↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/12

Realiser episode 001 承認

エレベーターが止まった。相田健也は反射的に腕時計をみた。

午前二時十七分高層タワーの地下駐車場から自分のオフィスへ戻るはずだけのつもりだった。

エレベーターのパネルに手を伸ばした、あれ?ボタンが一つ多い。見慣れた並びの数字の上に、読めない文字があった。

 漢字?数字?いやぁー、数字じゃない。じゃ、文字、はたまた、記号なのか・・・・。健也は一人笑おうとした。


 しかし、指は自分の意思を無視してそのボタンに触れた。

少しフロアーに着くまでに長く感じた。


 扉が開いた先は、ホテルのロビーのような空間。

照明は落ち着いた琥珀色で部屋を照らしている。

低いソファー、一輪の白い花。


 「お待ちしておりました 相田様」男性が立っていた。

見た目の年齢はわからない。紺色のスーツ、細い縁枠のメガネ、穏やかな表情。


 「密話勇造(みつわゆうぞう)と申します」

促されるまま健也はソファーに、腰を下ろした。


 「ここは・・・何ですか?」

 「はい、架空戒でございます」

 「架空・・・戒」

 「はい、存在しないフロアー ただ見える方には見えるんです」

密話は相田の正面に座り、話し続けた。

 「エレベーターの表示が見えたということは、相田様には口にできないほどの強い願いがあるのではないでしょうか?」

健也は黙った。


三十八歳、中堅広告代理店の企画部、同期はとっくに管理職になっている。自分だけが、平社員。

企画書はもお、何十回と通らない。「惜しいんだけど、もう一歩」と言われ続け、もう、五年になる。


"惜しい"ではなく、認めてくれと思う、ただ一度でいいから。

 【相田のおかげだ】と言ってほしい、それだけなんだ。


"認められたい"声に出したのは無意識だった。

その声は密話の耳に届き、頷いた。


 「相田様の要望を受理可能ですが、条件がございます」

 「条件?」

 「代わりに、何かをいただきます、その何かとは叶えた後に、わかります」


怪しい、怪しいに決まっているという疑いの気持ちがありながら、健也は言った。


 「た・・・・頼む」


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


翌朝から、空気が変わっていた。

 企画案がまず、通った。上司が驚いた顔をした。役員が名前を覚えて、同僚が一目を置くようになった。


 半年後、健也はチームリーダーに抜擢された。

 一年後、部長代理になった。

 フロアに入るたびに視線を浴びるスポットライトのように感じていた。


 「相田さんのおかげです」という言葉を何度も耳にした。認められていた、確実に・・・・・。



ただ、ある夜、健也は気が付いた。帰宅し鍵を開けて部屋の電気を付けたいつも通り。

 でも何かがおかしいぞ、テーブルの上に写真立てがある。自分と誰かが映っている。


 「この人・・・誰なんだろう」 

隣に映る女性の顔が思い出せない。スマートフォンを開くと、連絡先には「奈緒」と言う名前があった。着信履歴はほぼ毎日、どうしても、思い出せない。


顔・声・出会い・自分との関係も。


慌てて電話をかけた。呼び出し音が鳴る。

 「もしもし健也?どうしたのこんな時間に」

声を聞いてもやっぱりわからなかった。



 架空戒は、願いを叶えた。代わりに、健也が差し出したものは、"大切な人の記憶"だった。




 



 









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。