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男女比1:99の世界で“男”になった俺は、愛ではなく管理対象として扱われる  作者: こうた
第2章異物の出現と揺らぎ

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第4話見られるということ

夜の都市は静かだった。



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騒音は制御され、光量も均一化されている。


不安を煽る暗さも、過剰な刺激もない。



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人類は長寿を手に入れた。


その代わり、“感情の振れ幅”を削った。



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神代湊は、帰宅後もしばらく眠れなかった。



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端末には、今日の記録が並んでいる。



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適合率。面談評価。生体安定値。



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すべて正常。



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なのに、自分の中だけが少しズレている。



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「“人として見られたこと、ある?”」



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梨沙の言葉が残っている。



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意味が分からない。



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だが、分からないまま消えない。



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通知音。



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【外出許可申請:承認】

【同行者:一ノ瀬梨沙】



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神代は少し止まる。



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梨沙から直接連絡が来ることは珍しい。



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短い文章。



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『少し歩こう』



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外へ出る。



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夜風は少し冷たい。



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待ち合わせ場所には、梨沙がいた。



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「来たね」



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「用件は」



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梨沙は少し笑う。



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「そういうとこ」



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並んで歩く。



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街は静かだ。


だが完全な無音ではない。



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遠くで笑い声がする。


交通制御音。


広告映像。



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“普通の生活”。



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しかしその中で、神代だけが浮いている。



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視線が集まる。



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一瞬。


また一瞬。



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女性たちが気づく。



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「男」



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声には出さない。


だが空気が変わる。



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距離が詰まる。



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無意識。


本能。


制度。



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全部が混ざった視線。



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神代は少し歩調を速める。



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梨沙が言う。



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「嫌?」



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神代は即答できない。



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嫌。


その感情もまた、この世界では曖昧だった。



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「慣れてる」



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ようやく出た言葉。



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梨沙は少しだけ悲しそうに笑う。



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「それ、慣れちゃダメなんだよ」



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その瞬間、一人の女性が近づいてくる。



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「すみません」



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丁寧な声。


だが目だけが熱を持っている。



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「少しだけ、お話を――」



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梨沙が前に出る。



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「今日は管理外です」



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女性は止まる。



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しかし視線だけは離れない。



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神代を見る。



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“人”ではなく、“希少性”を見る目。



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その瞬間。



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神代は初めて、少しだけ息苦しさを覚える。



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女性が去ったあと、梨沙が小さく言う。



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「分かる?」



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神代は答えない。



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「みんな、湊を欲しいって思ってる」



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「でも」



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「湊自身を見てる人、ほとんどいない」



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夜風が吹く。



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神代は立ち止まる。



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そして初めて思う。



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自分は今まで、“誰か”だったことがあるのか。



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適合男性。


高遺伝子個体。


管理対象。



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それは役割だ。



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だが、“自分”ではない。



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梨沙が神代を見る。



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その目だけが違った。



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欲望でもない。


期待でもない。



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ただ、“見ている”。



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「湊」



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「苦しい?」



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神代は答えようとして、止まる。



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言葉が分からない。



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だが。



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胸の奥に、初めて名前のない感覚がある。



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「……分からない」



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それが、本音だった。



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梨沙は少しだけ安心したように笑う。



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「よかった」



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「まだ、壊れてない」



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その言葉が、静かに刺さる。



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遠くで、管理放送が流れる。



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【夜間行動制限時刻まで残り三十分】



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世界は正常に動いている。



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だが神代の中だけで、何かが静かに崩れ始めていた。



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(第2章 第4話・終)

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