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男女比1:99の世界で“男”になった俺は、愛ではなく管理対象として扱われる  作者: こうた
第3章崩れていくもの

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第3話子供の問い

「拒絶反応が確認されました」



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管理局の会議室。


白い机。白い壁。白い照明。



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何も感情を残さない空間。



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神代湊は、その中心に座っていた。



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「精神波形に揺らぎがあります」


管理官が淡々と続ける。



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「長期管理移行前に再調整を推奨します」



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再調整。



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その単語に、神代は反応できなかった。



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感情を整える。


疑問を減らす。


不安を抑える。



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この世界では、それは治療だ。



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だが今の神代には、別の言葉に聞こえる。



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“削る”。



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「本日の追加観察対象です」



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端末が切り替わる。



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【出生調整区域】

【教育維持観察対象】



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神代は立ち上がる。



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何も言わない。



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だが胸の奥には、昨日の感情が残っていた。



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“嫌だ”。



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その感情だけが、消えていない。



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出生調整区域。



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そこは他の施設と違った。



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静かではある。


だが、完全に無音ではない。



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小さな足音。


笑い声。


泣き声。



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“子供の音”がある。



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神代は、その空気に少しだけ戸惑う。



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この世界では、子供は希少だ。



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管理され、選別され、計画される存在。



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だから、“普通の子供らしさ”を見る機会が少ない。



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部屋へ入る。



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そこには、一人の少年がいた。



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十歳くらい。



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小柄で、髪は少し乱れている。



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しかし目だけは妙に真っ直ぐだった。



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少年は神代を見る。



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そして、すぐに気づく。



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「あ」



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「男だ」



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その言い方には欲望がない。


期待もない。



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ただ、“珍しいものを見た”という純粋な反応。



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神代は少しだけ息を吐く。



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こんな視線は初めてだった。



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少年は近づいてくる。



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「ほんとにいるんだ」



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管理官が止めようとする。



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「接触距離を――」



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「いいです」



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神代が先に言う。



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管理官が止まる。



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少年は神代を見上げる。



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「ねえ」



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「外ってどんな感じ?」



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神代は少し黙る。



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質問の意味が分からない。



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「普通です」



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少年は首をかしげる。



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「普通って?」



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また、その言葉。



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普通。



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最近、その単語ばかりが神代を追いかけてくる。



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「人がいて」


「生活していて」


「問題はありません」



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少年は少し考える。



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そして言う。



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「それ、楽しいの?」



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答えられない。



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少年はさらに続ける。



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「ぼくね」



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「ここ出たら、友達作りたい」



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「あと、好きな人もほしい」



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管理官が記録を止める。



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空気が変わる。



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“好きな人”。



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この世界では、効率の悪い概念。



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少年は気づかない。



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「みんな、変な顔するんだ」



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「なんで?」



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神代の胸が少し痛む。



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理由は分からない。



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だが、その質問に答えられる人間が、この世界にはほとんどいないことだけは分かった。



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少年は神代を見る。



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「ねえ」



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「お兄さんは、好きな人いる?」



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沈黙。



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梨沙の顔が浮かぶ。



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だが、それが何なのか分からない。



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好き。


必要。


安心。


依存。



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境界が曖昧だ。



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神代は、何も言えない。



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少年は少し笑う。



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「難しい?」



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その笑顔は、壊れていなかった。



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まだ削られていない。



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だからこそ。



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神代は怖くなる。



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この子も、いつか。



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管理官が会話終了を告げる。



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少年は最後に神代へ言う。



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「ねえ、お兄さん」



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「ちゃんと、自分で決めた方がいいよ」



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その瞬間。



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神代の内部で、何かが大きく揺れる。



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地下の男。


壊れた女性。


1980年の男。



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そして、この子供。



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全員が同じことを言っている。



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“選べ”



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部屋を出る。



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扉が閉まる。



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遮断。



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神代は廊下で立ち止まる。



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呼吸が浅い。



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胸が重い。



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世界は正常だ。



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なのに。



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“正常であること”が、急に恐ろしく感じる。



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端末が通知を出す。



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【長期管理移送:最終承認】



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決定。



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もう、止まらない。



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神代は壁にもたれる。



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そして初めて。



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心の底から思う。



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「……逃げたい」



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その感情は、この世界では存在してはいけないものだった。



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(第3章 第3話・終)

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