神聖国編 第16話 『新たな出会い』
トラニカル帝国の王城内、その奥に彼女の研究室がある。
彼女の名はソフィア・アシュリー。この帝国で唯一の古代魔法学者だ。
ソフィアの研究室はいつもカーテンが閉まっており、薄暗い。
そんな部屋でソフィアはいつものように研究をしていた。
あの日以来、彼女の研究室を訪れた者は誰もいない。
待ち侘びていたあの勢いのある扉の音も今は一切聞こえない。
そんな少し寂しいような日常が続いていくーーはずだった。
ーーコン、コン、コン
聞き間違えかと思った。だが、確かに今、彼女の研究室の扉を叩いた者がいた。
だが、聞こえてきたのはあの馴染みのある勢いあまりの音ではない。
「……誰?」
「ああ、よかった。入ってよろしいかな?」
ソフィアは恐る恐る扉に向かって声をかける。聞こえてきたのは男の声だった。だが、その声はか細く、どこか弱々しい。
「…どうぞ」
扉がゆっくりと開かれる。そこに立っていたのは細身の男だった。隣にはメイドらしき女が立っている。その男は病弱な体をメイドに支えられながらゆっくりと部屋に入ってきた。
「やあ、急にお邪魔して申し訳ないね。僕の名はノール・セフィロース。セフィロース王国の元第一王子といえば分かるかな?」
ノール・セフィロース。ルイから話だけは聞いている。病弱ながらも『影の策士』と呼ばれるほど頭が切れる男。王国との戦争でこちらに協力し、保護された者だ。
「あら、そんなお偉いさんがこんな場所に何の用?」
「僕が仮統治していた王国がようやく完全な統治の準備が始まってね。お役御免になった僕は帝国に送られてきたってところさ」
(そういえばそんなこともルイが言ってたっけ…)
「それでこの王城内を自由に探索する許可を貰ったから色々回っているんだよ」
ノールはそう言いながらズカズカと研究室に入ってきた。
後ろのメイドが床に散らばった資料などをノールが踏まないように避けている。
「ちょっとあなた、あんまり資料に触らないでよ」
「ああ、すまないね。彼女はアリーシャ。僕の身の回りの世話をしてくれているんだ。 アリーシャ、僕は大丈夫だからその資料たちはそのままにしてやってくれ」
「……わかりました」
アリーシャは少し不服そうな顔をしながら資料を退ける手を止めた。
赤みがかった髪にすらっとした体型、まさに理想のメイド像だ。
退けた資料も傷は一切付いていない。
「それで、君は何をしているんだい?」
「……」
ソフィアの脳裏に昔の光景が映る。
きっとルイ以外、誰にも理解されないという考えが。
否定され、馬鹿にされ、笑われるのだろう。きっとそれが“普通”なのだから。
「……古代魔法の研究よ。どう?興味は失せた?」
「ほう、それはそれは……」
自分でもなぜそのように言ってしまったのかわからない。
多分私はこれ以上、悲しい思いをしたくなかったのだろう。
だが、彼から発せられた言葉は意外なものだった。
むしろそれは彼女が望んでいた言葉だったのかもしれない。
ー「とても面白そうだな」ー
一瞬、暗い研究室が光を帯びたように見えた。
「……そう」
その時のソフィアの口元は少し上がっていたのであった。
◇ ◇ ◇
リアナとジークは帝国に向けて足を進めていた。
その足取りは少し重みを感じるものの、決して止まることはなかった。
「あの、ジークさんは帝国に帰ったらまず何したいですか?」
「そうだなー。やっぱり……ーー!? リアナ!」
リアナはジークに急に裾を掴まれ道端に転げた。
一瞬の出来事だったのでとても困惑している。
だが、目の前の地面に何かが刺さっていた。
「これは…矢!?」
振り返ると丘の先に一軍隊ほどの白い衣を身に纏った人々が立ってる。
リアナは一瞬で背筋が凍った。
すると真ん中から一際豪華な衣装をした男が近づいてきた。
白髪に青い目をしたその男はリアナに挨拶する。
「こんにちは“神臓”。迎えにきましたよ」
その男こそ神が創ったもう一人の創造物、“神器”のオニキス・ヘルメシアであった。
今回から文章の書き方を変えました。今後もこの書き方で進めようと思います。




