神聖国編 第18話 『一緒に』
〜数時間前、帝国王城内〜
「エルフの森です」
暗影の一人が報告したのは神聖国がエルフの森に向かっているということだった。
ルイは反射的に椅子から立ち、立てかけてあった軍刀を手に取る。
そして何も言わずに職務室を出て行こうとした。
「お待ちください。ルイ様」
「……なんだ?」
「現在、ルイ様に外出許可は出ていません。ですからーー」
「ーーだからなんだ?悪いな。俺は急いでいるんだ」
部下の一人がルイを止めようとしたが、その威圧感に足がすくむ。
普段、明るく温厚なルイの目は冷たい光を帯びている。
「……ですが!」
「…いい、行かせてやれ」
「ええ!?」
その発言をしたのはマークだった。
いつも、総司令官としてルールに従順だったマークが初めて、それを破ったのだ。
それは情けだったのか、兄としての優しさだったのかはわからない。
「ルイ、分かっているな?」
「……はい。ありがとうございます。兄上」
ルイは足早に職務室を後にするのだった。
ーータッ、タッ、タッ、タッ
ルイは長い長い王城の廊下を走っていた。途中、何人もの使用人とぶつかりそうになったが、今はそんなことを考えている場合ではない。
すると、走っている途中、視界の端にメーリアの姿が映った。
メーリアは帝国との戦争が終わってからこの城で雇われている。
ルイは足を止め、メーリアに声をかけた。
「メーリアさん!大変だ!リアナが!」
「……ーー!リアナ様に何か!?」
「ああ、神聖国の奴らがエルフの森へ向かった。リアナ達を追っている!」
「何ですって!分かりました。私も行きます」
「話が早くて助かります」
二人は共に走り出し、王城を出たのであった。
そして今、こうしてリアナの前に立っている。
恐らく、帰ったらこっぴどく怒られるに違いない。
帰ったら?ーーそうだ、帰ろう。これが終わったら一緒に帰るんだ。
ルイは軍刀を再び強く握り直すのだった。
◇◇◇
助けてくれた。守ってくれた。いや、助けられた。守られてしまった。
結局自分は弱くて、何一つ守れなくて、この人の隣に立てなくて……
安心感と同時に自分に対する無力感がリアナを蝕む。
やっぱりルイは強くて、頼れて、まさに理想の人だ。
(私なんか…何も…)
「リアナ」
「……」
「一つ、君にお願いしたいことがあるんだ」
何だろう?何でも一人でしてしまうあのルイのお願いとは何だろう?
聞きたい。聞かせてほしい。私に出来ることならば…
「その、何だ、俺って右目を怪我して見えないだろ?」
「……ええ…?」
「だ、だから、一人で戦うのはもう辞めようと思うんだ」
なぜかルイはモジモジしている。頬も少し赤みがかっているように見える。
するとルイは胸のポケットから何かを取り出した。
ー「だから、俺の右目になってくれないか?」ー
そう言ってルイは手を広げる。握られていたのは指輪だった。
金のリングに中央には赤く輝く大きな魔石が埋められている。
それはルイが鍛冶屋に頼んでいたものだった。
そしてルイの左手の薬指には既に同じ指輪がはめられていた。
女性に赤い宝石を贈ること、それはこの世界で共通の意味を持つ。
「これって…プロ…ポーズ…?」
リアナは恐る恐る尋ねる。ルイは赤さが残る顔を縦に振った。
右目になる。それはプロポーズと同時にもう一つの意味を持った。
ー「俺の隣で、戦ってくれないかリアナ?」ー
「……はい!」
嬉しくて、嬉しくて、笑顔と同時に涙が溢れた。
彼は私を、隣に立つものとして認めてくれたことに。
「全く、普通最初は結婚指輪じゃなくて婚約指輪でしょ?」
「え!?ごめん!俺初めてだったから全然わからなくて…」
「いいよ。その方がルイらしい!」
リアナは指輪に指を通す。そして立ち上がる。
目の前に立ちはだかる最大の敵に向かって。
ー「女神の涙」ー
オニキスの右腕が再生される。
「おやおや、プロポーズですか?神の祝福はいりますか?」
「はっ!そんなの俺たちには必要ないね!神なんかいなくったって十分幸せさ!」
ルイとリアナは隣り合い、お互いに剣を構える。
必ず、一緒に帰ることを誓って。戦いの幕は再び開かれたのだった。




