第九話 遊園地
美咲の遺体が消えたこと、慶助の掲示板の書き込みのこと。
全てを話し終えた俺の前で、ベンチに座った先輩は膝の上で拳を震わせていた。
「……ここ……廃墟探索二回目に参加する人数、四十人を超えているみたいなんだけど私の気のせいかしら」
「え!」
俺は先輩からスマートフォンを一旦渡してもらうと書き込みを確認する。
「本当だ……四十人以上いる……」
どうしよう。まずいなんてもんじゃない。
こんなにも参加人数が増えているなんて。
下手すると卵の呪いが拡散してしまう!
「二回目の廃墟探索は、今から二週間後だって? そんな、早くみんなを止めないと……」
「――いいわ、慶助の尻ぬぐいは私がするわ」
冷え切った先輩の声音に、少しだけ恐ろしさを感じながら俺は慶助をフォローする。
「多分、慶助も悪気があったわけじゃなく……あいつも俺と同じで呪いをとこうと必死なんだと思います」
慶助に対する怒りは俺も持っている。
でもそれに引きずられて何もできなくなっては無意味だ。
今度、彼に会うときは何事もなかったようにして、何かしら進展があるようにしよう。
俺の言葉に御子神先輩は力なく首を横に振る。
「慶助を責めるよりも四十人以上もの人を救うほうが先だわ」
先輩は立ち上がると脇に置いていた鞄を手にする。
立ち去ろうとする先輩の背に向かって俺は声をかける。
「情報取るだけ取って俺をポイ捨てですか」
「嫌な言い方をするのはやめてちょうだい」
立ち止まった先輩は嫌そうに顔を歪めながら言う。
「私はね……もっとわかりやすく言うと、あんまり言いたくないけど、四十人の人たちと同じようにあなたも危険な目にあわせたくないの」
「でも俺、先輩も危ない目にあわせたくないです」
「そうね、あなたはそう考えてくれている。だからどうすればいいか考えているのよ。あなたは慶助とは違って私の言うことは聞いてくれないから!」
「慶助?」
――俺だって何かしてーんだよ。何もできねーなんて、絶対に言わせねーよ
俺の脳裏に、俺が慶助の書き込みを非難したときに、咄嗟に彼が呟いた言葉が思い浮かぶ。
最近の慶助もどうかな。
俺と同じように先輩の言うことを素直に聞くようには思えないが。
先輩が慶助を甘く見ているように思えて不安にはなるが。
今、あえて忠告する必要はないか。
だけど、こんな嫌味はつい口にしてしまう。
「慶助も俺と同じように……そして俺みたいに使い捨てしたんですか」
「だから嫌な言い方をするのはやめてくれないかしら」
顔を背けながら先輩は言う。
「それに慶助については、あなたには関係ないでしょう?」
それはそうなんだが。
「そういえば御子神先輩の卵、大きくなっていませんか? あれは育ちきると危ないので」
「知っているわ。成長すると中から鬼が出てくるのでしょう」
「鬼?」
俺の言葉に、しまったという顔をした先輩は誤魔化すように咳払いする。
なるほど、あくまで呪いに関しては詳しく教えてくれないスタイルか。
「どちらにせよ、そういうのを理解してくれているってことは、卵は小さいままなんですね」
「――秘密」
先輩は無表情に答える。
秘密ってなんだ。
ものすごく心配になってくるんだが。
そんな俺の不安をよそに、くるりと先輩は俺に背中を向けたのだった。
帰ってきた俺を待っていたのは、予想通り、秀義のにやけた面だった。
「もう帰ってきたのかい。女の子と夜デートでもしてきたんだから、もっと長い時間をかけてほしい気持ちもあるけど……でも不純異性交遊は感心しないなー」
「秀義、聞きたいことがある」
「なんだい? いいよ、何でも聞いてごらん」
御子神先輩のことだ。
頑なに俺を拒む彼女を説得するにはどうしたらいいか。
興味しんしんといった目で見つめてくる秀義に尋ねたくはないが、女性の心に疎いのだから仕方ない。
秀義は、その身長の高さと穏和な外見から女子にはかなり人気だ。去年のバレンタインデーもありえない数のチョコをもらっていた。山積みだった。家族で山分けしたのは記憶に新しい。
こういうのは適材適所だ。
「た、例えばだ、女の子に対して協力したいと言ったのに断られたのはどうしてだ?」
「親密さが足りないんじゃないかな」
「し、親密さを増やすには……」
「この間みたいに部屋に目当ての女の子を呼べばいいと思うよ。今度は二人きりで」
「ふ、二人きりとか無理だ」
「もー、兄さんは初心だなー。それだったら、まずはチャットできるコミュニケーションツールを使えばいいんじゃない?」
「そういうのが疎い子なんだが」
「尚更良いじゃない。そういうのを手取り足取り教えるのもコミュニケーション手法だよ」
そ、そうか。
なるほどな。
釈然としないが俺は秀義に従うことにした。
◆
平日の放課後。
結局、学校で御子神先輩を捕まえられず、授業が終わるなり俺は先輩の教室に行くことに決めた。
先輩の教室のある階へと足を踏み入れたが、廊下に普段より人が多く集まっている気がする。
いつもと違う喧噪を怪訝に思いながら俺は足早に先輩の教室に向かおうとして――
廊下で言い争う慶助と御子神先輩の姿を見つけた。
何だあれ?
喧嘩している?
珍しい慶助の険しい顔に、俺は戸惑いを隠せないでいた。
「どうしたんだよ、二人とも」
慶助と御子神先輩の喧嘩を見ていられず俺は二人の間に割り込んだ。
「何でもねーし!」
普段の慶助からは信じられないような険しい顔と荒々しい声に、俺は驚きながらも事情を聞こうとしたが。
「義忠には関係ねーし! 祥子先輩、俺、諦めねーからな!」
そう言い残して慶助はどこかへ去っていった。
「今度はあなたなの?」
先輩は不機嫌そうだ。
先輩を怒らせるなんて、一体慶助は何を言ったんだ。
こんな状態の先輩にコミュニケーションツールの話をしても相手にされるわけがなく。
「アプリ? インストール? 方法がわからないわ」
「時間の無駄だから、もういい?」
なんて酷いことを言われる始末だ。
仕方ない。
作戦を変えよう。
とにかく電話やメールで連絡が取れない現状はどうにかしたい。
俺はわざと苛々した様子を見せながら言う。
「……わかりました、先輩。じゃあ今度から電話くらいは出てください。そうでないと俺、暴走しますよ」
「何それ、脅しのつもり? そんなこと言わなくたって、ちゃんと次からは気をつけるわよ、大丈夫よ」
その大丈夫が信用ならないんだが。
釈然としないような表情で先輩は答えたのだった。
御子神先輩にふられてしまった俺は、次の作戦に移ることにする。
家に帰るなり、俺は秀義に相談した。
借りをたくさん作ることになるが仕方ない。
秀義は居間でノートパソコンとカメラを繋げて何やら操作していた。
そっと画面を盗み見る。
カメラからパソコンにデータを移しているようだ。
また同時にデータ整理もしているらしい。専用のソフトを起動してキーボードを叩いている。
俺の話を聞いて秀義はパソコン画面を見ながらフンフンと頷く。
「コミュニケーションツールで交流しあうのも失敗したって? 前みたいにみんなを呼んで……兄さんの部屋だと無骨すぎてムードがないから、遊園地で遊べばいいんじゃないかな」
俺の相談よりカメラのほうが重要なんだろう。
わりといい加減に答えている印象だ。
しかし遊園地は不謹慎だ。とはいえ御子神先輩と喧嘩していた慶助もフォローしたほうがいいだろうし。
うんうん考えていると秀義が楽しそうな声で話しかけてくる。
「ねえねえ、それで兄さんのお目当ての女の子って誰なのかな? あの部屋に呼んでいた子……ギャルっぽい子と銀髪の子、どっち?」
パソコンのディスプレイを指差してくる。
そこには美咲とキアラが映っていた。
こいつ、いつ写真をとったんだ。
本人に断りもなく。まったくいい加減にしろ。
「どっちも違う。黒髪ロングの凄まじい美人。大分電波が入っている感じの。お前は会ったことがないよ」
「黒髪ロング、美人に電波。もしかして霊能力がどうのこうのって始終アピールしている面白美人?」
げ、何で知っているんだ。
面白美人って酷い言われようだな。
先輩、知ってんのかな。
「お前の中学でも有名なのか、もしや」
そう俺が言うと秀義は、再びパソコンの作業に戻る。
「僕は見たことないけどもの凄く美人らしいね。いつかは写真をとりたいな。
それはそうと兄さん……顔だけで女の子を選んじゃ駄目だよ。人間、中身が大事だからねー」
「やかましい」
別にそういう意味で御子神先輩と親しくなりたいわけじゃない。
まず俺は慶助に電話することにした。
御子神先輩と喧嘩しているようだし、こじれるくらいだったら誘わないほうがいい。だが慶助はというと。
「ひゃっほい! 祥子先輩となら、どこでもついていきます! 俺も祥子先輩に謝りたかったし!」
喧嘩していたことはどこへやら。
平気な声で喜んでいた、が。
「でもさ、義忠。ひとつお願いしていい?」
「何だ」
「みんなと遊ぶなら遊園地がいいんだけど、俺」
まさか慶助のほうから遊園地という選択肢を提示されるとは思わなかった。が、俺は難色を示す。
「さすがに……今のタイミングだと不謹慎だろ。別の場所にしないか?」
「そういうの気にして自粛してばかりいると悪循環じゃね? あえて、このタイミングでぱぱーって遊ぶことに意味があると思うけど? な、頼むよ!」
お願い、お願いと連呼されると俺も嫌だと強く言えない。
御子神先輩次第だと答えて電話を切った俺は、早速、一番の難関である御子神先輩に電話すると、驚くことにすぐに出てくれた。
「先輩、電話に出てくれて嬉しいです」
「あらそう? じゃあ、頑張って電話を見えるところに出して待機した甲斐があったわ」
ふふと先輩は嬉しそうに笑った。
「バイブレーションにしていると気付かないのよね。次の日に気付くことなんていつものことで……タイミングを逃すとかけ直しづらいのよね。いつもごめんなさいね、猪生くん」
申し訳なさそうに言う先輩に俺は言った。
「その辺は気にしてないので大丈夫です。それより先輩、みんなで遊びに行きませんか?」
「私は平気だけど、あなたたちは大丈夫なの? 今の状況でしょう?」
「俺もそれは思ったんですけど……慶助曰く自粛するのも悪循環じゃないかって。そういう面もあるのは確かで」
「そうね、どうしようかしらね……慶助も来るのよね?」
「はい……慶助と喧嘩していましたよね、仲直りしたくないですか?」
そう俺が言うと先輩はしばらく考え込んだのち「そうね」と迷いを振り切るように言った。
そうして俺たちは電車で三〇分くらいの距離にある遊園地に集合していた。
メンバーは俺と御子神先輩、キアラと慶助だ。
ちなみに先輩と違ってキアラは誘うとホイホイついてきた。
「私は猪生先輩と一緒だったら、どこでもいい」
こんな感じだった。
こ、こいつ、呪われているっていうのに呑気なものだな。
そう俺が呆気にとられるくらいだ。
恐怖心を糧に育つ卵の性質を考えると、そのくらいのほうがちょうどいいのかもしれないが。
早速アトラクションで遊ぶことになったのだが、キアラができたばかりの人気のアトラクションに行きたいというので、みんなで並ぶことになった。
の、だが。
長時間、並ぶということでアイスを買いに行ったキアラだったが、持って帰るときに慶助とキアラ自身の服にアイスをぶつけてしまったのだ。
「すみません、祥子先輩。こんなザマじゃ祥子先輩の横に並ぶなんて畏れ多すぎます」
「ごめんなさい、先輩。私、トイレで何とかしてくる」
そうして二人はしばらく戻ってくることはなく、そのままアトラクションに二人で入ることになった。
ホラー風味のアトラクションで、二人でゾンビのたむろう研究所に侵入し、ゾンビを倒しながら出口を目指すというものだった。ゾンビを倒すにはペンライトを用いる。CGをうまく活用して臨場感あふれるアトラクションで、かなりの人気ではあるのだが。
「思わぬところで二人きりになったわね」
「そうですね」
俺は先輩と二人きりで若干、いやかなり緊張していた。
崩れかけの木造の研究所、あちこちに怪しい液体の入ったフラスコやビーカーが置かれている、雰囲気まんてんの場所だ。そこを探索しながら、ぶわりと浮かんでくるゾンビのCG目がけてペンライトを当てて倒していく。
所々に暗号が置かれており、それが次のエリアを指し示すようだ。
ちなみに間違った場所に行ってしまうと、そのまま出口直行ルートに繋がり、クリアできなかったと見なされるらしい。このアトラクションにクリアすると遊園地で人気のマスコットのレアカードが貰えるということで、リピーターも多くついているようだ。
俺は暗号を見て青い扉だと思い進もうとしたのだが。
「違うわ、こっちよ」
ぐいと先輩に手を引っ張られ、赤い扉までつれてかれる。
思わず顔を真っ赤にした俺の顔を覗き込み、先輩はからかうように笑った。
「随分、初心なのね」
「別にそんなんじゃ!」
思わず否定した俺を先輩は微笑んだ。
「ふーん? あら、もしかして異性と手を繋ぐのは初めて?」
「ち、ちが……」
「違うの? それは残念。私があなたの初めてだと思ったのに」
「違いません」
即答する。
「……ちょっと随分、素直すぎじゃないかしら」
目を細めて嘆息する先輩に俺は返答する。
「残念な先輩の期待を裏切りたくはなかったもので」
もしかするとこれは先輩と親密度を高めるチャンスなんじゃないか。
俺は先輩と手を繋いだまま言った。
「あの、俺、しつこいようで悪いんですけど先輩の力になりたいんです」
「んー」
先輩は俺から手を離した。
あ、残念。
先輩は顎に指を添えて考え込む。赤い扉を開きながら、ゆるりと口を開く。
「あなたは多少の素質はあるのよね」
仕方ないといった気持ちを多く含んだ声で言う。
「それにあなたの場合は彼と違って、私の言うことを聞いてくれないし、勝手に動くし」
先輩、それは見誤っている。
今の慶助は先輩の言葉なんて聞く耳を持ってないぞ。
「……あなたの気持ちも理解できるのよ。忘れたい感情があるのよね。身体を動かせば、そのときだけは……」
そんな先輩の発言に榛名について考えてばかりいる自分の心を見透かされたようでぎくりとする。
先輩のアドバイスもあり、無事アトラクションの正しい出口に辿り着いたようだ。出口から外に出たが、まだ慶助とキアラはトイレにいるようだ。
どうしようか考えているとき、再び先輩が俺の手を握りしめてくる。
「もう少しデートする?」
「でも、みんなが……」
そう俺が戸惑いながら言うと先輩は指で自分の唇を触りながら、からかうような笑みを浮かべた。
「メールで連絡すればそれで済む話でしょう? それに私、個人的にあなたに話したいことがあったのよね」
あ、これ、良い話じゃないな。
そう本能的に悟った俺はぞくりと背筋に寒気が走るのを感じた。
そうして俺は先輩から説教を受けていた。
俺と先輩はメリーゴーランドの馬車の中に座っていた。
向かい合うように座っているため、かなり近くに先輩の存在を感じ、俺は若干、いや大分緊張している。
そんな俺の様子は先輩に伝わっているのだろう。
余裕の笑みを浮かべた先輩は俺に話しかけてくる。
「根拠のない自信で行動するのはやめなさい。わかった?」
「は、はい」
「希久本さんの件だって、私が来なかったらどうなっていたか。女の子を危険な目にあわせちゃ駄目でしょう?」
「は、はい」
俺は何度も弱々しく頷いた。
そうか、なるほど。
俺にその話をしたいがために二人きりになったのか。
静かに怒る先輩を前にして俺は身体を縮ませる。
「私があなたたちに何も話さないのは、意地悪しているわけじゃないの」
先輩は真面目な顔で話を続ける。
「中途半端な情報は、余計に危険なことを招く可能性があるのよ」
そう続けて先輩は細い指で俺の顔を差してくる。
「最近、あなたが私に絡んでくるのも、きっとどうにかしたいという気持ちがあなたの中にあるんだと思う。色々知りたいのよね。それを教えることは簡単だわ。だけど、私が何かを口にすることで、あなたを危険に巻き込むことだけは決してしちゃいけないのよ」
必死に説得するように俺に語りかける先輩に対して申し訳なく思う。
先輩は俺の手を握りしめてきた。
「……お願い、猪生くん。私の邪魔をしないで。勝手なことをしないで。危険に巻き込まれないようにして。できるだけ安全な場所にいてくれる?」
透明な双眸で、真剣な顔をして先輩は言葉を紡ぐ。
そんな表情をされたらいやだとは、とても言えない。
俺は大人しく頷くことにした。
「――猪生くん」
メリーゴーランドから降りたあと、こっちに向かってくる慶助とキアラに気付いた先輩は俺の耳元で囁くように言った。
「今日、誘ってくれてありがとう。私も気分転換になったわ。説教してごめんなさいね」
戻ってきた慶助はというと、
「義忠、祥子先輩と一緒にアトラクションで遊ぶなんてズルイ」
と大騒ぎだった。
その日は不機嫌になった慶助とキアラを宥めるために夕方になるまで彼らの望むように付き合ったのだった。
◆
帰り道、先輩とキアラと別れ、慶助と二人きりになったときに慶助に話しかけられた。
俺は慶助と一緒に帰っているというのに、彼に話題も振れず、考え事をしていた。
先輩の言うように、俺は何もしないほうがいいのか?
それで先輩が困らないというのなら、大人しく従うべきなのかもしれない。
先輩の邪魔をしたくない。
なら、俺はやっぱり――
「今日、祥子先輩と二人きりになったときに、何を話していたんだ?」
急に慶助に話しかけられて俺は顔を持ち上げた。
彼にしては薄暗い声をしていた。
「何って……」
説教されたなんて言いたくないな。
だが誤魔化しても仕方ない。
「いつものように忠告されただけだよ、勝手に動くなって」
「へえ」
底冷えするような返答に、俺は違和感を覚えた。
「慶助?」
そう呼びかけると慶助は軽やかに笑った。
「あのさ、義忠。今日、このまま俺の家に寄ってかねー?」
急に話題を変えた慶助を不審に思いながらも俺は頷く。
「別にいいけど」
親にはメールで連絡すればいいだけだ。
慶助の家に着くなり、俺は家の中ではなく、その裏にある物置に案内された。
プレハブでできた物置を前にして俺は戸惑いの声を上げる。
「慶助?」
物置?
どうしてこんな場所に俺を連れてきたんだ?
「実は、今日、俺さ、遊園地を指定したのも意味があって……」
「あ? そうなのか?」
「ああ。ムードある場所のほうがいいのかなって思ってさ。お前と祥子先輩を二人きりにしたのもわざとなんだよなあ」
え?
何だ、それ。
唖然とする俺の前で慶助は得意げに喋る。
「希久本キアラの持っているアイスが零れるように彼女を押したのは俺なんだよなあ」
「……何で、そんなこと」
明らかに慶助の様子がおかしい。
早口でまくしたてるように喋る慶助の様子に、俺は得体の知れない不安を感じ取る。
「何でって……俺じゃ相手にしてくれねー先輩だけど、お前なら違うのかなって試したくなったんだよなあ」
「何を言っているんだよ、慶助。そんなこと……」
「だから嘘を言わなくていいんだよ。本当のこと、話せよ。先輩は義忠には、色々教えてくれたんだろ? お前って特別に気に入られているみたいだしさ」
「嘘なんてついてない! 本当に先輩から何も聞いちゃいない!」
「あーあーあーあー」
慶助はわざとらしく大きな息を吐き出した。
「わかったっつーの。あーあ、まだ見せたくなかったつーのに」
何を?
何の話をしているんだ?
「義忠、さすがのお前もこれを見たら、本当のことを隠し通せねーだろ? な?」
そう言いながら慶助は物置の戸を開けた。
そこにあるものを見て、俺は愕然とする。
「その、卵は――」




