王国編 第6話
夢の中なのだろうか。気づくとリアナは見覚えのある庭にいた。あちこちに咲く花が見事である。
ぼーっと周りを眺めていると、誰かの声が聞こえた。
「リアナ嬢?大丈夫か?」
ふと振り返ると向かいに座っていたのはセフィロース王国第二王子、レオン・セフィロースだった。
目の前の小さなテーブルには紅茶と茶菓子が置いてある。
「体調でも悪いのか?」
「い、いえ!こめんなさい。少しぼーっとしてて。でももう大丈夫ですわ」
自分で言っていながら不思議だった。こんな口調、久しく使っていなかったからだ。
自分の口から出たのも驚きである。そうだ私はレオン様とお茶会をしていたのだった。
「それでレオン様、私の作ったクッキーはどうですか?」
「ああ、とても美味しいよ。さすがリアナ嬢だ。でもね、リアナ…」
周りの景色が歪む。ヒビが入り、闇が広がる。
「私は君がとても憎たらしいよ…」
レオンの顔がみるみる変わっていく。リアナはこの顔を知っている。
忘れるわけがない。自分を殺そうとした時のあの顔。
「私との婚約を破棄しただけでなく、地位まで欲するとは…心底見損なったよ…」
「違う…違うのですレオン様!」
「うるさい!触るな!お前はもうこの国に必要ないんだよ!」
レオンはリアナの腕を掴み、暗闇に突き落とした。
落ちていく。どんどん落ちていく。あの時見た光景と一緒だ。
(いやだ。いやだ!見捨てなで…置いてかないで…私を…)
ー(一人にしないで…)ー
「ハッ!…ハアハア…ハア」
見覚えのある天井だ。優しく温かい木の天井。鼓動が、息が、荒々しいのが自分でも分かる。
「リアナ…?」
ゆっくりと声の方向に顔を向ける。整った顔、綺麗な銀色の髪。ルイは心配そうな顔で見ている。
ふと、自分の手が何かを握っていることに気づいた。ルイの手だ。
コツゴツした男性の手。でも、優しく温かい手。普段のリアナならば速攻で振り解いているだろう。
だが今は離したくなかった。離してほしくなかった。落ち続ける自分を掴んで留めて欲しかった。
「ルイ…ルイぃ」
その声は普段のリアナからは想像もできないほど、か弱く、そして小さな声だった。
リアナはルイの手を握ったままベットから起き上がる。
「ルイ…私は…私は…」
「リアナ、落ち着いて…ゆっくりでいい」
リアナは少し気分を落ち着かせ話し出した。
「私はずっとこの国のため、民のためにこの剣を振るつもりだった。今も、そしてこれからも…」
「うん…そうだね」
「でも…でもね、私は王国から捨てられた身なの…」
リアナはルイの手をぎゅっと握る。
「ねえ、ルイ…私は…」
リアナの目から大粒の涙が溢れる。
ー「何のために…剣を…振ればいいのかなぁ…?」ー
ルイはすぐには答えられなかった。でも、リアナの手をぎゅっと握り返して話し始めた。
「確かに、今のリアナは何者でもない。貴族でも、騎士でもない。剣を振る理由なんてどこにもない」
そう、リアナは”背負いすぎている”のだ。貴族として家を背負い、騎士として国と民を背負ってきた。
その背負ってきたものが、努力が、今、音立てて全て崩れ落ちたのだ。
だがそれはリアナにとって”開放感”ではなく、”無力感”だったのだ。
今、何も持ち合わせていないという自分の弱みに押し潰されそうになっている。
「でもねリアナ、何者でもないからこそ何にでもなれるんだ」
「何に…でも?」
「そうだ。剣を振る理由がないなら探してみよう。創ってみよう。振りたくないなら振らなくてもいいんだ」
ルイはリアナのもう一方の手も握る。
「いいかいリアナ、これからの人生、君はやりたい事、背負いたいものを自分で選んでいくんだ」
「どんな選択をしたって俺は否定しないし失望しない。絶対にだ」
ルイの目は真剣そのものだった。
「うん。わかった。私、考えてみるよ」
涙を拭いながらリアナは笑った。それは貴族や騎士、はたまた剣士の笑いではなく
一人の女性としての笑いだった。




