神聖国編 第15話 『別れ』
光に包まれた空間にその名がこだまする。
温かいはずの光は今、彼女には届いていない。
「オニキス…ヘルメシア…」
リアナも聞いたことはある。神聖国の教皇。
あの傲慢なゼノス王が唯一『狂っている』と恐れたあの大国の最高権力者。
そんな存在が今、自分を手に入れようとしているという恐怖がリアナを襲う。
「落ち着きなさい。その男がお嬢さんを狙っているとは限らないであろう?」
そんなリアナにミカエルが声をかける。
「いや、狙っているのは確実だ。実際、先週リアナが神聖国の刺客に襲われた」
「………」
そう、リアナが神聖国の刺客に襲われた以上、それは決定的な事実になる。
リアナの脳裏にあの日の光景が映る。
死を恐れず、痛みに声もあげず、ただ動き続ける不気味な刺客の姿が。
こんな時、ルイはどんな言葉をかけてくれるだろうか。
「大丈夫?」、「心配するな?」、「俺に任せておけ?」
どんな言葉でもいい。今はただ彼の言葉が欲しい。自分を安心させて欲しい。
そんな妄想をしながら、ただ、足元を見つめることしかできなかった。
数分の沈黙が続いた後、ジークが重い口を開く。
「とにかく、一度帝国に帰って情報を整理し、対策を立てる必要があるな…」
「そうですね。私も何か出来ることがあればいいのですが…」
今はただ、帝国に、自分の居場所に帰りたい。そして彼の言葉を聞きたい。
そんな重い表情をしているリアナにミカエルが声をかける。
「いいかいお嬢さん、私は役割を”選択”させに来たんだ」
「選択…ですか…?」
「ああ、何も役割を全うしろとは言っていない。未来は君が選択するんだ」
ミカエルはリアナの手を優しく握る。
その手は色白な見た目とは裏腹に温かった。まるで周りを照らすあの光のように。
「では、最後にお嬢さんの神力について話そうか」
ミカエルはそういうとリアナの背中をポンと叩いた。
「いいかい、お嬢さんは神臓だ。動力源である君が使える力は一つだけだ」
「それは一体?」
「『限界突破』、神の力を直接身体に流し込む能力だ。それは生物の限界を超える力。文字通りそれは莫大な力を与えてくれる。ただそれと同時に使用者の体を蝕む危険な力だ。」
「……それが私の、神臓としての力ですか」
「使い方はお嬢さんに任せる。ただ、自分の身を滅ぼさないことだね」
ミカエルはそれだけを言い残して説明を終えた。
リアナたちは遺跡を出て差し込む本物の太陽の光に目を顰めた。
そして、来る時に草を踏み、作られた道を辿るように歩いていく。
周りの景色はこの暗い心とは対照的にいつも通り輝いている。
歩き続けるとミカエル、ガブリエル、ウリエルの三人はある地点で止まった。
「ここから先は森の外だ。気をつけて帰るのだぞ」
ミカエルが優しく手を振る。ガブリエルは小さく会釈し、ウリエルは元気よく手を振っている。
「はい。お世話になりました」
ジークとリアナはエルフたちに別れを告げ、進み始めたのだった。
〜トラニカル帝国王城内〜
ーーバシャッ、
「あ、しまった!」
ルイは机の上のインクをこぼしてしまった。目の前の書類にインクが染みていく。
こういう時は何かしら嫌なことが起こる。そしてそれは思ったよりも早く起きた。
「報告です。神聖国の一軍に動きありです」
暗影の一人がどこからともなく現れ、報告する。
「進行方向は?」
マークはペンを置き、尋ねる。
「エルフの森です」




