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男女比1:99の世界で“男”になった俺は、愛ではなく管理対象として扱われる  作者: こうた
第2章異物の出現と揺らぎ

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第5話選ばれない場所

数日後。


神代湊は再び、特別観察施設へ呼び出されていた。



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理由は開示されていない。



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だが、分かる。



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1980年の男だ。



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施設内は以前より警備が増えていた。



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監視ドローン。封鎖扉。記録装置。



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たった一人の男のために。



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それが逆に異常だった。



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「状態が安定しません」


管理官が言う。



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「価値観干渉が継続しています」



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神代は歩きながら聞く。



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「処理は」



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「検討中です」



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検討中。



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つまり、“正解が決まっていない”。



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この世界では珍しい状態だった。



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封鎖区画。


扉が開く。



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男は前回と同じ場所にいた。



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だが、目が違う。



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観察される側ではなく、観察している目。



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神代を見る。



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「またお前か」



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「確認です」



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男は笑う。



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「便利な言葉だな」



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沈黙。



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神代は記録端末を開く。



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しかし男が先に話し始める。



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「なあ」



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「お前、楽しいか?」



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神代の動きが止まる。



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楽しい。



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その単語は理解できる。



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だが、最近少し分からなくなっていた。



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「普通に生きて」


「普通に管理されて」


「普通に選ばれて」



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男は天井を見る。



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「それ、人生か?」



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神代は答える。



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「この世界では普通です」



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男は即座に返す。



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「普通って誰が決めた?」



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また同じ感覚。



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内部の何かがズレる。



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男は続ける。



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「俺の時代にも、管理はあった」



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「でもな」



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「好きな奴と笑って」


「嫌な奴と喧嘩して」


「勝手に生きてた」



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「お前ら、全部決められてるじゃねぇか」



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神代は言い返せない。



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なぜなら、それは否定できない事実だからだ。



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男は神代を見る。



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「お前さ」



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「誰かに選ばれたことはあるんだろうな」



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「でも」



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少し間が空く。



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「自分で選んだこと、あるか?」



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空気が止まる。



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神代の中で、今まで積み上がっていたものが少しだけ軋む。



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適合。


役割。


期待。


制度。



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全部、“与えられたもの”だ。



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男は静かに言う。



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「それ、人間っていうのか?」



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警告音。



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【感情干渉値上昇】



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管理官が前に出る。



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「会話を終了します」



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だが男は止まらない。



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「なあ、神代」



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初めて名前を呼ばれる。



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「お前、どこにもいないぞ」



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その言葉が、深く刺さる。



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管理装置が起動する。



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拘束フィールド。


視界遮断。



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男の姿が白く消えていく。



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それでも最後に声だけが残る。



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「選ばれてるだけじゃ、生きてるって言わねぇよ」



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遮断。



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静寂。



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施設を出る。



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空は変わらない。



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街も変わらない。



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だが。



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神代は初めて、“帰る場所”が分からなくなっていた。



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自宅。


施設。


役割。



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どこにも、“自分”が存在していない。



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夜。


窓ガラスに映る自分を見る。



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そこにいるのは男だった。



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しかし。



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“神代湊”ではない気がした。



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「俺は……」



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続きが出ない。



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その瞬間。


端末に通知が入る。



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【長期管理対象:最終選定段階】



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沈黙。



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世界は、もう待ってくれない。



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(第2章 第5話・終)

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