



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「湊」



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梨沙が言う。



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「今なら、まだ間に合う」



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神代は理解できない。



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「何が」



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梨沙は少しだけ苦しそうに笑う。



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「そういうところ」



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彼女は視線を落とす。



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「ずっと思ってた」



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「湊は、誰かに必要とされることに慣れすぎてる」



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「だから、自分がどうしたいのか分からなくなってる」



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言い返せない。



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地下の男も言っていた。



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“空になる”。



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壊れた女性も言っていた。



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“自分が削れる”。



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少年も言っていた。



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“自分で決めた方がいい”。



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全部が繋がる。



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神代は静かに言う。



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「逃げても意味がない」



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梨沙は即答する。



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「意味はある」



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その言葉が、神代を止める。



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梨沙は続ける。



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「結果が変わらなくても」



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「自分で決めたなら、それは違う」



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風が吹く。



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街の広告映像が流れる。



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【安定した未来へ】

【統合管理社会は人類を守ります】



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その映像が、急に気持ち悪く見える。



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神代は目を閉じる。



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今までの人生。



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選ばれること。


求められること。


期待されること。



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それが価値だと思っていた。



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だが。



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その中に、“神代湊”は存在していたのか。



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「……分からない」



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小さく呟く。



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梨沙は少しだけ近づく。



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「分からなくてもいい」



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「でも」



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「考えるのをやめたら、本当に終わる」



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その言葉が、深く刺さる。



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遠くで警報音が鳴る。



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夕方の移動制限通知。



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世界は正常に動き続けている。



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神代が壊れかけていても、関係なく。



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梨沙は最後に言う。



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「湊」



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「あなた、まだ戻れるよ」



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神代は聞く。



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「どこに」



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梨沙は少し黙る。



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そして。



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「“人”に」



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その瞬間。



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神代の中で、何かが決定的に揺れた。



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自分は今まで、“人間”だったのか。



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それとも。



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ただ管理される“機能”だったのか。



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答えは、まだ出ない。



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だが初めて。



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神代湊は、“答えを出したい”と思った。



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(第3章 第4話・終)

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